時を重ねて
―――ぜっ…はぁ、
ジャリ、という音に混じり、もう誰のものかもわからない荒い息だけが辺りに響いている。負けて堪るものか、という負けず嫌い精神で必死に食らいついてきましたけど、いい加減、辛くなってくるものってたくさんありますよね…!
というわけで、地図通りに進んできた結果―――まさかの山登り、もとい、ロッククライミングをする羽目になっております。
八戒くん曰く、ここを越えないと西へのルートを逸れてしまうそうなんです。それならば仕方ありません、と言いたい所ですが…いや、納得できる範疇を軽く超えてますからねこれ!!
「香鈴、大丈夫ですかー?」
「な、んとか…っはぁ、頑張ってるのでできれば話しかけないでくださいっ…!」
登ることに集中していないと、足を滑らせて真っ逆さま!という洒落にならないことになり兼ねないので!私の必死な形相が見えたのか、八戒くんはわかりました、と苦笑を浮かべていた。わかって頂けて何よりですよ、本当…!というか、話しながら登れる皆さんがすごいと思います本当に。
頂上まであとどれくらいだろう、そしてこの先、こんな場所ばかりじゃないことを祈りたいです。西域は地形の起伏が激しいらしいのですが、異変の影響で地図とかなり変わってしまっているらしいですから。今までにもそんな場所をいくつも見てきてはいますが、…ここまで辛いのは未経験です。
ああでも、こんな経験はしなくても良かったなぁ…と遠い目になりかけていると、銃弾が撃ち込まれる音が聞こえた。ちょっと、何もこんな所で発砲しなくても―――と視線を落としたけれど、思えば体力がない三蔵様に銃を撃つ元気なんて残っているわけがない。だとすれば、考えられるのは…
「生きていたとは好都合だぜ、お尋ね者の三蔵一行!その命と経文と女、我々が頂いた!!」
「…嘘でしょバカじゃないの……?!」
「こんな所でかよ?!」
「空気読めって!!」
「いやぁ、むしろ空気読んだ結果じゃないですかねぇ」
ああ、それは一理ある……とでも言うと思いましたか?!
「んもう、本気でうざったい!!」
―――ガゥンッガゥンッガゥンッ!!
「―――皆さん、足場に気を付けて!!」
「言われるまでもねーっつの!」
「あ、多分八戒くんが言いたいのは落ちたら危険ってことだけではないと思いますよっ」
「は?」
「もう一度、登り直すことになりますから」
「成程、最悪だ」
ですよね!せっかく大変な思いをしてここまで登って来たんですから、怪我して登り直すなんてこと絶対に!したくありません。そんなの願い下げもいいとこですよ。
…っそれにしても足場が悪すぎて、すっごく戦い辛いです!!それに普段のように刀を振り回すこともままなりませんし、銃を2丁使うのも割と無理がある。もちろん1丁だけでも十分戦えますが、2丁あった方がぶっちゃけ楽なんですよねぇ。
はぁ、と溜息を吐いていると、何故か悟浄くんと悟空が喧嘩をしていました。いや、何してんのよ君達。呆れた眼差しを彼らに向けつつも、引き金を引く手は止めない。
1人、また1人と下へ落ちていく中、静かに三蔵様の銃口が火を噴いた。それは終わりを告げる合図。何とか全員返り討ちにできたみたいです。
それにしても悟空が抱えていたリュックって、かなりの大きさだけれど何が入っているのかしら?少し広めの足場でリュックを覗き込んでいる2人に倣い、そっと覗いてみれば―――…見事に食料がいっぱい入ってました。いくつも余計なものと思われるものも、入ってましたけどね。
「あら、これって三蔵様の…」
「三蔵、この金冠いらないんならもー捨てれば?」
「いらなかねーよッ」
そりゃそーだ。その金冠って確か、三蔵法師様の正装の1つですものね。捨てたらマズイです。いくら生臭坊主と呼ばれている三蔵様でも、さすがにそんなことはしないみたい。ま、当然か。
―――ガゥンッガゥンッ!
…って、まーた悟浄くんか悟空が余計なこと言ったんですね。三蔵様相手に言ったら、絶対にハリセンか鉛玉が飛んでくるんですから、いい加減学んだらいいのに。あの子達。
「ほら皆さん、もう頂上ですよー」
「マジ?」
「三蔵様、もう少しのようですよ。頑張りましょう」
「…ああ」
ようやく辿り着いた頂上。これをまた下りなくちゃいけない、という現実はさておき…そこから見える景色は、絶景と言っても差し支えない程に綺麗です。
―――こんなもん生きてりゃ何度でも見れるだろ。
いつか聞いた三蔵様のセリフが、ふっと脳内を駆け巡る。そうだ、あれはまだ旅を始めて間もない頃…休憩中に見た夕陽を背にしながら呟かれた言葉だ。何で今、あの時のことを思い出したのかまではわからない。けれどきっと、今の状況が、光景があの時と酷似しているからなのでしょう。
でも三蔵様の言う通りですね…生きていれば、何度だって見ることができる。いいえ、今までに何度も変わらぬ夕陽を皆さんで一緒に見てきましたね。それはこれからだって、きっと変わらない。変わらないんですよ。
ああ、やっぱり―――
「幸せで、…守りたいものですね」
どれだけの月日が経とうと、様々な出来事に潰されそうになっても、それでも私にとって4人は―――何物にも代えがたい、言うなれば命よりも大切なもの。