出逢いに感謝


珍しく夜遊びに出かけなかった悟浄くんも一緒に夕食を食べて。八戒くんと2人で片付けをしている間に、彼はシャワーを浴びて。そして八戒くん、私の順でシャワーを浴びていたのだけれど…お風呂場から出た瞬間、リビングから賑やかな声が聞こえてきた。
この家の周りには他に家がないから近所迷惑、ってことはないけれど、今は大分遅い時間のはず。それなのに誰かお客様でも来たのでしょうか?八戒くんと私はこの町に友人と呼べるような知り合いは少ないから、悟浄くんの知り合いである可能性が高いとは思いますけど。でも珍しいですよね、この家にわざわざ彼を訪ねてくるような方は今までいらっしゃらなかったのだけれど。

お客様が来ているのなら真っ直ぐ自分の部屋へ、と思ったのだけれど、考えてみたらリビングを通らないと行けないんでした。ひとまずお客様の前に出ても問題ないよう、髪留めで乾ききっていない髪を纏め、バスタオルは洗濯カゴの中へ。
お風呂上りなので服はもう仕方ないから諦めよう…他の服を取りに行くことも出来ませんし。意を決してお風呂場から出てリビングへ顔を出すと、そこにいたのは三蔵様と悟空でした。


「…あれ、悟空と三蔵様だったんですか」
「お、香ちゃんも一緒に飲まねぇ?」


悟浄くんが差し出してきた缶ビールを受け取りつつも、お風呂上がりなので先にお酒以外の水分を補給しておかないといけませんから。冷蔵庫からウーロン茶を取り出してそれを一気に飲み干した。


「それにしてもどうされたんです?こんな夜更けに」
「別に。ただの気まぐれだ」
「はあ、そうですか」
「なー三蔵、俺腹減ったー」
「…散々夕メシ食っただろうが、てめぇは…!」


悟空の食欲は相変わらずですね。缶ビールを開けてクスクス笑っていると、テーブルの上には何もおつまみになるものが置かれていないことに気がついた。悟空はお酒を飲める歳じゃないし、他の3人もおつまみがないと悪酔いするような方々でもない…それに夕食を食べた後ですからお腹はいっぱいなんです。空きっ腹にお酒をいれているわけではありませんけど、でもまぁあっても困りませんよね?私達が食べなくても悟空が食べるでしょうし。
さて、冷蔵庫には何があったかな…ちょうど明日、まとめて食材を買ってくるつもりだったから使い切ってしまっても問題はない。朝ご飯にはパンがあるし、夕食に食べたスープも多めに作ってあるからそれで大丈夫でしょう。

適当に食材を出してキッチンに立つと、目を輝かせた悟空に「何か作るのか?!」と抱きつかれた。彼の頭を撫でながら軽食だけどね、と声をかければものすごい喜ばれちゃいました。…何だろう、いつも悟浄くんや三蔵様に猿と言われている彼だけど、今の様子を見ると―――尻尾振って喜ぶ犬、ですよね?やっぱり。ふふっ可愛いなぁ。


「あ、そーだ八戒!これもらったんだ!」
「おや枝豆ですか。ずいぶんと立派ですねぇ」
「ちょーどいいじゃん、酒の肴にしようぜ」
「ですね。香鈴、小さめの片手鍋空いてますか?」
「ええ、空いてますよ。使います?」
「枝豆もらったので茹でようかと」
「ああ、肴にちょうどいいですね。お湯沸かしましょう」


たっぷりの水と塩少々。それを鍋にいれて火にかけ、沸騰するのを大人しく待ちましょう。
その間に完成した即席炒飯を悟空に出せば、すごい勢いで食べ始めた。その光景を目にした三蔵様は呆れた様子で溜息を吐き、悟浄くんも思わず苦笑い。でもまぁ、この勢いの良さを見たらそんな反応にもなりますよねぇ?私だって苦笑しちゃいましたもん。
他にも何か作ろうか、と思ったのだけれど、枝豆もそこそこ量があることだし必要ないですかね。元々、食べる量が多いのは悟空だけですし。


「香鈴、片付けと枝豆茹でるのは僕がやりますから座っててください」
「え、でも…」
「いーからこっち座れって、香ちゃん!」

―――グイッ

「わっ…!」
「たまには八戒に任せとけって。んな頑張る必要ねぇのよ?」
「…無理はしてませんよ?」


それは知ってる。だからこそ、だよ。
ニカッと笑ってそう言った悟浄くんは、私の頭をぐしゃぐしゃにかき回す。まだ水気の残る髪に触れて、ちょっとだけ驚いた声を上げて早く乾かしてこい、って。それを見た八戒くんがまたですか仕方ないですねぇ、って苦笑して、悟空も風邪ひくぞーって炒飯をもぐもぐ咀嚼しながら言って、三蔵様は煙草を咥えながらバカが、と呟いた。

…変なの。少し前までは知らなかったはずのこの光景が、どこか懐かしいって感じるなんて。出会ってから1年足らずしか彼らと一緒にいないのに、それでももっとずっと昔からこの温かさに触れていたような気がして―――ちょっとだけ、泣きそうになってしまったのは内緒。





「あ、三蔵と悟空が潰れた」
「悟浄くんも眠っちゃってますね、…もう、だからペースが早いって忠告したのに」
「ははっ言って聞くような人じゃないのは、貴方もよく知ってるでしょう?」
「そうですけどね?だからって潰れるまで飲まなくたって…」


私はお休みをもらっているけれど、三蔵様は明日も朝から仕事が待っているはずなのに寝落ちてしまって大丈夫なんでしょうか?だからといって叩き起こすようなことはできないので、静かに毛布をかけておきますけど。


「ふあ、」
「ああ、さすがに僕も限界です…久しぶりにこんな時間まで飲みましたねぇ」
「普段は私も貴方も日付が変わるくらいには眠ってますから」
「仕事がありますからね。…香鈴、」


部屋に戻るのも面倒だなぁ、と欠伸を噛み殺していると、静かに名前を呼ばれた。何ですか?と振り向くと、穏やかな笑みを浮かべた八戒くんがそこにいる。カチャン、と食器を片づけ始めながら彼は楽しかったですか?と一言、呟きました。
楽しかった、とは今日のことを言っていらっしゃるんでしょうか?八戒くんと悟浄くんと悟空と三蔵様がいて、5人でお酒を飲みながら他愛もない話をしていた、この時間のことを。
そのことを問うてるのだとすれば、そんなの言うまでもないでしょう?答えは、ただ1つしかないんですから。


「楽しかったですよ?とても」


八戒くんの隣に立って、テーブルの上に散らかる空き缶や空き瓶を集めながらそう口にした。


「…そうですか」
「はい。…もう二度と、こんな気持ちにはなれないだろうって思っていたんですけれど…それは勘違いだったみたい」

―――あの日からずっと、楽しいばかりですもの。

「香鈴…」
「そりゃあ色んなことありますけどね?それでも、…楽しいことの方がずぅっと多いです」


洗うのは起きてからにしよう。お皿やコップを全て流しに放置してリビングに戻った所で、徐に八戒くんが口を開いた。今日、三蔵様と悟空が突然訪ねてきたのは―――私がこの家に居候するようになって1年が経ったからだ、と教えてくれたんです。お祝いするようなことではないけれど、それでも私に笑ってほしくて八戒くんと悟浄くんがあの2人を誘ってくれたんだそうですよ。
それを聞いてびっくりしちゃいました。だって本当に、お祝いするようなことじゃあないんですもの。


「やだもう、」
「意味なんかなくても、でもそれでも―――僕は、…いいえ、僕達は貴方に出会えて良かったなぁって思ってるんです。それを形にできたら、と思っていたんですけど…」


普段と何も変わりませんでしたね。
八戒くんはそう言って苦笑を浮かべていたけれど、でも…私と会えて良かった、と笑ってくれたから。その言葉が、笑顔が泣きたくなるほどに嬉しかったから、だから…いいです、普段と変わりない時間でも。
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