彼の見解と彼女の意見
もう二度と―――誰かを愛することなんて、できないと思っていた。
side:八戒
「…お前ならどう思う?」
「何がです?」
「…だから、一度死んだ人間を生き返らせるってことによ」
悟浄の質問を受けて、脳裏に真っ先に浮かんだのは―――心の底から、本気で愛した人。
彼女が目の前で自害した時に、そんな術があると聞かされていたらきっと、僕は迷うことなく生き返らせてほしい、と再生を望んだと思うんです。今なら道徳心が入り込む余裕がありますけど、…失った直後だったら、道徳心なんて入り込む余地がないですから。もう一度会いたい、と思うのは、生きてる者として当然のことでしょう?
でも今は―――不思議ですね。ちょっとだけ、前を向いたのかもしれません。それに僕の場合、その後の運が向いてましたからね。
「―――僕ね、次に一緒になるなら『殺しても死ななそうな女性』って心に決めてるんです」
「……あ?」
「こう何て言うか、恰幅が良くって、気風も良くて、子供なんて卵みたくポロポロ産んでくれるような女の人で」
「…あのなぁ…」
未来を―――考えられるようになったんです。汗水垂らして働いても休みの日には「お父さん邪魔よッ」って家を追い出されるとか、可愛い娘が悟浄オジサンの毒牙にかかるのが唯一の不安だとか、…そんなことを笑顔で話せるようになったんです。そんな風に、…思えるようになったんです。
「香ちゃんは、…ちょっとタイプ違くね?」
「うーん…でもあの子は自分の身は自分で守れる子ですし、殺しても死ななそうではありますよ?」
「まーな」
「…正直ね、もう誰も愛せないと思ってたんです。もう二度と、恋なんてできないと思ってたんです」
花が咲いたように笑うあの子。香鈴の存在が僕を変えてくれて、もう一度だけ恋をしてみようって、愛してみたいって思えるようにしてくれたんだ。こうやって先のことを考えられるようになったのもきっと、香鈴がいてくれたおかげだったんだと思う。
彼女に出会うことがなければ僕は、今でも過去に囚われたまま―――前を向けずにいたかもしれませんね。
本当に僕は、運が向いていたと思う。三蔵・悟浄・悟空に出会って、それから香鈴に出会うことができた。彼らに会えたことも、拾われたことも、僕からしてみれば本気で運が良かった、って言えることだから。そうじゃなければ、今この場所に自分の足で立ってることなんて、できなかったでしょう。
「八戒くーん、悟浄くーん!そろそろご飯食べに行きませんかー?」
その声にハッと視線を上げれば、少し離れた所で三蔵や悟空と一緒に香鈴が立っていた。きっとお腹を空かせた悟空を見兼ねて、2人が僕達を捜しに来てくれたのでしょう。
柔らかい笑みを浮かべて手を振っている香鈴に、片手を挙げて答える。行きましょうか、と声を掛けて立ち上がったけれど、悟浄は煙草を咥えたまま動く気配がない。不思議に思ってもう一度名前を呼べば、小さな声で僕の名を呼んだ。
「どうしたんです?」
「―――もし、香ちゃんが死んだとしたらお前は…」
どうするんだ?
最後は音にはならなかった。けれど、僕には確かに届いていて…そして悟浄の真剣な瞳がそう言っているように見えた。
―――香鈴を失ったら―――
タチの悪い冗談だと、正直思ったけれど…笑い飛ばす気にも、怒鳴る気にもならない。
あの子がいなくなってしまったら、と考えると…奥底からゾワリと恐怖感がせり上がってくる。また愛する人を失ったら、…前を、向かなければいけないとはわかっている。それが望まれないことだというのもわかっている。それでも―――
「―――、」
ボソリと呟いた言葉は、悟浄には届いたのだろうか?僕はそれを確認することもなく、3人が待っている場所へ歩き出した。
「…アイツらしいっちゃ、…らしいのかもな」
未来を見ていたように見えたアイツは、何とも後ろ向きな答えをくれた。矛盾してんだろーけど、それでもやっぱりどっちも―――アイツの、八戒の本音であるのは間違いないんだろう。
―――僕はきっと、後を追いますよ。
二度目はきっと、
耐えられないでしょうから。