灰色と小さな花
エリザベス様の剣技はきっと、フランシス様直伝だ。そしてあの強い心はきっと、主を守ろうとしてくれている証。
…きっと、可愛いものが大好きなエリザベス様にとって辛い決断だったと思う。あれだけ主の前では可愛い姿でいたい、と望んでいた方だったから。それでもあの方を守ろうと必死に戦ってくれている。
もう、いい。もう―――――
「いいのですよ、エリザベス様っ…!」
「クロード…?」
「レディにこのようなお手間を掛けさせてしまうとは…執事失格です。申し訳ございません」
「セバスチャン…?」
「ごめんね、エリザベス様。これから先は僕とセバスにお任せを」
抱きしめていた華奢な体を離して死神達に向き直る。仕切り直しだ、と拳を構えた瞬間、主の大きな声で僕とセバスを動きを止めざるを得なかった。…え、なに?変な所で止められちゃったもんだから、妙に気が抜けそうになるんだけど。
でも止めた理由をしっかり聞けば納得がいった。今回の件の全てを握っているのはやっぱり、あのリアン・ストーカーって男らしい…アイツを追わないとどうにもならないってことみたいだね。そりゃあ遊んでる時間はないや。
ん?あっちのチャラそうな死神…アイツが見てんのは死亡者リストとやらか?リアン・ストーカーの名前を出した後に調べてるっつーことは、あの男もしかしなくてもリストに載っちまってるってことなのかも。現に変態死神もリストを見せられて、急に姿を消しやがったし。最後にセバスへ投げキッスを残していったけどな。ほんっと気色の悪い奴…つーか、人のモノ狙うのいい加減やめてくんねーかな。
「クロード、その顔をどうにかなさい」
「仕方ないだろ、アイツら大ッ嫌いなんだ。…主!大丈夫か?」
「足が、…!」
「うわ、これ大分腫れてる…折れてはいないだろうけど、歩くのは厳しそうですね」
「大変!あたしがおぶってあげる!」
ぅえ?!い、いやぁエリザベス様…お気持ちは有難いけど、それをされたらさすがに主のプライドが更にズッタズタになってしまいそうだからやめてあげてください…。セバスと苦笑いで止めて差し上げると、一気に顔を真っ赤にしたと思ったら、次の瞬間には大粒の涙を流し始めた。えええ?ちょ、どうしちゃったんですか?!
話を聞いてみると、エリザベス様は小さい頃に主が零した「強いお嫁さんは怖い」と言っていたことをずっと気にされていらっしゃったみたいで…それをずっと隠していたみたいなんだけど、さっきのことで全て知られてしまった。だからきっと主に嫌われる、という不安から涙を流されていたみたいだ。…本当に、この方は可愛らしい人だよね。
―――フワッ…
「きゃ、…!クロード?」
「大丈夫ですよ、エリザベス様。我が主は貴女様のことを嫌いになんてなりませんよ。…ね?あーるじ」
「ああ、嫌いなワケ………いっ今はそんな場合じゃないっさっさと上に行くぞ!!」
あーあ、もう少しできちんとお気持ちを伝えることが出来たのにもったいないなぁ。それを聞いたらエリザベス様だって安心するだろうに。でもまぁ、あの赤い顔を見れば多少は主の気持ち…エリザベス様に届いただろうし、問題はないかな。
しっかし顔を真っ赤にしてる主の可愛さは異常だね!セバスはそれがおかしくて堪らないらしく、さっきからずーっと笑ってるけど。アイツがあそこまで笑ってるの珍しいんじゃないのか?愛想笑いならいつだって浮かべてるけどさ。
さってと…ひとまず、侯爵家の皆様と合流した方が良さそうだ。リアン・ストーカーを追わなきゃいけないのは山々だけど、たった今合流できたスネークさんと、それからエリザベス様を連れたままあの男を追うわけにはいかないから。この2人を侯爵家の皆さんに預けて船から脱出させてから…事件の真相を追うのはそれからの方がいいだろう。
一等旅客用デッキに出ると下ろされた救命用ボートにたくさんの乗客が乗り込んでいた。その中で怒声を発していたエドワード様を見つけたエリザベス様は、僕の腕から下りて彼に抱きついた。2人共、嬉しそうな顔をしてる…無事な姿を見れてホッとしてるんだろうな。
「僕の代わりにこいつを乗せてくれ」
「?!」
「僕はまだボートに乗れない」
「……わかった、預かろう」
「シエルが残るならあたしもっ…」
―――トッ
「……ごめんね、エリザベス様」
「クロード!」
「納得して頂くには時間がかかりそうだったので…手荒な方法を取らせて頂きました。申し訳ない、エドワード様」
「いや…ありがたい。俺じゃ妹の後ろは取れん」
無理矢理に気を失わせたエリザベス様を預け、急いで脱出して出来るだけ船から離れてもらえるようお願いをする。
…よし、これで準備は大丈夫。あとは事件の真相を追いかけるのみだ。
「リジーとスネークを頼みます!行くぞ、セバスチャン、クロード」
「御意」
「リョーカイっと」
主をセバスが抱え、再び船内へ戻ろうと足を踏み出した時、「戻ってこなくていいぞ!!」と大きな声が聞こえてきた。声の正体はエドワード様だ、可愛い妹様を嫁にやらなくて済むからと言ってらっしゃるけど…あれはきっと反対の意味なんだろうなぁ。ふふ、素直じゃないお方だよねぇ?
主はその真意を読み取ったらしく、微笑を浮かべて「必ず戻ります」と、強い瞳と、凛とした声で言葉を返した。そうだよ、あれだけ大切に思ってくれている婚約者を残して…命を落とすわけにいかないんだからね?まぁ、最も僕達がそう易々と主を死なせるわけもないんだけどさ。
中に入って一等旅客用通路を走っていると、目の前にドルイット子爵をはっけーん。思わず名前を呼んじゃった主だけど、そういえば本来の格好でこの人に会ったことなかったんだっけ…思わず3人共、動きを止めてしまったんだけど、あっちはそう気にした様子もなく社交界で美の化身と名高い私を〜とか何とか、まーたよくわかんないことを話し始めちゃったよ。何で此処にいるんだろ、この人。
「(ん?…何だ、あの後ろの、でっかい機械みたいなの)」
「身を危険に晒してでも沈みゆく船に残していくわけにいかないモノがあってね」
―――コソッ
「ねぇ、主…あれってもしかして、」
「ああ。恐らく、お前が考えている通りだろう」
セバスともこっそり目配せ。
こんな大チャンス、逃すわけにはいかないよね?
「完全なる胸の炎は!」
「何物にも消せやしない。我ら…」
『不死鳥!!』
そしてお決まりのポーズ。いや〜、何度見てもおっかしくて仕方ないよねーコレ。思いっきり笑いたくて仕方ないけど、そんなことをしてる暇はないし、今ここで笑ったら余計面倒なことになりかねないし…セバスの後ろにそっと隠れてやり過ごすことにした。だって笑わないっていうのは無理があるんだもん…!!!
僕がこっそり肩を震わせている間についていってもいいことになったらしい。というか、やっぱりあのでっかい装置って屍人の動きを止める為のものなのか。主からそんな装置がある、ってリアン・ストーカーから聞きだしたーとか言ってたけど…それ、本当に止められるのかねぇ?力づくで奪ってもいいだろうけど、僕達じゃ動かし方わかんないしねー…このまま子爵に起動してもらった方が色々といいかもしれない。
…っと?あの装置を運んでる人の中に、どーも見たことがある人がいる気がするんだけど……あ、やっぱりテイカーさんだ。姿を見なくなったと思ったらこんな所にいたんだ、つーか何してんのさ。
「逃げる途中でコレ運ぶの手伝えって言われちゃってさァ〜そしたら伯爵がまた不死鳥って」
「それは忘れてあげてください…それより、貴方はコレの使い方知らないんですか?」
「さあ〜?こんな物なんの役に立つんだろうねェ?」