灰色と共同作業


―――あれから数時間後…あたし達はショーの準備に追われていた。


「皆はーん、もうすぐ開演どすから急いでー」

「あたしの髪飾り知らないかい?」
「こちらにありますよ!ブラック、渡してください」
「はい。ウェンディさん、どうぞ」

「ナイフの数が足んねーぞ!予備は?!」
「はいっ」


一通りの準備が終わり、一軍メンバーはステージへと向かった。なーんかバタバタしてたなー…。ショーの前って、いつもこんなにバタバタしてるのだろうか?一軍メンバー以外のメンバーもたくさんいるはずなのに。…ま、そんなのどうでも良いことだけど。あたしにとって。
散らばっている小物や、洋服を片付けていると…主が肩を落として座っていた。疲れてるみたいだなぁ。


「大丈夫ですか?スマイル」
「…テントを調べるが早いか、僕が過労で倒れるが早いかだ…」
「!……ねぇ、スマイル。あのソバカスくんは?」
「ん?」


2人でテント内をキョロキョロと見渡すけれど、彼の姿は何処にも見当たらない。
これはもしかして―――チャンスが巡ってきた?


「セバスチャン!あいつ(ソバカス)のマークが外れた!次のチャンスはいつ来るかわからんっ今のうちにテントの調査を済ませよう!10分で終わらせるぞ!クロードも来い!」
「「御意、ご主人様」」


テントを出て、一軍メンバーのテントへと向かおうとした時だった。ジョーカーさんに、呼び止められてしまったんだ。それも、あたしとセバスが。
内心、冷や汗ダラダラで振り向くと、ジョーカーさんに背負われているウェンディさん、それを心配そうに見ているピーターさんがいた。…これは、何かあったんだろうか。


「何かあったんですか?」
「ウェンディ姉さんが足ひねってしもて、公演出れなくなってしもた。さかいにブラックとローズ代わりに出とくれやす」
「えっ…あたしも、ですか?」
「ブラックとローズやったら、もうショーに出ても大丈夫やしよろしゅう頼んます」
「…っ」


こっれはまた、ずいぶんとタイミングの悪いこと…!


「セバスもあたしも呼ばれたんじゃ、調査どころじゃないね…」
「坊ちゃん、残念ですがまたの機会に」
「……」
「?主…?」
「こんな所に長々と潜入していられない。それに奴(ソバカス)がいないのは、今だけかもしれない」
「や、確かにそうかもしれないけど…!」


彼が言うには、自分には時間がある。面倒なのは、あの毒蛇くらいで…その他には何の障害もない。
更に、プログラムによるとあたし達の出番が終わるのが19時50分。アンコールが20時00分。これから5分以内に蛇を全て捕獲し、ショーに出る。19時50分に出番を終え、一旦裏に戻り、蛇を全て解放してからアンコールに戻る。
…うん。確かにあたし達なら、それが可能だ。それはわかるし、次にチャンスがいつ来るかわからないのも理解出来るけれど…あまりにも無謀ではないだろうか?


「後は僕が調べる。クロードは先に準備をしに行け!セバスチャンより時間がかかるだろう?」
「え、でもっ…」
「いいから行け。怪しまれるぞ」
「…わかりました。あんまり無理しないでね?主」
「ああ。行くぞ、セバスチャン!」
「御意。…レディ、また後で」
「うん」


駆け出していった2人の背中を見送り、あたしも準備のをする為にテントへと戻ることにした。
ステージテントに向かって、目に入ったのはものすっごーーーーーく!嫌いで、会いたくない人。そこに少し遅れてセバスも加わり、お互いに嫌悪と驚きの表情。どうしてかなぁ?どうして…


「何で死神がいるのよ…」
「代役は私とレディのはずでは?」
「ローズじゃ男のお前支えらんねーじゃん」
「納得いきません。何故、私が貴方達と組まされなくてはいけないんです?」
「こっちだって嫌に決まってんでしょ…」
「私だって嫌ですよ。仕方がないでしょう」
「私がこんな害獣共と共同するなんて…」
「まったく」


セバスが燕尾服の内ポケットから、懐中時計を引っ張り出していた。時間が気になったから、開かれた懐中時計を一緒に覗き込んでみれば、時刻は19時30分。…そろそろ、空中ブランコの出番の時間よね。チラリ、と死神を覗き見れば…超不機嫌。いや、あたしも人のことは言えないけどさ。
ジョーカーさん達には申し訳ないけど、このメンバーでの空中ブランコ…失敗する気がする。確実に


「レディ?どうかしましたか」
「…何でもないデス。あれ?しにが…じゃない、スーツさんは?」
「そろそろ出番なので中に。私達も行きますよ」
「はいはーい」


さっさと出番を終わらせて、早く主の元へ行きたい。何でかわからないけど、すごく嫌な予感がして仕方がない。
主…何か事件に巻き込まれてたりとかしないかしら。無理してないと良いのだけれど。


「何をしているんです」
「穢れた裏切り者と手を触れ合わせるなど、絶対に御免です」
「それではショーにならないでしょう?!」
「……いい加減、腕痺れてきた」


セバスの腕にぶら下がり始めて、早5分。いくら何でも、5分間ずーーーーっとこの状態じゃあ腕も痺れてくるってもの。人ならざる者であれど、痛覚ってものは存在してるからね。はぁ、どうしたものかなぁ…。
その時だった。あたしの耳に信じられない会話が聞こえてきた。何かに引っ掛けて背中のヒモが切れてしまったビーストさんを、着替えてきてとテントに帰してしまったダガーさん。
マズイ!今、主はビーストさんのテントを家捜ししてる最中だ…!このままでは鉢合わせしてしまって、全てが水の泡。


「…ブラック」
「ええ、急がないといけませんね。いいから早く手を出しなさい!」
「絶対嫌ですと…」


死神が、手に持ったままだった死神の鎌を構えた。…うん、何となく嫌な予感がする。


「ブラック、あたしを上へ放り投げて」
「?!どうするつもりですか」
「いいから早く!」


セバスに放り投げてもらった一瞬後に、死神の鎌が一直線に伸びてきた。…間一髪。もう少し遅かったら、あたし貫かれてたわ。そのまま死神の鎌と、死神が捕まっているブランコをジャンプ台の代わりにして、あたしは向こう側へと飛び移る。セバス達もどうにかして、反対側の台へと飛び移っていた。
どうにか、なったみたいね?この拍手の様子だと。その後も何とか危機は脱したけれど…まだ主に危険が迫っていただなんて、あたしはこの時思いもしなかったんだ。
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