ドッペルゲンガー、現る?


パチリ、と目が覚めた。あれ?私ってばいつの間に眠っちゃってたんだろう…起き上がってうーん、と伸びをした所で気がついた。違う、私、さっきまで皆さんと一緒に町に出かけていたじゃないか。それなのに眠ったりできるはずがない。
勢い良く視線を上げてみれば、そこは真っ白で、何も存在していない空間でした。霧がかかっているようで、数メートル先はもう何も見えない状態、というか、誰かがいる気配は一切ないですし建物も建っていないんですけど。
明らかにさっきまでいた場所とは違う、ということがわかります。一目瞭然ってやつです。一体、此処は何処なんですか。そして皆さんは何処に行ってしまわれたのでしょう。


「…あ、違う…皆さんが消えたんじゃない。私、が…」


そうだ。あの男性に胸を貫かれて、それで意識を失ってしまったんでした。
刺された辺りに触れてみるけれど、そこに傷口なんて存在していませんでした。血で汚れた跡もないし、服が切れた様子もないときた…でも確かに刀で刺されていたはずなんです。しっかりと記憶が残っているし(さっきまでは混濁していたけど)、慌てた声音で私の名前を呼ぶ皆さんもいたはずなのに―――だけど、痛みだけは覚えていないんです。
刺された感触はあったし、ズルズルと刀が抜かれる感触もあった。それに間違いはないのだけれど、本当に痛みは一切感じていなかった気がするんです。
うーん、今考えてもおかしな感覚でした。痛みはないのに、刀が抜かれる感触がいやにリアルで気持ち悪いって意識がなくなる瞬間、本気で思いましたからね。…どういう仕掛けだったのかはわかりませんが、今、私が町中でも宿でもないこのよくわからない場所にいるってことは、…考えたくないですが、死んだってことになるんですかねぇ?

(うーわ、最悪じゃないですか…醜態晒した挙句、あっけなく死んじゃうとか)

とはいえ、死んだ感じはゼロですね。刺されたとはいえ、痛みもなく、血もでることなく、そう簡単にあの世に旅立てるとは思えない。刺されたのならば痛みを感じるのが当然だし、こんなにもあっさり命が絶たれるなんて…………いや、有り得るのかな?もしかして。意外と何でもアリの世界ですから、おかしな術があると思っても変ではないですよね〜。
あ、そんなこんなで閃きましたよ。私。


「―――もしかして…精神を引き離された、とか?」


金閣くんに襲われた八戒くんと悟空は、肉体と精神を引き離されていたんだ。それと同じような道具、もしくは術が他にも存在しているのだとしたら…私もその可能性が高いと言えます。となると、あの刀が一番有力ってことかなぁ…それ以外に道具を使っていた様子はありませんでしたし、術を掛けられた記憶もありませんから。
…って!原因がわかったところで対処法が見つかるわけじゃないけどね!!あの時はどうしたんだっけ、私はお留守番で、悟浄くんと三蔵様が頑張ってくださっていたからなぁ。

(思い出した。魂が入っているであろう瓢箪を、悟浄くんがぶっ壊したっぽかったんでした)

えーと、だとすれば私ができることって何もないんじゃないか?
サーッと血の気が引いていくような気がしました…だって、私は助けて頂けるまで待つしか方法がないってことになるんですもの。血の気も引きますわよ。助けを待っているだけ、だなんてしたくはないんだけどなぁ。

はぁ、とつきそうになった溜息を慌てて飲み込み、気合を入れ直して立ち上がる。手がかりがあるとは思えないけど、歩き回ってみれば何か見つかるかもしれません。ここでずっと座っていじけているよりずっといいですよね!
よーし、そうと決まれば元気を出して行ってみましょう!!…なんて、空元気でも何でもいいからこうしてないと気分が地の底まで落ち込みそうで…きっとマイナス思考まっしぐらになること間違いないので、ちょっとおかしなテンションでいこうと思います。誰に言っているのかすらわかりませんけどね。


「とりあえず、歩き回って現状把握!落ち込むのは、……後にしよう。うん」


ザッザ、と音がするように、確かに自分が存在しているんだと実感する為に、普段とは違う歩き方をしてみる。どうやら私は、思っている以上に混乱しているようです。だぁれもいない空間が、こんなにも心細くて怖いものだとは思いませんでしたわ…。


「皆さんは、無事なんでしょうか…」


あの男性の真意が、どれだけ考えてもわからないの。私のことを『紅英様』って呼んだり、あともう少しでお迎えに上がりますとか、共に参りましょうとか言ったり、…何を、したかったのでしょうか。
私が目的?それとも、私を餌に皆さんの命を奪おうとか、そういう魂胆?だけど、あの方から妖気は感じなかったし制御装置をしている感じでもなかったんですよね。ただの人間だと仮定すると、余計に皆さんの命を狙う理由がない…お尋ね者とされているのは確かだけれど、それは妖怪の間だけでのことだもの。人間だったら知りもしないことだわ。

無事だと、いい。何もされていないといい、血生臭いことになっていないといい。足を止めた私の頭の中を巡るのは、そんなことばかり。
じわり、と涙が滲みそうになって思わず目を瞑った。馬鹿だ、泣いた所で此処から出られるわけではあるまいし、皆さんの無事が確認できるわけでもないんだから。


「あら、泣いちゃったら可愛い顔が台無しだよ?」
「ひ、?!」


まさか敵?!バッと顔を上げてみれば、そこには三蔵様のような眩い金糸の髪の女性が―――ぷかぷかと宙に浮いていらっしゃいました。
えっと、宙に浮いているのもそうだし、此処にいる理由とか色々ツッコみたい所があるんですけど、でも…一番驚いてしまったのは、女性の顔でした。


「私に、そっくり……?」


自分にそっくりな人間が、この世には3人いるという。けれど、それを自ら体験することになろうとは思いも寄りませんでしたよ。本当に。
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