少女と牢屋


2人の死神に連れて来られたのは、死神協会とやらの本部。手にはしっかりと拘束具をつけられ、仮の姿でいることも許されず…"僕"から"あたし"に戻らざるを得なかった。…てか、頭のてっぺんからつま先までジロジロと舐めるような視線で見られるのは、正直気持ち悪くて仕方がないんだけど。何だか…"あの時"を思い出してしまう。
まぁ、さすがにあいつらと同じことをされる、ってことはないでしょうけど。だってあたしは穢れた者、死神にとっては殺したいくらいに憎い存在だものね。

そして今は抜け出すのが困難であろう牢屋にぶち込まれました。正直、意外だったっていうのがあるのよね。こんな所に入れられる前にすぐ殺されるものだ、と思って着いてきたから。ちょっとだけ拍子抜けしたっていうのはあたしだけの秘密だ。
それにしても…この拘束具、動きにくいなぁ。牢屋にぶち込むんなら外してくれたっていいのに…オマケに足までガッチリ繋いでくれちゃって、まぁ用心深いこと。用心深くなるのも頷けるけど、さすがに自分からついて来ておいて逃げるだなんて考え、はなっから思ってないっつーの。
それが主やセバス、それとフィニ達の命の危険に関わることだったら尚更だ。あたしの命と彼らの命。天秤にかけるまでもないよね、どっちが大切かーなんてさ…そんなの、最初から決まってるんだもの。


―――ジャラ…ッ

「この命も…あと何日か、ね」


どうでもいい、と思ってたから、ぼんやりとしか聞いていなかったけれど、あたしの尋問が始まるのが確か数日後だとか言っていた。今更何を尋問するのか、と思ったけど、捕まえに来た2人が違反がどうのこうのとか言っていたし、恐らくそれのことでしょう。
確かにあたしは死神と悪魔のハーフだけど、死神の鎌も使ったことあるけど、協会の掟とかそんなの知ったこっちゃないわよ。んなのアンタ達が勝手に作ったことじゃない。協会に属さない奴に掟だの違反だの言われても…どうしようもない、ってこと気が付かないのかしらね?…ま、そんなのは建前で…ただ裏切り者の穢れた血筋を、根絶やしにしたいだけだろうけどさ。

…不思議。赤い変態死神と対峙した時は、あんなに死んでたまるかーって思ってたのに今はそんな気持ち、これっぽっちも湧いてこない。主との誓いを果たしていない。ヴィンセント様とレイチェル様との約束だって、果たせていないのに…不思議と未練がないの。もういいか、って思ってしまってる。
あは、あの時は生きることに必死だったのになぁ。死神を殺して、逃げて、逃げて、逃げて…そうしてようやく手に入れた小さな幸せ。もうその幸せにも、触れられることはないだろうけれど。


「…ごめんね、主…」


あたし、貴方を置いていってしまう。あんなに最期のその時まで傍にいろ、と言われたのに。離れることは許さない、とあたしのことを受け入れてくれたのに、それすらも無駄にしてしまったわね。いずれ主、…シエル様も寿命を迎えるでしょう。その時は、向こうでまた会うことが出来るのかしら?ああ、でもあの方の魂は悪魔に食べられる運命なんだっけ…それだと会えないかなぁ。
…そこまで考えてはた、と気が付いた。あたしの魂だって、天国や地獄にいくことはないんだってこと。だってそうでしょう?穢れた裏切り者、だもの。お父さんとお母さんだって形がわからなくなるくらいに切り刻まれて、惨い状態だった…魂の欠片も、残らなかったのを覚えてる。
あたしの辿り着く末路も、きっと2人と同じ。魂は送られることなく、完全にこの世から抹消されるのだろう。…元から、なかった者のようにね。


「それが…あたし達ロシュホール家の運命なら…受け入れるしかないのかもね」


仕方ない、と諦めるのは慣れている。絶望ならもうずっと前に経験した、今更どうってこともない。
あたしはただ…闇に戻るだけ。
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