無意識の嫉妬
カミサマとの一件を片づけ、お腹いっぱいご飯を食べて、それぞれの部屋で私達はくつろいでいました。ちなみに部屋割りは、三蔵様、悟浄くんと悟空、八戒くんと私です。
本当は全員個室希望だったんですけど、さすがに空いていなかったみたいで…取れたのは個室1と2人部屋2の計三部屋。
普段なら八戒くんに問答無用で個室に突っ込まれるのは私なんですが、今日はそれより先に三蔵様が個室の鍵を引っ掴んでしまったんですよねぇ。
そのことに意義を唱えるつもり(というかそんな元気もないだけなんですけど)はなかったので、何も言いませんでした。誰かと相部屋なのは何度もありましたし、むしろ個室で寝ることの方が少ない方ですから。早々、個室なんて取れるもんじゃないですからねぇ…だから取れた時は争奪戦に近いんですよ。まぁ、それを八戒くんが(腹黒)笑顔で一蹴しちゃうことも多々あるんですけれども。
「…これ、どうしましょう」
お風呂にも入ってスッキリさっぱりした所で、私は絶賛荷物整理中。2〜3日滞在することが決定したらしいので、その間に汚れた服を洗濯しようと思って選別していたんですけど…この服、洗っておくべきなのかしら。
―――ガチャッ
「香鈴、良ければ悟浄達の部屋で―――…って、何をしてるんです?」
「あ、八戒くん。お風呂、気持ち良かったでしょう」
「ええ、広いお風呂は久しぶりでしたから…じゃなくて、貴方は一体何をしてるんですか」
「洗濯する服を出していたんですけど、これどうしようかなぁって思って」
バサリ、と広げたのはメルヘンなデザインのふわふわワンピース。そう、カミサマに捕まってしまった時に着ていた服で、実はこの町に着くまでの間もずっと着ていたものなんです。この服のまま彼と闘っていたものだから血がついたりしてるし、所々ほつれてしまっているのだけれど、それはまぁ直せる範囲内だから何とでもなる。
一番の問題は、この服をこのまま持っていたとして着るかどうかってことなんです。
正直、旅に出る前の私―――もっと詳しく言えば、家族と暮らしていた頃の私なら何の迷いもなく着ていたと思うんです。可愛いもの好きですし、こういうデザインの服も嫌いじゃない。むしろ好きなんですけど、…八戒くん達と暮らすようになって、三仏神様からの依頼をこなすようになってからはスカートなんて一切、はかなくなってしまったんです。
旅に出るようになってからはもっとですよね、妖怪との戦闘が日常茶飯事ですから。
「こういう服嫌いではないんですけど、着る機会はなさそうだなぁって…」
「否定はしませんけど、貴方…こんな服持ってました?」
「いいえ、私のじゃありませんよ。多分、カミサマのものです」
捨てるにしろ、洗うにしろ、ひとまず畳んでおこうと会話をしながら手を動かしていたら、八戒くんが急に黙り込んでしまいました。「え。」と声を発したまま、そのまま数分だんまり。
別段気にしていなかったので、畳んだワンピースを傍らに置いて、他に汚れているものがないかカバンを漁っていると、恐る恐るといった感じで八戒くんが口を開いた。
「カミサマの、って…どういうことです?」
「ほら、私、彼に捕えられていたでしょう?目を覚ましたらこの服に着替えさせられていたんですよ」
びっくりですよね〜、と笑って言ったら、部屋の空気がビシッと固まったような気がした。あ、あれ?これってもしかしなくても、地雷ってやつを踏んじゃった感じですかね…?で、でもおかしなことは1つも言ってないですよね?彼の地雷を踏むようなことなんて、どれだけ思い返しても言っていない、と、思う、うん。
大丈夫、大丈夫…私は何も悪いことしてない。内心、冷や汗ダラダラの状態で繰り返していたら、黒いものを後ろに携えた(もちろんそんな気がするだけです)八戒くんが、無言のまま畳んだワンピースを引っ掴んで、ゴミ箱に捨てました。それも勢い良く。
うわぁ…何かよくわかんないけど、ご立腹…!
「は、はっかい、くん?」
「…着る機会がないでしょうし、破れている箇所もありましたから問題はありませんよね?」
「(問いかけだけど、ほぼ断定してませんか?!)」
「ね、香鈴?」
「はっはい!問題ないです!!」
こっ怖い!いつも悟浄くんと悟空が彼の笑顔を怖いって言うことは何度もあったんだけど、私はそんな風に感じたこと一度もなくて。でも今日、2人の気持ちがようやくわかった…うん、これは怖い、すっごく怖い!!それが自分に向けられたものだったら、余計に怖いです!!!
彼との間に流れる沈黙は、普段なら気にもしないし、気まずいと思うことはないんですけれど…悟浄くんと悟空が私達の部屋を訪ねてくるまでの間の沈黙は、痛くて痛くて仕方ありませんでした。
(…で?どーしたの、アレ)
(私にもよくわからないんですけど、…かくかくしかじかで)
(あー…なーるほど。そりゃ怒るわな、アイツも)
(えっ悟浄くんわかったんですか?!)
(わかったけど、鈍チンな香ちゃんには教えてあーげない。自力で考えてみ)
(ええ?!何ですかそれー!)
((自分じゃない奴に、それも男からもらったものを身に着けてるのなんて…そりゃあ見たくはねぇよなぁ))