灰色と赤い死神
牢屋の中でぼんやりと過ごし始めて、どれだけの時間が経っただろう。最初はまだツマラナイと思っていた部分もあるけど、今ではそんなことすら感じなくなってしまった。ただ、静かにぼんやりと時間が過ぎるのを待つだけ。
食事が必要のない体っていうのは、こういう時は至極便利なものね。お腹が空いてもうダメだ、って思うこともないし。たまに睡眠はとってるけど。でもまぁ、こんな所で眠ることが出来る自分の神経の図太さに少しビックリしている部分もあるんだけれどねぇ。
だって殺される運命なのよ?どれだけ足掻いたって。そんな時に眠ろう、なんて―――思う人間は、いないでしょう?だからあたしは意外と図太いんだなぁって思ったってことよ。
「(セバスがいたら…貴女の図太さは今更ですよ、とか苦笑するのかしら)」
脳内で再生される愛しい、愛しい彼の声。もう二度と聞くことは出来ない声だ。もうあたしの姿が見えないことに気が付いているのかしら?…気が付いているに決まっているわね、だってあの日から少なくとも2日は経っているはずだから。それに気配に聡い悪魔だもの。あたしの気配がないことくらい、すぐに気が付くでしょう。部屋も同室だったことだしね。
いなくなったあたしのことを、…貴方はどう思うのかしら。それはセバスだけではなく、シエル様もだけれど。
怒る?悲しむ?呆れる?それとも―――どうでも、いい?
それを知る術はもう持っていないけれど、でも…悲しんでいなければいいとは、思う。悲しまずにそのまま、あたしのことを忘れて欲しいと願う。アリス・ロシュホールという者は、クロード・ロシュホールという者は最初からいなかった。存在しなかったんだ、と思い直してくれればいい。そしてそのまま、永遠に記憶から消し去って。
シエル様?貴方は前を向いていなければならない人だから。だから、いなくなった者のことをいつまでも追いかけないで。あたしは自分の意思で、貴方のお傍を離れると決めたんだから。
―――カツン
「あーら。ずいぶんと素晴らしい格好じゃない?」
「……変態死神」
「カッチーン!変態って何よ、変態って!!相変わらず失礼な奴ねっアタシにはグレルって素敵な名前があるのヨ!」
「はぁ…覚えてるに決まってるでしょう、うるさい」
どうしてこいつがあたしの元へ来たのかがわからない。普通なら近づきたくない、って思うだろうに何故、こんな所へ?
「それで?尋問と死刑の日にちが早まりでもしたの?」
「違うわよ、それは最初に決まった通り。…明後日、決行のよ・て・い!」
「ふぅん………さっさと、やってくれればいいのに」
どうしてそんなに時間を空けるのか、あたしには理解出来ない。穢れた裏切り者と罵るなら、全員が憎しみの瞳を向けてくるのなら、いっそ連れて来られたあの日に首を刎ねてくれれば良かったのに。そうすればこんな下らない時間を過ごすこともなかったし、たくさんのことを思い出す時間もなくて済んだのにね。
自嘲気味にそう呟けば、赤い死神が僅かに顔を歪めた。…何てひどい顔なのかしら。
「アンタ…初めて対峙した時と大分印象がチガウわね」
「は、…?」
「あの時のアンタはもっと生きることに貪欲で、そんな諦めた瞳はしていなかったデショ。…こんなこと言うのは何だけど、ラシクないわ」
「相変わらず変なことを言う死神ね。死ぬ運命だとわかっていて、どうして生きることに貪欲になれるの?足掻こうと思えるの?そんなの…無駄なことよ」
それにきっと、今のあたしが本来のあたしなんだ。笑うことも、泣くことも、怒ることも、…感情の欠落した人形のような、それが本来のあたしの姿。あるべき姿なのだろう。
だってお父さんとお母さんが奪われたあの日から、あたしは笑い方を忘れた。愛し方を忘れた。愛され方を忘れた。
怒ることや泣くことの意味がわからない。そんなのただ疲れるだけだもの、体力の無駄にしかならないのに…そんなの必要のないことじゃないの。だから、…そんなもの捨ててしまえばいいんだ。
「―――もう…何も残っていないの、望んではいけないの」
「……」
「全部、…諦めて受け入れるしか、術がないのよ」