器用貧乏の紅
「あれ?香ちゃん、そんなアクセサリーつけてたっけ?」
ふと目に入った、彼女の胸元でキラリと光る物。それは確かに数日前までは存在していなかったものだ。
何となく問いかけてみりゃあ、一瞬だけきょとんとした表情をした香ちゃんがすぐに嬉しそうに頬を緩めた。だから何となく、それをこの子に贈った相手がわかったんだよな。…多分、っつーか絶対にアイツしかいねぇだろ。
「もらったんです。嬉しくてずっとつけてて…でも襲撃された時がちょっと怖いかなぁって」
「まー手加減ねぇもんな。でも外したくはねぇんだろ?」
「…できれば」
そっと桜のモチーフに触れた香ちゃんの表情は、めちゃくちゃ柔らかい。普段も楽しそうに笑ってるし、そーいう笑顔ももちろん好きなんだけどよ?アイツの、…八戒のことを想ってる時の笑顔は、その比じゃねぇくらいに可愛くて思わずドキッとするくらい。
本当に嬉しそうに、愛おしそうに笑うんだ―――心の底から、好きなんだなってわかる顔。
その笑顔を見る度に胸が締め付けられるように痛むけど、でもそれは見ないフリ。彼女が八戒への気持ちを押し殺そうとしているのと同じように、俺もこの気持ちは…隠してた方がいいだろう、って思ってたりする。
言っちまえば楽だろうし、スッキリすんのはわかってんだけどなー。…ほら、香ちゃんは誰よりも優しいからさ、きっと困らせちまう気がするんだよな。それだけはちょっと避けてぇ、って思ってるから、だから言わない。そう、決めたんだ。
「…イイ顔」
「え?」
「いいな、恋してるって顔で。初めて会った頃よりずっと、綺麗になったし可愛くなったぜ?」
「もう、私を口説いたって何も出ませんよ?」
「あら残念。でーもさ、少しは靡いてくれたっていいんじゃねーの?」
「―――今日は少し意地悪ですね?悟浄くん」
そんなことできないってわかってて、そんな風に言うんですから。
笑った彼女の顔は、少しだけ哀しそうに見えた。言わないと決めた反面、弱った所につけこめねーかな、と考えてる自分もいて思わず苦笑する。…そんな方法で手に入れた所で、どうにもならねーってわかってるのに。誰も幸せになんざなれねぇってわかってるのにな。
―――カタン、
「悟浄くん?」
「ちょっと飲みに出てくる。朝までには戻るからよ」
「あまり飲みすぎないでくださいね?いってらっしゃい」
心配してくれているであろう彼女の顔を見ることができず、後ろ手にヒラリと手を振って部屋を出た。
この日の酒と煙草は、やけに苦かった。