嵐、目前


「え、5日…ですか」
「ええ、そうなんです。大至急、直してはいるんですが…何せ町と向こうを繋ぐでっかい橋なもんで、そう簡単には直せないんですよ」


町中に灯篭が飾られる慰霊祭を堪能した翌日。私達は買い出しを済ませ、徒歩で6つの町と外界を結ぶ唯一の橋に来ていたのですが―――誰の仕業かわかりませんが、それは真っ二つに切られ、渡れない状態になっていました。町の方々が復旧作業に勤しんでいるようなんですけれども、元々の長さが結構あったらしく1日・2日で直せるものではないそうなんです。最低でも5日程はかかる、とのこと。
そんなに待っていられるか、と表情で語っている三蔵様がいらっしゃるので、町の方々に遠回りでもいいから他の道はないのか聞いてみたものの、壊された橋を渡る以外に道はないそうなんですよね。前の町に戻れば別ルートはあるかもしれませんが、そこまで3日かかることはもうわかっているんです。
どちらにしても大幅なタイムロスがあることは目に見えている、だったらここで橋が直るのを待っていても大して変わらないんじゃないか、という結果が出ました。納得して頂けたかはわかりませんけど、戻ろうが待とうが時間がかかることは変わらないんですから、無理にでも納得して頂かないと。

それにしても、…何をして過ごしましょうか。買い出しはもう済ませてしまっていますし(食料はまた買い直さないとダメでしょうが)、宿の中にいるのがもったいないくらいに天気もいい。―――かと言って、出かける用事がないというのも本音なのですが。
皆さんはどうするんだろう、と思っていたんですが、ふってわいたしばしの休息に三蔵様は部屋に引き籠ることを選び、悟浄くんは何故か悟空を引き連れて町へ出かけてしまいました。…珍しいなぁ、あの2人が一緒に出掛けるなんて。
残るは私と八戒くん、なのだけれど。


「せっかくですから、僕達も出かけましょうか」
「え、あ、…」
「僕が一緒では嫌ですか?」
「そっそんなことないです!う、…嬉しい、です」
「良かった。買い出しの時はゆっくり見て回れませんでしたし、昨日も灯篭に目を奪われていましたから」


どうやら露店が多い町のようですから、のんびり見て回りましょう。
そう微笑んで手を差し出してくれた八戒くん。おずおずとその手に自分の手を重ねれば、彼の笑みは一層深くなって…心臓が忙しなく動き始めるんだ。ああもう、本当にこの方には敵わないなぁ。

手を繋いで町へ出れば、吊り橋が壊れているなんてまるで知らないとでも言うように賑わっていた。あの橋が壊れていると、市場へ行けず商売をしている方々も困るのでは、と思っていたのですが…そんなことはないみたい。
人々の間で交わされる会話の中に、橋が壊れたらしいという話もあったけれど、壊れた橋とは逆側―――つまり、私達が渡ってきた橋側にも市場は存在しているようですね。直るまではそっちの市場から仕入れよう、って話も聞こえてきました。


「でも怖いねぇ、何で急に壊れちまったんだろう…」
「単に老朽化してただけじゃないのかい?」
「そんなはずはないさ!ついひと月ほど前に点検して、ロープだって補強したんだから」
「おい、聞いたか?あの橋、刃物で切られた可能性が高いんだとよ」
「刃物で?!…嫌だねぇ、物騒じゃないか」


こういう時、町の方々の噂話というのは便利だ。最新の情報が入ってきますからね、今のように。


「もしかしたら人為的なものかも、とは思っていましたけど…まさか妖怪、とか?」
「うーん、その可能性もないとは言い切れませんけど、わざわざ橋を壊す理由がわかりませんね」
「あ、そうですよね…誰かの手によって壊されたと仮定しても、何が目的なんでしょう」


町の方々を閉じ込める為?でも反対側は無事なわけですから、そっちから逃げることは可能―――完全に閉じ込める、ということにはならなそうだ。やっぱりただの悪戯なのだろうか?まぁ、やってることは悪戯と言えるほど、可愛いものではないのだけれど。
うーん、でも余所者である私達が考えるべきことではないか…町の方々も原因を究明しよう、と思っているわけでもなさそうだし。ちょーっと不安がってる感は拭えないけど、でもすぐに元に戻ってしまいそうな雰囲気もあるから大丈夫なのでしょう。

気にしなくてもいいか、と露店へと目線を戻す。色とりどりの小さな石がいくつも並んでいて、店主の方がパワーストーンって言うんだ、と教えてくださいました。それぞれ石にはパワーがあって、それを身に着けると幸運を運んでくれたり、邪気を払ったりしてくれるんですって。
まぁ、それも気の持ちようだったりするんだけどな、と豪快に笑った店主の方に、私と八戒くんは苦笑いを浮かべる他なかったんですが。


「何だか面白い人でしたね」
「ですね。ご自身で売っていらっしゃるものなのに、気の持ちようだとか信じるも信じないも、その方の自由だとか…」
「売るつもりがない、ってことではないんでしょうけど、…まぁ、ああいうのって信じる人もいれば信じない人もいますから」


確かに、と笑いながら、町を歩く。…手は、宿を出る時から繋いだままだ。何をしていても、話していても、見ていても…心臓はドキドキと高鳴ったまま、治まってくれそうにないんです。知らない人達が見たら、私達は恋人に見えるのかなぁ、なーんて…バカなことを、こっそり考えてみたりするんです。
八戒くんを好きだと気がついて、もう1年くらい経つと思いますが―――いまだに私は、気持ちを告げるようなことはしていない。知ってほしいと思う反面、このままでいいと思っている自分がいる。この旅が終わるその時までは、異性としては私が一番近くにいるのだからそれで十分じゃないか、って。…それにきっと、彼の心の中にいる『花喃さん』には敵いっこないもの。

(亡くなってしまった恋人に勝てる人なんて、…きっといるはずがないんですよ)

とは言え、勝つとか負けるとか、それは八戒くんの気持ちが私に向いている場合の話で、向いていない場合は全く意味のないものになるのだけれど。そんなことを考えながら、繋がれたままの手に視線を移した。
―――彼の気持ちが私に向くことが一生ないのはわかってる、だから、だからこそだ…今この時だけは、この温かさを独り占めさせてほしいと心の底から思うんです。


「いい天気ですねぇ」
「本当に。何か飲み物を買って、昨日行った広場にでも―――何だか騒がしいですね」
「何かあったんでしょうか…?」


この町は元々賑やかな所だ。だけど、この騒がしさはそれとは種類が違うような……ああ、あれだ。妖怪が出た時とかの、恐怖や不安からくる騒がしさに似ているんですね。一体、何があったんだろうか、と近くのお店の方に話を聞いてみると、何でも広場にある封印の石が何者かによって壊されたって言うんです。

それってもしかして、…あの大きな桜の樹の近くにあった岩のことでしょうか?

封印の石、と聞いて僅かな不安が胸をよぎる。何事も起きなければいい、と心の中で祈るけれど、その祈りはあっという間に打ち砕かれたのです。広場の方から聞こえた、爆発音によって。
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