密かな願望?


神様が露出狂みたいな格好をしていたり、割と何でもアリなのかもしれないと思うこの桃源郷。
だけど、だけどですね?やっぱり最低限の常識は必要だと思うんですよ、私。





「………なんだこれ」


起き抜けの第一声。思わず敬語も忘れます、そりゃあ忘れますよこんな状況に陥ったら!!


「ん〜…どうしたんだ、香、………えええええぇえええ?!!」


私の呟きに反応したらしい悟空がむくりと起き上がったので、おはよう、と声をかけたら思いっきり叫ばれました。そしたらベッドで寝ていた悟浄くんが見事に転げ落ち、三蔵様も起き上がった瞬間に滑り落ちる始末…きっと手をつき損なったんですね。八戒くんは慌てて飛び起きていたけれど、2人のようにベッドから落ちるなんてことにはなりませんでした。でもびっくりした表情で固まってます。
うん、やっぱりすごく不思議な光景ですよねぇ。悟空の叫び声で叩き起こされたのに、だーれも文句とか言わないんですもの。


「みなさんがでっかい…」
「いやいやいや、香ちゃんがちっちゃいのよ?!」
「あ、ああ…やっぱり香鈴なんですね」
「……あ?」
「さんぞうさま、ねぼけていらっしゃいますね」
「うわー、いつもより喋り方がたどたどしい…!かわいーな、香鈴っ!!」


…それ、喜んでいいのか微妙だよ悟空。

そう。私の身体は何故か縮んでいて、今は恐らく3歳児くらいでしょうか。昨日、寝るまでは何ともなかったはずなので…寝ている間に何かが起きた、ってことだとは思うんですけども。誰一人、変な気配は感じていなかったはずですよね?それとも気づかなかった、ってオチじゃないですよね?一瞬、不安がよぎったけれど気づかなかったんだとしたら、私達全員寝首かかれているんだろうな、と思ったので多分それはないんでしょう。
もしこれが牛魔王の刺客の仕業だとしたら、…何がしたいんだバーカって言いまくりたい気分になりますよ。そしていいご趣味をしてますね、って言いたいです。

ベッドの上に立ち上がってみるものの、やっぱり縮んでますね…パジャマ代わりにしているTシャツで全身隠れてしまっていますもの。どうしたもんですかねぇ…このままじゃただの足手まといにしかなりませんよ?私。


「香鈴、昨夜は何か変なもの口にしました?」
「してないとおもいます…だって、みなさんとおなじものをたべていたはずですし」
「酒も飲んでたけど、俺と八戒だって飲んでたしなぁ」
「ああ…地酒ですか。確かに僕達も飲みましたね。…ということは、その線はなくなったわけですか」


起き抜けの頭のまま、皆さんと一緒に原因を考えてみるもののどーにもこーにもわかりそうにありません。すると、三蔵様がボソッと「あのババァに仕業か…?」って呟かれたのが耳に届きました。ババァ…?それは一体、誰のことなんでしょうか。長安や慶雲院でのお知り合いですかねぇ。
誰のことですか、と聞いてみれば、何と菩薩様のことでした。まさかの神様をババァ呼ばわりって…何というか、さすがは三蔵様ですね!としか言えません。というか、神様って本当に何でもアリなんですかね?どういう原理で私は子供の姿になってしまったのか…いえ、知りたいわけではありませんけど。
でも何ででしょうね、本当にこれをやったのが菩薩様だとしたら―――ただ遊ばれているだけなんじゃないのか、って思ってしまうのは。


「どーすんだ、三蔵?このまま出発するのか?」
「……不本意だが、1日様子を見る。香鈴が戻り次第、町を出るぞ」
「わかりました」


すみません、と謝ると貴方のせいではないんですから謝る必要はありませんよ、と八戒くんが優しい笑みを浮かべながら、私の頭を撫でてくれた。


「でーもさ、香ちゃんってちっちゃい時から美人だったんだな?」
「そういわれましても、じぶんじゃわかりません…」
「幼くなっても喋り方はそのままなんですね。可愛いですけど、…ちょっと違和感が」
「いわかんっていわれても…もうクセですもん、けいごではなすの」


むーっと頬を膨らますと、破顔した八戒くんが可愛いですね、って言いながら私を抱き上げました。突然の浮遊感と、視界が高くなったことにビックリして、彼の首筋へとギューッと抱きつく。だ、だって子供の身体だと結構怖いんですよこの高さでも…!!…あ、でもこの高さはちょっと新鮮かもしれません。いつもの視線の高さよりも、大分高めですものね。


「八戒!俺もっ俺も香鈴抱っこしたい!」
「え、ちょ、ごく…」
「おめーだけズリィぞ猿!香ちゃん、猿なんかより俺の方がいいだろ?」
「え、あの、ごじょうく…」


猿言うなエロ河童!とか、うっせーよバカ猿!!とか、いつもの言い合いを始めてしまった悟浄くんと悟空なんだけど、今―――朝、なんだけどなぁ。運の良いことにこの部屋は角部屋で、隣は誰も泊まっていなかったはずだけど…それでもこの階には他のお客様がたくさん泊まっていらっしゃるはずなんですよね。
それに、…まだあと2時間は眠れるはずだったのに叩き起こされてしまった三蔵様が、そろそろお怒りになられる頃なんじゃないかなぁ。

八戒くんに抱きついたままそう考えていたら、ビンゴ。ついにキレた三蔵様が何処からともなくハリセンを取り出して、2人の頭に渾身の一発が食らわされました。
あはは、痛そうだけど…早朝から騒ぐ2人に非がありますよね?確実に。


「ギャーギャーうるっせーんだよてめぇらはァ!!」
「…全く、仕方のない人達ですねぇ。香鈴、早くに目が覚めてしまったことですし、散歩でも行きましょうか」
「え、このままおいていくんですか?」
「悟浄と悟空は自業自得ですし、三蔵は不機嫌最高潮ですからね。このままにしておくのが賢明な判断です」


いいのかなぁ、と思いつつも、巻き込まれてしまうのはやっぱり勘弁なのでそのまま頷いておくことにした。
こうして私は八戒くんと一緒に散歩へ出かけることになったんですけど、…何故に抱っこされたまま?


「はっかいくん、じぶんであるける」
「靴がないのに?子供を裸足で歩かせるなんてひどいこと、するわけないでしょう?」
「でもなんかはずかしいんです…!」
「今は子供の姿なんですから大丈夫ですよ」


いや、まあその通りなんですけど!…ああもう、この際記憶も退行してくれていたら無邪気にこの状況を楽しめていたんでしょうけれども、悲しいかな退行しているのは身体のみ。その他は元の私のままだ。だからこそ、何ていうか…こう羞恥心がね?沸々とわいてくるわけでございますですよ。
八戒くんの言う通り、今の私は子供の姿ですからすれ違う誰もが不審な目で見てくることはないんでしょうけど…とはいうものの、早朝なのでほとんど人通りはないんですけどね。

何を言っても下ろしてくれないのは確定したので、もう諦めることにしました。時には諦めることも大事ですよね。うん。そう自分に言い聞かせて、私はしばらくこの視線の高さを楽しむことにしようと思ったのだけれど…あれ、何か急に眠くなってきちゃいました。八戒くんの体温と、この適度な揺れが眠気を誘うのかなぁ。ぽすん、と八戒くんに寄り掛かってそっと目を閉じると、あっという間に意識は夢の中へ引きずり込まれていく。
ああでも…子供の姿だと八戒くんに遠慮なくくっつけて、ちょっといいかも。



(ん、…んー…?あれ、部屋の中真っ暗…)
(すー…)
((ガバッ)なっ…なな、な……?!)
(…ぅ、…ああ、目が覚めたんですか?香鈴。姿も元に戻ったんですね)
(え、あ、う、は、い、そうみたい、です…っじゃなくて!どっどうして私八戒くんと一緒に?!)
(貴方が僕の服を掴んだまま離してくれなかったんですよ。せっかくなので一緒に寝たんですが、…寝すぎちゃいましたねぇ)
((わあああぁあああっ!こ、これは恥ずかしすぎます……!))
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