ただいまとおかえり
身体中が痛い。地面に寝転んでいるせいもあるけれど、でも確実に主な痛みの原因は烏哭三蔵法師から食らった攻撃の数々だと思うんですよね。
ゲホ、と咳き込めば血が口元を汚すし、…ひどい傷口だけ八戒くんが塞いでくれましたが、まーたそこら中に穴が開きましたからねぇ。
リ―――ン、リ―――ン…
ああ、すっごい鳴いてますね。虫。風の音以外に何も聞こえないから、余計によく聞こえます。何と言うか、…生きてるんですねぇ私達。
「―――あれ。三蔵、生きてます?」
「……生きてちゃ悪ィか」
三蔵様らしい言い方にクスリ、と笑みが零れる。再会した時も思ったけれど、戻ってきたなぁって感じがしますよねぇ…三蔵様のこの不遜な態度とか見ると。そんなこと言うとドМなのかとか言われちゃいそうですけど、でも本当にそう思ってしまっているんだから仕方ありません。
ふう、と溜息を吐いて、あまりの眠さに目を閉じ掛け―――た所で、悟空の笑い声が聞こえました。あまりの痛さとかに頭がイッちゃったのかと心配になったんだけど、今更震えているという事実に笑いが込み上げてきてしまったみたいですね。
でも悟空の言っていることわかりますね、私も対峙し終えた今になって恐怖が込み上げてきてますもん。アイツの強さや力は、尋常じゃありませんでしたから。戦っている最中はアドレナリン全開の状態だから、痛みとか恐怖とかそこまで感じないんですけど、それが終わって脱力してしまうと一気にくるものなんですよね。カミサマと戦った後も思いましたけど。
「あってか香鈴?!さっきから全然喋ってねぇけど、生きてる?!」
「…生きてるよ…辛うじて」
「ひどい傷は塞ぎましたけど、それでも一番大怪我なのは三蔵と香鈴ですからね…特に貴方は血も足りてないでしょう?」
「あはは…うん、否定はしません」
会話が途切れた所で、悟浄くんがボソッと冗談じゃねぇぞ、と呟いた。一体、何のことかと思えば、何で烏哭三蔵法師のような化け物のような人を敵に廻さなくちゃいけないのか、ってことに文句を言っていたみたい。
あー…確かにまた戦うことになるのかと思うと、気が重いです。
「てめぇらが勝手に乗り込んできたんだろーが」
「だって三蔵の敵ってことは俺らの敵ってことじゃんなあ?」
「ええ、残念なことに」
「必然ってやつですよー悟浄くん」
文句を言うな、と言いきった三蔵様に、悟浄くんも言い返そうと声を荒げるけれど、その瞬間に傷口が痛んだらしく彼は情けない叫び声を上げた。それを聞いた私と悟空が笑ってしまって、でも私達のお腹にも痛みが走って悶える結果になりました。
…なんだろ、よくわかりませんけど急に色んなことがおかしくなってきちゃいましたよ。結局、痛いって言いながらも5人で笑い続けてしまう始末。これ、傍から見たらすっごい異様な光景なんでしょうねぇ…もしくは死体が笑ってる?!とか勘違いされてしまいそうです。
ピタリ、と笑いが止んで、再び静寂が訪れる。いまだに地面に寝転んだままだから、色んな所が悲鳴を上げ始めているものの…動くのが億劫で仕方ないので、誰も起き上がろうとはしません。
このまま寝てしまいたい、と呟く悟浄くんに賛同したのは悟空と私。んー、でもこのまま眠りについたら永遠の眠りにつけそうだ―――あはは、と笑いながら冗談を言うと、ボロボロのお前が言うと冗談に聞こえないと悟浄くんに小突かれました。
「とりあえず、ジープの所まで行かないと…三蔵様、動けますかー?」
「…動けると思うか?つーか、それはてめぇもだろ香鈴」
「えー?私はイケますよ。…………多分」
「その多分は信用なりませんよ。3人でジャンケンでもします?」
ああ、ジャンケンで負けた方が三蔵様と私をジープまで―――って、私達はお荷物扱いですか!
「じゃんけん―――ほい。」
悟空がグー、悟浄くんがチョキ、八戒くんがパー、そして私がパーで、三蔵様がチョキ。三蔵様と私を運ぶ為のジャンケンなのに、その当人達が参加していることに気がついた悟空と悟浄くんが笑う。何で参加してんだよ、って。だって荷物扱いされるのは心外ですもの、そりゃー参加しますって。
そして始まったジャンケン大会。5人もいるせいか、何度もあいこが繰り返されて一向に勝負がつく気配がないんですけど。しまいには我慢大会みたいになってきて、脱落者待ち―――なんて八戒くんが言い始めました。
うん、確かに他の3人も意地の張り合いみたいになっていますね…そういう私も、腕が辛くなってきているのに出すのをやめたりしていないのだけれど。
(全く…いい大人が何をやっているんでしょう)
…だけど、不思議と笑みが零れてくるんです。当たり前だった光景が、当たり前じゃなくなってしまった…それを取り返そうと躍起になって、必死にかき集めて―――そしてまた、一緒に笑い合えている現実が戻ってきたんです。
ずっと失くしたくないものなんです、守っていきたいものなんです。だから、…今ね?ものすっごく嬉しいんですよ。
「はー、キリがないですねぇ」
「この人数だしな―――って、うぉ?!」
「面倒になっちゃったんで、私が運びます」
魔の物を召喚して、私はよいしょっと立ち上がる。ババくさいとか言わないでください、これでも頭はクラクラしてるし、全身痛いしで散々なんですから。立ち上がるのだって一苦労で、私だってそっち側に回りたいくらい。
でもそうすると眠ってしまいそうになるから、こうして歩かないとジープの所までは戻れないんです。
「ちょ、香鈴!貴方、その怪我の状態で召喚するのキツイんじゃないですか?!」
「キツイけど面倒なので…ジープに乗ったらぶっ倒れるので、その時はよろしく」
「うっわ、丸投げかよ香ちゃーん」
「いいじゃない、その代わりに今頑張ってあげてるでしょー」
「…お前、敬語が外れてるぞ」
仕方ないじゃないですか。言葉遣いに気を遣っていられるほど、元気じゃないんですー。ふらつきながらも何とかジープを待機させていた場所まで戻ってきて、召喚していた魔の物を消した。
でも皆さんを下ろす前に消しちゃったもんだから4人はそのまま地面とお見合いするハメになっちゃいましたね。…あー、マッズイことしました。あはは、と笑って誤魔化してみるものの、背中にはバッチリ冷や汗。だってわかりますもん、全員のオーラが怒りに変わり始めていることに。
―――ガバッ
「てンめぇっこのバカ女―――〜〜〜〜〜〜〜…ッ!!」
「お、怒りたいのに身体いったくて無理…!」
「香鈴、…お願いですから、僕達も怪我人だってこと忘れないでください…」
「トドメ刺された気分……!」
「も、申し訳ない…今のは本当に」
更に土まみれになった4人がのそのそとジープに乗り込んだのを確認して、私もいつもの定位置である悟浄くんと悟空の間に腰を下ろした。
この席に座るの、何だか久しぶりのような気がするなぁ。両隣には悟浄くんと悟空、運転席には八戒くん、そして助手席には―――三蔵様がいる。
何度も思ったし、感じたけれど…それでもやっぱりまだ、噛みしめていたい。『三蔵一行』が帰ってきた、ってことに。
「ふふっ」
「どーしたんだ?香鈴。急に笑い始めて」
「んー?…ようやく、帰ってきたんだなぁって嬉しくて、」
「ったく…怒ってやろうと思ったのに、んな顔で笑うなよなぁ?―――おら、寝てろ」
グイッと引き寄せられて、行き着いたのは悟浄くんの膝の上。悟空のエロ河童と叫ぶ声や、八戒くんのセクハラはダメですよって笑う声が聞こえて…幸せな気分のまま、私は目を閉じた。