ちいさな友達とおっきな人達
ようやく辿り着いた町の小さな宿屋。入り口にはペットお断りの看板がでかでかと掲げられていて、無理を承知で頼み込んでみたものの…やっぱりダメだ、と言われてしまいました。
たまにジープを部屋に入れてあげられないことはあるんですけど、でも今日みたいに肌寒い日は温かい部屋の中に入れてあげたいって思うんです。けど、内緒で入れるわけにもいかないし…ジープが宿屋の御主人や従業員の方に見つかってしまったら、きっと追い出されてしまう。そうなるとジープは気にしてしまうでしょうし、何よりあの3人がうるさくしそうですしね。
だから八戒くんと一緒にごめんね、と言いに行ったんですけど―――
「あれ?いない…」
「本当だ、何処に行っちゃったんでしょう」
宿の周りを見てみたけれど、車の姿はおろか竜の姿も見当たらない。ひとまず戻ろう、と部屋に入ったけれど、今までにあの子が勝手にいなくなることなんてなかったからちょっと心配だな。
3人に話すとその辺をブラついてるんじゃないのか、って言われたけど、でもジープはすっごく律儀な性格してるからそこにいてね、って言うと絶対に迎えに行くまで動くことをしないの。だから、…もしかして何かあったんじゃないのかなって。
「ちょっと俺捜してくる!」
「あっ待って悟空!私も行くわ」
「オイオイ、こんな時間にかァ?!」
「何言ってるんですか。まだ12時前ですよ?」
「そうですよ、悟浄くん。夜はこれから―――でしょう?」
「…言うようになったねぇ、香ちゃんも」
1人くらいは此処に残って、もしジープが帰ってきてもいいようにしておいた方がいいですね。動く気配のない三蔵様に留守番をしてもらうことにしたんですが、…この御方、めっちゃ船漕いでる!確かにお坊様である三蔵様は朝が早いから、夜は早く寝るみたいですけども。この状態の三蔵様に留守番をお願いして大丈夫なのかなぁ…絶対に待ってる間に寝てしまいそうなんですけど。
一株の不安を抱えながらも、私達は二手にわかれてジープを捜しに町へと繰り出した。もう日付も変わる頃合だけれど、酒場がたくさんあるらしいこの町はまだまだ眠らないらしい。煌々と灯っている明かりを頼りに真っ白な竜の姿をしたあの子、もしくは緑色の車体のジープを捜してはみるものの…夜の帳が落ちたこの時間でも目立ちそうなジープの姿は見当たらない。
「いない…何処に行っちゃったんでしょう」
「あまり勝手に行動するような子ではないんですけどねぇ…一度、戻りましょうか。悟浄と悟空が見つけてくれているかもしれませんし」
「ええ、そうですね」
一通り探して宿に戻ってくると、ちょうど悟浄くん達も戻ってきた所だったらしい。部屋に入ってどうだったか聞いてみると、やっぱり何処にもいなかったみたい。
酒場とかで目撃情報がないか聞いてくれたらしいんですけれど、…あの、ちょっとね、質問に問題があったんじゃないかなーって。だって「竜とかジープの型した生き物見なかった?」って質問なんですもん…聞かれた人ははぁ?って感じですよね?八戒くんも苦笑いしてるし。
そして私達の話を静かに聞いていた三蔵様が、ここまでくると盗まれた可能性があるかもしれないと口にした。…まぁ、生き物としてはかなり珍しいですし、ジープ―――というか、車自体がこの辺りじゃなかなか手に入らないものですから、盗まれてもおかしくはないと思うんですけど、でもあの子は変身して逃げることができるからなぁ。自分の意思もきちんと持っているから、危険になっても自力でどうにかしそうなものなんだけれど…。
「…もしかしてジープの奴、家出したんじゃねぇの…?!」
「え、家出?ジープが?」
「ぜってーそうだ!!だって皆、ジープの扱い悪ィじゃん!!」
悟空に言われて思い返してみる。
「…悟浄くん、煙草の灰でシートに焦げ目つくったことありますよね」
「―――あ。」
「三蔵なんてジープの上でガンガン実弾撃ちまくるしッッ!!」
「それはてめぇらが走行中に大騒ぎするからだろうが!!」
「第一、人のこと言えんのか、この猿?!お前だってよくジープに技かけたりしてんじゃねーかよ!!」
ああ…そういえばそんなこともありましたねぇ。やり過ぎたり、構いすぎたりしてジープに引っ掻かれたり噛まれたりしたこと、悟空は多いですよね。あまりそういうことをしない大人しい子なのに珍しいな、って思った記憶があるもの。
だけど、彼の最後の一言が、一番決定的だった。
「どんなにウマそうに見えてもぜってー食わねーし!!」
「ジープを食料扱いするのは、世界中探しても絶対君だけだよ悟空…」
食べられそうになったら逃げて。超逃げて、ジープ。
うーん…これだけ挙げられちゃうと、家出説も濃厚になってきちゃいますねぇ。八戒くんや私も運転がかなり荒い時がありますから、あの子に多大なる負担をかけてると思いますし。
見つけたら謝らなくちゃ、と溜息を吐いていると、真っ黒なオーラを纏った八戒くんが極上の笑みを浮かべて、悟浄くんと悟空の方を向いていた。2人は青褪めてるし…君達は一体、彼に何を言ったんですか。
「でもこのままじゃ俺らこの先、徒歩だぜ」
「そうですねぇ、車なんてなかなか手に入りませんし…」
「じゃあ帰っちゃいます?」
―――スパンッ
「ダメに決まってるだろ。バカが」
「んー、他に乗り物なんつったら自転車とか?」
チリンチリンってベル鳴らしながら爆走するの?『玄奘三蔵御一行』って旗持って?…この5人で?
「―――ぶっ!く、ふふっ…!」
「あ、香鈴がツボッた」
「なに想像したのよ香ちゃん…」
「紛うことなき、僕達が自転車で爆走する姿でしょうね。想像力豊かですから、彼女」
はー…笑った、笑った!…だけどやっぱり、ジープがいないと困りますよね?何より癒しでもあるあの子がいないと寂しいですし。
「ジープも三蔵一行の一員ですもん」
「そうですね。悟浄がいなくなった時はそんなに困りませんでしたけど」
「車以下かよ」
「ご、悟浄くん、私は君がいなくなったら寂しいから!」
「…困る、とは言わない辺り、シビアだなぁ…」
「あ、…」
しまった、言葉の選択間違えた!とわたわたしていたら、悟空がもう一度捜しに行こう、と言い出した。そしてびっくりしたのは、普段なら梃子でも動かないと決めている三蔵様がその重い腰を上げたこと。…そういえば、前に八戒くんがジープを必須要因として見ているのはあの御方だ、と教えてくれたことがありましたっけ。それを踏まえての行動、なのかもしれません。もしかしたら。
そしてもう一度、二手にわかれて町に捜しに出てみたけれどやっぱり見つからない。しらみつぶしに捜した以上、これ以上は町を歩いても見つからないと判断した私達は、朝になったら帰ってくることを願って宿に戻ることにしたんです。
…まぁ、待っている間に4人は眠ってしまったんですけれど。
―――カタン、
「(物音…?)ジープ?戻ってきたの?」
「キュ!」
せめて私だけでも起きていよう、と眠気覚ましにシャワーを浴びていたら、小さな物音が聞こえた。もしかして、と思って慌てて服を着てお風呂場のドアを開けると、そこには何もかけずに眠ってしまっている彼らにシーツをかけているジープの姿がありました。
おかえり、と声をかけると、嬉しそうに鳴いて私の肩に停まってスリ、と頬に擦り寄ってきてくれて。ああ、可愛いなぁこの子は。
「ふふ、私達も少し寝ようか」
「むにゃ…ジープぅ…どこ行ったんだよー」
「あら、悟空ったら夢の中でもジープのことを捜してるわ」
「キュウ?」
「いなくなった君をね、夜通し捜していたの」
顎を擽りながらそう伝えれば、ごめんねと言いたげに頬を一舐め。帰ってきてくれたから大丈夫よ、と言ってからベッドに潜り込もうとした瞬間、むにゃむにゃと寝言を言っていた悟空が一際大きな声で―――
「焼き鳥にして食っちまうぞぉ!!」
そう叫んだもんだから、ジープは声にならない声を上げていました。