生まれた疑念


もうすぐ夜明け。まだ村の人達のほとんどが眠っているような時間帯なのに、私達はゆっくりと体を起こした。というか、感じる妖気に起きないわけにはいかなかったと言いますか。
全く…こんな時間に問題事を起こさなくてもいいじゃないですか。ふわ、と欠伸を漏らしながらも手早く着替えを済ませ、問題事を起こしている妖怪達がいる場所へと足を向けた。すると、そこには1人の女性を袋詰めにしようとしている姿―――成程ね?村の人達の失踪は、こいつらの仕業だというわけ。


「『ムレムレ熟女と野外乱交マニアックプレイ』―――っつーAV撮影でもなさそーだな」
「朝っぱらからなにほざいてんですか、悟浄くん」
「眠気MAXで機嫌最悪だろ、香ちゃん」
「はいはい。さっさと終わらせて二度寝しましょうね。…でもこれでハッキリしましたね」


騒ぎが大きくならない程度に神隠しの要領で村の人達を1人ずつ攫い、この村を『食糧庫』として食い繋ぐ、少人数の犯行だったわけだ。
そしてその疑いの目は、丘の上に住む妖怪である淀仁さんに向けられます。それを見越しての犯行、って所ですかね。


「あったまイイ―――って言うとでも思うか?セコイんだよな、やることがさー」
「……ッ黙れクソガキがぁあ!!」


悟空に殴りかかっても、返り討ちにされるのがオチですよー。なんて、今更忠告しても遅いんだけど。バッチリ反撃を食らった妖怪は、そのまま羊小屋の屋根を突き破りました。うん、お手柄だけどね悟空…小屋の屋根を壊しちゃうのはちょっとやり過ぎかな。
でもこれで神隠しも解決と言っていいのでしょう、いなくなった人達はもう戻ってくることはありませんが…これ以上、被害が増えることもない。めでたし、ではないけれど、必要以上に不安になることはないでしょう。だけど、淀仁さんに向けられた不安は解消されそうにないですね。それも仕方のないことなのかもしれませんが。


「香鈴?」
「―――何でもないです。戻りましょうか、三蔵様も限界でしょう?」
「さっきから船漕いでますからね。…気になりますか?」
「気になるというか、何というか…うーん、上手く言えません」


どうしてこんなに気になるんだろう。彼が世話をしている鳥達の、エサが何なのかなんて。
家畜の肉を、と言っていた淀仁さんの言葉を疑うわけではありませんが、でも心のどこかでそれは違うんじゃないかと思っている自分もいて、モヤモヤとしたまま私は布団に潜り直したのです。





「ん、…ん〜〜〜〜」
「お。起きたか?香ちゃん」
「はい…おはようございます……」
「ん、はよ。なぁ、悟空知らね?」
「悟空……?」


まだボーッとする頭を振って、必死に悟浄くんの質問を考えるけれど、ダメだ、働いてない。というか、何故起き抜けの私に悟空の所在を尋ねるのでしょう。だって妖怪を捕まえた後、一緒に部屋へ戻ってきて布団に潜り込んだハズなのだけれど…って、ん?もしかしなくても悟空、いないの?
そこまで考えてようやくハッキリしてきた私は、悟浄くんにいないんですか?と質問で返した。


「やーっぱちゃんと聞いてなかったな?何か姿が見えねぇんだとよ」
「こんな朝早く…?何処に行っちゃったんでしょう、あの子ったら」


八戒くんと三蔵様も悟空の行方を知らないらしい。でも眠れなかったみたいだから、その辺を歩いてるんじゃないかーって三蔵様は仰ってます。あまり心配はしてないようですが、…何か揉め事や面倒事に巻き込まれていないといいんですけどね。
うーん、と背伸びをして脱いでいた上着を羽織っていると、お世話になっている女性が元気な声でお連れの坊ちゃんなら朝一番で出かけましたよ、と教えてくださいました。誰かに伝えたいことがある、朝ご飯までには戻るからと伝言を残して。
誰かに伝えたいこと、ねぇ…その相手はすぐに予想がつきましたけど。


「ということは丘の上、ってことですよね?」
「確かに昨日から何か考え込んでいたようでしたからね…」
「猿のくせに、無駄な脳ミソ使いやがって」
「あはは。悟空だって考え事くらいしますって」


あの子は私達の中で一番、感受性が豊かな子ですから。色々と思う所があるんでしょう、淀仁さんに対しても。


「朝ご飯までに戻る、と言っていたのなら、そろそろ戻ってくるでしょう。先に食べていましょうか」
「それもそうですね…先に行っていてください。顔を洗ってから行きますので」
「そっか。早く来いよーアイツが戻ってきたら、あっという間になくなっちまうから」
「はーい」


3人の背中を見送って、私はタオルや洗顔フォームを持って洗面所へ向かった。顔を洗って歯を磨けば、薄ぼんやりとしていた意識もすっかり覚醒した。悟空がいない、と聞いた時にある程度ハッキリしていましたけど、やっぱり水で顔を洗うとしゃっきりするなぁ。もう一度だけ大きく伸びをして、朝ご飯を食べる為に食堂へ。
さすがに悟空も戻ってきているだろう、と思っていたんですが、席に座っていたのは相変わらず3人だけ。あの子の姿はどこにも見当たらない。おかしいなぁ…とっくにお腹を空かしている時間だと思うんだけど。
でも戻ってきていないのなら仕方がない、食べながら待つとしましょう。空いている椅子に腰を下ろし、3人より少しだけ遅れて私も朝食を頂くことにした。でも食べ終わる頃になっても、悟空は姿を現さない。


「遅いですねぇ…」
「またぞろ鳥とでも遊んでるんじゃねぇのか」
「やはり1人で行かせてしまったのが心配ですね」
「いくら妖怪っつったって、あんな草食系に悟空がヤられることもねーだろ。神隠しの犯人も捕まえたことだし?」
「確かにそうなんですけど、」


食後のお茶を飲みながら、でも嫌な予感がするんだよなぁ、と眉間にシワを寄せた。
確かに悟空は強いです。そう簡単にやられることはないだろうし、その前にやり返すだろうってこともわかってはいるんですよね。いるんですけど…でも明確な敵意や殺意を出してこない相手には、あまり警戒をしない子だから。
例えば、痺れ薬や眠り薬を入れられた飲み物を出されても、悟空は疑うこともせずに飲んでしまうだろう。それが一度、心を許した相手なら尚更だと思うんです。


「―――あら、落とし物ですよ」


悟浄くんに手渡されたのは、小さな手袋。子供用ですよね、どう見ても。何で彼がそんなものを…?不思議に思って聞いてみると、昨日、丘の上で拾ったんだそうです。もしかしたらこの村の子供が落としたのかも、と思って持ってきたんだそうですが、この村の子供があの丘の上へ行くとは思えないなぁ。
そもそも、大人達が厳重に注意をしていそうだもの。だけど、絶対に行っていないという証拠もないし、言い切れませんけどね。


「あの…ちょっとそれ、見せて頂けます?」
「もしかして、貴方のお子さんの?」
「息子のによく似ていて、…やっぱり…間違いないわ。これは私が編んだ息子のお気に入りだった手袋です!」


女性曰く、息子さんは流行病で半年前に亡くなったそうです。悟浄くんが拾った手袋も、息子さんの遺体と一緒に埋葬したはずだったそう。

そう、丘の上に落ちているはずが―――ない。

その事実を聞いた瞬間、ゾクリと悪寒がしました。推測でしかなかった考えが、少しずつ真相へと近づいていっている気がしたんです。


「この村は鳥葬を廃止以降、遺体を土葬しているのか。埋葬場は?」
「ええ、村外れに基地を設けて」
「案内しろ。今すぐにだ」
「えっ?!」


それが本当ならば、間違いでないのであれば…悟空の身が、危険かもしれません。悟浄くんには丘に向かうようお願いをし、私達は埋葬場へ。
まだ私達の推測は真実とはなっていない。ただの勘違いかもしれませんが、確かめるべきだとは思う…それだけの疑念が、ここにはあるのだもの。
- 153 -
prevbacknext