よろしく、相棒
宝物庫の前を通りかかった時、何か音が、聞こえたような気がした。
鈴の音のような澄んでいて、とても綺麗なその音はまるで何かを呼んでいるかのように思えて。三蔵様や八戒くんが私の名を呼んでいるのもちゃんと聞こえているのに、体が勝手に動いてしまう。フラリ、と辿り着いた先にあったのは、柄に鈴が付いた刀と二丁の拳銃。
「香鈴、急にどうし……刀と拳銃、ですか?」
「―――呼ばれたんです、きっとこの子達に」
「あ?呼ばれたとはどういう、」
―――パァッ
―――シュンッ
急に光ったかと思えば、さっきまで目の前にあったはずの刀は跡形もなく姿を消していた。残っているのは二丁の拳銃のみ。突然の出来事に私は当然ながら、三蔵様と八戒くんでさえ驚きの表情を隠せていない。だって目の前で刀が消えたんだもの、驚くしかないでしょう?驚かない人がいたら会ってみたいものですよね。
…それにしてもさっきの光は一体何だったのでしょう。そしてあの刀は何処に消えてしまったのか…不思議なことって起きるものなんですね、あまりオカルト系は信じていなかったんですけれど。
「刀は何処に消えてしまったんでしょうねぇ」
「……香鈴、その銃も持ってこい。両方共だ」
「へ?あ、はい!」
言われた通りに床に置かれていた拳銃を持って、さっさと宝物庫を出て行ってしまった三蔵様の後を八戒くんと慌てて追う。行く先はきっと執務室でしょうからそんなに慌てなくとも問題はないと思いますが、遅い!とハリセンを食らわされるのは勘弁したい所なのでやっぱり急ぐことにしよう。
それにしてもこの拳銃は持ってきても良かったのだろうか。どんな謂れがあるものなのか全くわからないけれど、宝物庫にしまってあったくらいだからすごいものだと思うのだけれど。消えてしまった刀の行方も気になるし、…何というか、私、三蔵様にお説教されるような予感がしてなりません。そんな僅かな恐怖を抱きつつも執務室へ入ると、三蔵様がいつも以上に眉間にシワを寄せ、何かを考え込んでいるご様子。
眉間にシワを寄せているものの、不機嫌なオーラは…今の所、出てる感じはしませんね。色々と気にはなりますが、考え事をしている三蔵様のお邪魔をしてはいけません。お茶の準備でもしてきましょうか。持っていた拳銃を八戒くんに預けて一旦、執務室を出ようとしていたら名前を呼ばれました。
「手に意識を向けて、出てこいと念じてみろ」
「い、いきなり何ですか…そんなことしたら魔の物が姿を現しちゃいますよ?」
「ごちゃごちゃうるせぇ、いいからやってみろっつってんだ!」
今にも発砲されそうな剣幕だったので、言われた通り、手に意識を向けて出てきてください、と念じてみる。こんなことをして私の体の内から何が出てくるというのだろう…と、思っていたのだけれど…手の中に納まったのは、さっき宝物庫で姿を消した刀でした。…え?どういうことですか?どうして持ってきた覚えのない刀が私の手の中にすっぽりと納まっていらっしゃるんです?!
刀を凝視したまま、静かにパニックに陥っていると「やっぱりな」と呟く三蔵様のお声が耳に届きました。一体、何がやっぱりな、なんでしょうね?私には全く予想がつきません、八戒くんも私と同じみたいで疑問符を浮かべたまま、三蔵様を見ていらっしゃいます。驚いていないのはその三蔵様のみ、です。
「え、ちょ、えええ…?!」
「三蔵、どういうことですか?」
「さっきのは悪用されんようにこの寺院で預かっていたモンらしい、詳しいことをわからんが、まぁ魔の力でも宿してんだろうよ」
「何でそんな曖昧なんですか…」
「曖昧な情報しか残ってねぇんだよ。とにかくそれらはてめぇを主人と認めちまったんだ、使いこなせ」
んな無茶苦茶な!刀も拳銃も使ったこと、一度もないのにどうやって使いこなせと仰るんですか!確かに三仏神様からの命を受けて依頼をこなしていると、多少はこういうものが使えると便利だなーとは思っておりましたが。いい機会だと思って、最近は八戒くんに体術を習ってもいますけど…どうしたらいいんでしょう。
三蔵様曰く、一度主人と認められてしまった以上は死ぬまで手離すことができない、とのこと。つまり、これらを手離したいのなら死ぬしか方法がない、ってことですのね。うん、それだけはごめんです。今はまだ死ぬわけにはいきませんって。
これが2週間ほど前に起きた出来事です。拳銃は三蔵様にご指導をお願いして、刀は―――…まぁ、何とかかんとか使いこなそう、と必死に特訓中。少しずつ扱いには慣れてきたかな、って感じなのですが、まだまだ時間はかかりそうですねぇ。
こんなにも体を動かしたのは久しぶりだ、と痛む筋肉を解しながら執務室へ入ると、そこには不機嫌オーラを惜しむことなくダダ漏れにしている三蔵様がいた。その足元にはきょとんとした顔を見合わせている悟空と悟浄くんの姿。…ええっと、一体何があったんでしょうか?
事の成り行きを眺めている八戒くんに近寄って話を聞いてみるものの、彼もついさっき此処に着いたばかりで何が何だかわからない状態なのだそうです。
「…で。何故呼び出されたかわかってんだろうな?」
「皆でメシ食いに行こうとか…」
「女紹介してくれるとか…?」
―――スパパン!
「〜〜〜〜なワケねぇだろッこのすっとこどっこいども!!!」
「すっとこどっこいって神道の言葉なんですけどね」
「え?そうなんですか、初めて聞きました」
そんな私達の会話は無視して、三蔵様は先週の大掃除の件をお話し始めました。
ああ、そういえば先週は全員総出で慶雲院の大掃除をやったんですよね。部外者である八戒くんと悟浄くんもお手伝いに、と三蔵様が呼びつけて…確か悟空と悟浄くんには宝物庫のお掃除をお願いしていたんだ。でも何も問題を起こした、とは聞いてなかったですが、この怒りようを見ますと何かしでかしちゃってるんですね?2人共。
さっきまでは何のことやら、という顔をしてましたけど、宝物庫で何をしでかしたんだ、と問われると悟空はあって顔になり、悟浄くんは明後日の方を向きながら口笛を吹いてます。うん、何かをしてしまったのには間違いないんですね…ひとまず、何があったのか聞いてみるとそれはもう盛大に溜息をつきたくなっちゃいました。
2人はあの日、宝物庫の掃除をしてくれていたのですが途中から何故かチャンバラごっこを始めてしまったそうなんです。まぁ、悟空は遊び盛りのようですから仕方ありませんけど、悟浄くん、貴方いい歳して何をしてるんですか。そこは年上として止めなきゃいけない場面なんじゃありません?
…とまぁ、ここまで聞いていれば少しずつ話は読めてきましたが…ヒートアップした2人は、棚に置かれていた壺を落としてしまったそうな。その壺は当然ながら割れてしまったらしいのですが、マズイと思ったのでセロハンテープでくっつけたそうです。悟空の手にある壺は確かにセロハンテープでくっつけられていますが、…いや、どう見てもダメでしょうこれは。
「悟浄くん…」
「貴方いい歳して何やってるんですか…」
「ちっげーよ!!俺はコイツにつき合って遊んでやったんだっつーの!!」
「〜〜〜ズリィ!!人のせいにすんじゃねーぞ?!悟浄が最初に仕掛けてきたんじゃん?!」
ああもう、どうしてこの2人はいつもこうなってしまうのでしょう。いい加減止めないと三蔵様の逆鱗に触れてしまいそうだ、と思っていたら、悟浄くんと悟空の手の中には見たことのない武器が握られていた。
「えーと、ちょっと待ってください。」
「…あらまぁ。何処から持ってきたんです?その武器」
「え?…あれ、何だコレ」
「どっから出てきた?!」
「…やはり、てめぇらが持っていたか」
ああ、ということはこの2つの武器があの壺に封印されていたものなんですね。三蔵様が持っていたカンペによりますと、あれらは『宝物』で魔の力を宿すと言われていて、悪しき者に利用されないようにこの寺院で保護していたものだそうです。
悟空くんが持っているのが意のままに形状を変えられる『如意棒』で、悟浄くんが持っているのが鎖ガマを自由自在に操ることのできる『錫月杖』と言うんだそうですよ。見た目通り、武器のようですね。
「コレのどの辺が鎖ガマだっての?」
―――ヒュンッ
「あっ悟浄くん無暗に振り回したら―――」
危ない、と言おうとしたのですけれど、時すでに遅し。ジャラリ、と伸びた鎖ガマは三蔵様の机の上に置いてあった書類や巻物、更には家具などにも傷をつけていく。こっこれはちょっとマズイです…!慌てて刀を召喚して、タイミング良く飛んできたカマを受け止めれば、何とか止まってくれた。
室内はひっどい惨状ですが、皆さん怪我はなさそうで一安心だわ。…怪我どころか、命を狙われた気分でしたけどね。本当に。
「び、…っくりしたぁ…ちょっと髪の毛掠りましたよ?私」
「てめぇは俺らを刺身にでもする気か?!」
「……ワリ。」
肝を冷やしましたけど、成程、確かに鎖ガマですね。
召喚した刀をしまってから辺りの惨状を把握しようと視線を巡らしていたら、悟空の髪の毛が短くなっていることに気が付いた。恐らく、さっきの鎖ガマにバッサリやられちゃったんでしょう。…ああ、切られた髪の毛があんな所に落ちています。
悟空はそのことに気が付くとひどく落ち込んでしまいました。そういえば初めて会った時から髪の毛は長かったっけ…その後もバッサリ切っている姿を見かけたことは一度もない、もしかしなくても伸ばしているのかしら?
あの落ち込みようからすると、何があっても切りたくないって感じがします。理由まではわかりませんけれど。
「気にすんなよ髪の毛ぐらい。どーせすぐ伸びんだろ?」
「なんだよその言い方?!伸びろっつってすぐ伸びるモンじゃねーんだぞ?!」
―――ドゴッ!
「…伸びましたね。」
「あらあら…持ち主の意のままに、ってことなんですね」
「―――お前ら。此処が誰の部屋だか言ってみろ」
「……ワリ。」
色々とどうしましょうねぇ、この状況。
考えていても仕方がないので片づけられるものから、と散らばった書類をかき集めることにした。あ、良かった…何枚か真っ二つになってしまっているけれど、書類に関してはそこまで被害は大きくなさそう。ひどいのは家具の傷と立派な穴の開いてしまった天井、ですかね。これに関しては業者の方を呼んで頂かないと直すのは大変そうですわ。今から連絡したとして、どのくらいで来て頂けるものなのでしょう…予想がつきません。
そうそう、2人の手に渡った如意棒と錫月杖は私の刀と拳銃と同じで、持ち主が死ぬまで手離すことが出来ないそうです。なので今すぐ命を投げ出して手離すか、上手く使いこなすかの2択しかないということ。
その言葉を聞いて八戒くんが嬉しそうに特訓ですね、と親指を立てているのが見えます。私の時もそうでしたが、彼は特訓が好きなんですかねぇ…何だかイキイキしているように見えますもの。