灰色と大道芸
―――ザワザワ…
たくさんの出店。そこを楽しそうに行き交う、たくさんの人。ここが噂の移動サーカス…「NOA'S ARK CIRCUS」。特に何の違和感もないし、普通のサーカス団のように見えるけど。一体どんな秘密があるのか…それとも何の秘密もなく、このサーカス団には関係がないのか。
はてさて、この先にはどんな結末が待っているのかねぇ?メインテントに足を踏み入れ、席に着いた時。照明が消え、舞台上に1人の男性が現れた。
「レディス エンド ジェントルメーンお嬢はん アンド 旦那はーん!本日はノアの方舟サーカスにようお越しやした。ウチは道化師(ジョーカー)と申しまんねん。どないぞお見しり…あてっ」
ジョーカーと名乗った男性は、話しながら器用にジャグリングを始めたけど、ボールが全て頭を直撃。それと同時に観客も笑い声を上げる。
それにしても、あの人の右手は―――――
「本物の骨じゃない…よね」
「遠くてよくわからんが、恐らく義手だろう」
「オッホン!当サーカスには、皆サンを楽しませるショーが目白押しどすえ」
「あ、いつの間にか後ろに人が…」
「さぁさぁ、そんなら火吹き男のドハデな一発で、世紀のショーの幕開けどすえ〜」
勢い良く上がった火柱は、まさに客席にまで届く程の勢いで。初めて見るサーカスに僕は結構ワクワクしてたりする。…仕事で来てるのはわかってるんだけどね。
演目は更に進んでいく。
小さな男の子と女の子による、息ピッタリの空中ブランコ。
男性の百発百中のナイフ投げ。
このサーカスのお姫さんと呼ばれた女の子の綱渡り。
そして蛇と人間のハーフの蛇男による、華麗なる演舞。
どれもこれも素晴らしいと思うけど、演目も特に特別なものはない。例の子供達が出演させられている様子も全くないし…。子供達を見世物にすることが目的でないなら、サーカスの移動と子供達の失踪はただの偶然…ということか?
―――パァンッ
「そして最後は!サーカスの花形、猛獣使いのお出ましどすえ。このショーにはお客はんも参加してもらいたいんどすが…」
「最後のショーにも子供達は関係なしか。どうやら観劇は、時間の無駄だったようだな」
「僕は結構、楽しかったけど…って、セバス?」
「?どうした?何か見つけ…」
「おっ!えろうヤル気満々の燕尾服のあんさん!!どーぞ、壇上へ!」
「なっ」
「は?」
「さぁ、こちらへおいでやす!」
隣に座っていたセバスが、突然無言で立ち上がった。それを見た道化師さんは、猛獣ショーに参加したいんだと理解して、セバスのことを壇上へと招く。
興味なさそうに見えたけど、こういうの好きなのか?セバスって。……あ、もしかして―――
「行ってこい」
「は」
「…いいの?主」
「よく考えてみろ、クロード。これは奴らに接触するチャンスだ」
「チャンス、ねぇ…」
「いいか?次々と子供達が消えてゆく怪事件。その真相の糸口を掴むには最早、このサーカス以外ない」
「うん、まぁね」
「しかし接触することには成功したが、これだけの素人の目…一体どう探りを入れるつもりだ」
あ、ちなみに僕らは小声で話してますよ?周りに聞かれちゃまずいから。話をしつつも、視線はステージから外さない。道化師さんがセバスに説明をし始めるけど…それを華麗にスルーして一目散に向かった先は。
「嗚呼…何というつぶらな瞳…」
もっちろん猛獣ショーで使われる虎。さっきまで忘れてたけど、虎って猫科だからね。猫好きなセバスにとって、これ以上の至福はないんじゃないかな?うっとりした顔で虎のこと見つめちゃってるし…。
"虎は猫科"ってことを思い出した主は、真っ青な顔をして頭を抱えた。他の観客も、道化師さんも、猛獣使いのおねーさんでさえもポカーンとしてる。ま、当然の反応かなぁ。急に虎に近寄っていったんだから。それにしても…どうすんのさ。この状況。
―――ガブッ
「あ、噛まれた。」
「キャーーーーーーッ」
突如、セバスの頭に噛みついた虎のせいでテント内は一時、騒然となりました。
「誰があそこまでやれと言った?」
えー、サーカスを観終わった僕達なんですが…主がえーらい怒っております。まぁ、原因は目立ちすぎたセバスのせいなんだけどね。なんだけど、当のセバスはほくほく顔。今被っている人間の皮を剥げば、中身は悪魔のクセに幸せそうな顔で、周りには花まで飛んでる(ように見える)始末。
猫が好きなのは知ってるし、虎が猫科なのもわかっちゃいるんだけど…噛まれても嬉しそうにしてるのはどうなんだ?色々と。
「申し訳ありません。長い間生きていますが、猫だけは本当に気まぐれで気分が読めませんね…」
「おい、クロード。どうにかしろ、このボケ執事」
「残念だけどね、主。僕は猫には勝てないみたいだから、無理ですよ」
「おや、嫉妬ですか?クロード。心配などしなくても…」
「 黙 り や が れ 、 猫 バ カ セ バ ス 」
だーれが虎に嫉妬なんかしてやるもんか!っそりゃ!ちょっと面白くなかったけど…別に嫉妬なんかしてねーっての。
「大体、必要以上に目立ってどう……ふ、へくしっっ」
「…あ、セバスか…」
「お前、僕が猫アレルギーなのを知ってるだろう!離れて歩けッ」
「は」
…ちょっといい気味、かも。猫相手(正しくは虎だけど)に、ずっとデレデレしてるからだよーだっ!ざまぁみろ!セバスチャンめ。
少し胸がスッとして、良い気分で歩いていれば。僕らから少し離れて歩くセバスの気配が、止まったように感じた。誰かに呼び止められたか?
「主、ちょいストップ。セバスの気配が止まった」
「?どういうことだ」
「誰かと話してる、みたいだね」
物陰に隠れて、しばし観察。少しばかり距離があるけど、人ではない僕には何の問題もない。セバスが話している相手の顔も、声も…しっかりと認識できるからね。
どうやら話してるのは、サーカス団の―――確か、ジョーカーと名乗っていた人だ。さっきショーで司会進行をやってたよな。
「ビックリしましたえ、急に虎に近寄っていかはるから。さっき噛まれたトコ、大丈夫どすか?とにかく、ウチに専属のお医者はんがいはるんで診てもろた方がええと思って。どーぞ裏へいらしてください」
「クロード、あいつは何て言ってるんだ?」
「さっきセバスが頭、噛まれたでしょう?そこは大丈夫かってことと…医者に診てもらった方がいいから、裏へどうぞってさ」
思いもよらぬ向こうからの誘い。ついさっきまでは呆れ返っていたセバスの行動だけど、まぁ結果オーライってやつだよな?結果的に良い方向へと向かい始めてるんだから。願ってもいないチャンスだ。逃すわけには、いかないよね?もちろん。