黒の死神と紅き少女
テイカーさんの目的も、あの屍人達が動いている仕組みもわかった。…ということは、この案件を終わらせる為には―――
―――ドカッ!!
―――ズザァッ
「セバスちゃん、クロちゃんっどーゆーつもり?!」
「どーゆーつもりって、」
「貴方がたに彼を連行されては困りますので」
そう、僕達は陛下の御前に真実を献上する義務があんの。死神達にも協会のお偉いさんに彼を突き出す義務があるんだろうけど…そうはいかない。テイカーさんの身柄は僕達が拘束させてもらう!
「どっちにもそれぞれの義務があんならさ…早い者勝ちってことでいんじゃない?シンプルでしょ?」
「それは名案です―――ねっ!」
―――ビッ!
セバスの銀食器が、死神の鎌が、僕のナイフが所狭しと飛び回る。更にテイカーさんは卒塔婆で応戦してくるもんだから、もうしっちゃかめっちゃかもいいとこだよね。
…でもこうでないと狩りは面白くない…時間がないのは重々承知なんですけどねぇ、この血が滾る感じは思いっきり楽しまないと損でしょう!!
「ハッ!」
―――ガゥンッガゥンッガゥンッ!
「ほらほらどうしたんだい?4人がかりでそんなものなのかねぇ?小生を狩るんだろ〜?」
カッチーン。本当にさぁ、テイカーさんっていーい性格してらっしゃるんでない?
もうあったまきた!此処にいる奴らなら僕の本来の姿を知ってるわけだし、テイカーさんは唯一知らない人だけど…そんなこと気にしてる暇なんかない。まぁ、戻った所で勝てるかどうかはわかんないけど…今よりは身軽になれるのは間違いないしね。変化の術を解いてテイカーさんに斬りかかれば、少しだけ驚いた瞳があたしの姿を見上げていた。
―――ギィンッ
「…へぇ。それが君の本当の姿かい、クロード」
「ええ、そうよ。テイカーさん」
「そうか、君が噂の悪魔で死神の少女…アリス・ロシュホールってわけかい。ヒッヒ…面白い子だ」
召喚した死神の鎌を勢い良く振り下ろすと、またもや卒塔婆で受け止められた。さっきまでは変態死神やセバスに切り刻まれていたはずなのに、あたしの目の前にある卒塔婆は一向に切れる気配がない。死神の鎌は何でも切れるはずなのに、どうして…?
そこまで考えて1つの結論に辿り着いた。…そうか、そういうことだったのね。だから切ることができないし、死神の鎌を受け止めることもできていたんだ。
「何でも切れる死神の鎌…その謳い文句は奇怪しいわよね?」
「アン?なーに言っちゃってるのよアリスちゃん」
「だってあるもの、死神の鎌が唯一切れないもの!」
―――ドォッ
一陣の、風が吹いた。上手く避けたつもりでいたけれど、どうやら間に合わなかったみたいであたしの肩は深く抉られて大量の血が流れていた。あーあ…やっちゃったなぁ。
でもまぁ、あの至近距離で振られてこの傷で済んだんだからいい方かもしれないわね。同じような位置にいた死神達は胸とお腹を深く切られてしまったみたい…あれは大ダメージでしょう。
「大丈夫ですか?アリス」
「何とかね…でもあの大鎌、結構厄介よ?リーチが広いもの」
「任せてください」
にっこりと笑ったかと思えば、セバスは大量のテーブルをテイカーさんに向けて放り投げた。それもすごいスピードで。任せて、と言っていたくらいだから良案があると思ってたのに、まさかの?!
そんなのすぐに切り刻まれて終わりじゃない、と落胆しかけた時、それはフェイクだということに気が付いた。テーブルでテイカーさんの気を逸らせておいて、その間に大鎌の懐に入ろうとしているんだわ!その証拠にいつの間にかセバスは彼の後ろ側へと回っていたんだから。
もらったと思った。セバスの勝ちだと思った。…だけど、それ以上にテイカーさんは上手で―――卑怯だった。
セバスの攻撃を避けた彼がターゲットに選んだのは、主。しまった…!危険だから、とあの方を1人にさせてしまっていたんだ。死神達も、テイカーさんも手を出すことはしてこないだろうと踏んでいたのに、それはただの思い違い。だってセバスにとっても、あたしにとっても、彼は弱点になるんだもの…そこを狙わない手は、ない。
あたしより僅かに早く主の元に辿り着いたセバスがテイカーさんに攻撃しようとした瞬間、彼の手の中にいた主が宙へと舞った。…そうか、最初からあの人はわかっていたんだ。主に手を出せばあたし達が必ず彼の元へ行くだろう、って。そして投げ出された主を助けようとすれば、背中ががら空きになる。その瞬間をテイカーさんは見逃さず、大鎌でセバスの身体を深く貫いた。
「セバスッ!主!!」
深く貫かれた状態でも主の手をしっかりと掴んだ彼。でもそのままじゃ床に叩き付けられる…あたしの体じゃ受け止めきれないけれど、でも衝撃を少しだけ吸収することが出来るはず!
―――ダァンッ
―――ザザザッ!
地を蹴って2人の体をきつく抱きしめた瞬間、そのまま床に叩き付けられるように転がった。あのまま叩き付けられるより衝撃は少ないだろうけど、それでもかなりの痛みを伴っているはずだ。あたしだって背中を思いっきり打ち付けてるし、その衝撃で肩の傷も悪化したような気さえするもの。
血塗れのセバスが目を開くのを確認してから、あたしはゆらりと立ち上がった。
「おい、アリス…?」
ごめんなさい、主。今は貴方の言葉に応えている余裕はこれっぽっちもないの。腹の奥底から沸々と湧き上がってくるコレは怒りなのでしょう、止め処なく溢れ出てくるそれはあたしの体を本能のままに突き動かす。
死神の鎌をきつく握りしめ、テイカーさんの脳天目掛け思いきり振り下ろす。けど、それは空を切っただけで当たったような感触は一切ない…でもそれで諦めるようなタイプでもないのよ?あたし。
気配だけを追い、彼がいるであろう方には目を向けぬまま鎌を横に薙げばガキィンッと甲高い音が耳に届いた。ふふ、ビンゴかしら。
「おやおや、いつでも冷静に周りを見ていると思ったんだけど…あの執事くんのこととなると我を失うみたいだねェ」
「黙りなさい。…アンタはあたしが捕まえる!」
―――ビュッ!
「なかなかにイイ動きをするなァ〜〜君みたいな子を人形にしたら、さぞ楽しいだろうね?」
「え?」
ふっと気配と姿が消えた。一体何処に、と視線を彷徨わせていたらすぐ後ろに何かが降り立ったのを感じたんだ。マズイ、と振り返った時にはもう遅い…あたしの体は自分の鎌によって貫かれてしまっていたんだから。
「っあ……!」
「アリス!!!」
「おや、やっぱり出来損ないの鎌じゃ走馬灯劇場は出ないみたいだねェ…残念だ」
ズルリ、と鎌が抜かれる感触。遠くで主とセバスがあたしの名前を呼んでいる。意識は辛うじてあるけれど、でも体が動かない…出来損ないとはいえ、死神の鎌で受けた傷はキッツイなぁ。
ぐらり、と揺らぎそうになる意識を必死に保っていると、誰かに体を抱き上げられた。この腕がセバスだったらいいのに、とは思うけど、この感触は彼じゃない…重い瞼を開ければそこにいたのは妖しく笑ったテイカーさんの姿。どうやらあたしの体を抱き上げているのは彼のようだ。
そういえばさっき、あたしみたいな子を人形にしたら…とか言っていたっけ。もしかしてこのまま彼の実験体にされるってこと…?そんなのごめんだ。あたしはまだ、あの方との約束を、誓いを果たしていないのに…!
―――グラッ
―――ギギギギ…
「っ、なに、…?」
「浸水した水の重みで船首が持ち上がってるんだよ。沈没まであと少しだねェ」
「…セバスチャン、葬儀屋を捕らえてクロードを取り返せ!」
「御意!」
死神達もまだ諦めていなかったらしく、変態死神がテイカーさんに…そしてチャラい死神がセバスへと突っ込んでいくけど、なかなか攻撃が当たらない。チャラい死神に至ってはセバスにボッコボコにされちゃってるけどね。
テイカーさんが私を抱えたまま変態死神と戦ってくれてるおかげで意識は保ててるけど、この状況はさすがにマズイ…!いくら傷が深くて動けないからって、何もせずに指を咥えて見てると思ったら…大間違いなんだから!
グッと体を起こしてテイカーさんを最後の力を振り絞って押しのければ、動けると思っていなかったのかあたしの体を抱えていた腕が簡単に外れた。何とか抜け出すことが出来たけど、このままだと真っ逆さまに落ちていくだけだ。しかも船が傾いている今―――落ちれば、待っているのは間違いなく死。このまま死ぬのか、誓いも果たすことが出来ないままあたしは――――
―――ガシッ!
「しっかりなさい、アリス!」
「セ、バス…」
セバスの手に触れて、顔を見ることが出来てホッとしたのか…あたしの意識は、そこで途切れた。