絶対的、自分


「ぎゃひゃひゃはぁ!―――オラ出てこいよ三蔵法師!反逆者共!!早く来ねぇと坊主全部喰っちまうぞ!」
「つまんねぇな、今度はムサい野郎1匹かよ。前回みたいな美女のサービスを期待してたんだがな」
「…敵に期待するだけ無駄じゃないかしら?悟浄くん」
「てめぇらが裏切り者の妖怪4人組か。紅孩児様の命により、貴様らを始末する!俺様にかかればひとたまりもないわ!!」


うーん…別に礼儀とか、そういうものを求めているわけじゃありませんけど…この妖怪の態度や笑い方はどうにも頂けませんね。


「おい、どー思うよ」
「態度でかくてムカツク、減点20点」
「笑い方が下品、減点15点」


バカにされた、と怒った妖怪が口を開けば、更に追い打ちをかけるように悟空が歯が黄色い、減点5点と笑う。
ナメた態度をする私達に堪忍袋の緒が切れたのか、持っていた斧を思いっきり投げてきちゃいました。時間を選ばなくて非常識ではあるけれど、


「度胸だけは合格、ですね」


この言葉を合図に悟浄くん、悟空、私がそれぞれ動いた。最初に悟浄くんの膝蹴りが顔面にクリーンヒットし、間髪入れずに私と悟空の回し蹴りが顎と腰にそれぞれ綺麗にヒットしました。
あらあら、あれだけ大きな態度を取っておきながら、ずいぶんと拍子抜けのする弱さですねぇ。


「まさかこれだけの力で大見得きってたんじゃないですよね?」
「クスクス…ねぇ?拍子抜けでびっくりですよ」
「…いい性格ね、お前ら」


密かに笑っていると、瓦礫を引っ掴んでぶん投げてきました。ご丁寧にそれを更に細かくして。悟空が思わず呟いてましたけど、本当にせこいことをしますこと…どう凌ごうかと考えていれば、八戒くんが気を固めて防護壁を作り上げていました。これには私達もびっくりです、だってこの前はそんなこと出来ていなかったわけですから。
どうやら蜘蛛女さんと戦った時に思いついたことらしいんですけど、それをあっという間にモノにしちゃうんですからすごい人です。

それを見た悟空が自分もやってみたい、と言い出しましたけど、うん、多分貴方には難しいと思いますよ…だって、集中力ないじゃないですか。私もできるわけじゃないから何とも言えませんけど、あれだけの気を障壁化するのってものすごい集中力が必要だと思うんですよ、あと気力と体力?まぁ、気力と体力に関しては悟空も申し分なさそうですけれど。


「先手必勝!!俺様の真の力を見せてやるぜ!!!」

―――ボゴォ!

「………は?」
「香ちゃーん、ンな冷たい目ェしてやんなって。さすがにカワイソーよ?」
「いやぁ…だって色々ダサイ…右袖だけない理由ってこれですか」


呆れた瞳を向けた先では悟空が如意棒で応戦しているけれど、押し負けた…?彼の力ってなかなかのものなのに、それを押し返す力って…相当の馬鹿力ですよね?それを悟空に言われちゃおしまいですけれど。
今の結果に自信を取り戻したのか、またもやウザい感じのテンションで腕を振り上げた所で、タイミング良くやってきた三蔵様にぶん殴られましたけど。倒れ方が稀に見る不様さです。同じ感想を持った三蔵様に40点減点されてますよ、これで…えっと計80点の減点になりますかね。


―――ガッ

「お前ごときの刺客をよこすようじゃ、俺達はよほど見くびられてるらしいな。貴様らの主君、紅孩児とやらに。
牛魔王蘇生実験の目的は何だ?その裏には何がある」


質問には答えず、妖怪はただ一言―――血生臭いな、何人の血を浴びてきたのかと言い放った。
その瞬間、彼の命は終わりを迎えたようなものだけど。眉間に一発、弾丸を受けて絶命すると私達は確信していたのだけれど、それは予想外の結末を迎えたの。

―――ドォンッ!

カチリ、と小さな音がしたと思ったのと同時に、妖怪の体が弾け飛んだ。成程…自爆した、ってことね。口を割ってしまう前に全てを抱えたまま、死を選ぶ…それだけの忠誠心を抱かせるほどの存在、ということなんですね、紅孩児様と呼ばれる方は。一体、どんな方なのでしょうか。
考えてもわからないし、このまま旅を続けていればいずれ会うことになりますよね…今はそんなことより、辛うじて生き残っている葉くんの容体を確認しなくては。


「―――貴方達は…何者なんですか?!今までにもたくさんの血を浴びた…って、こんな風に殺生を続けてきたのですか?!」
「…っあのなぁっ仕方ねーだろ、ヤらなきゃヤられちまうんだからさぁ?!」
「それが良いことだとは僕らだって思ってませんよ―――でも、」


たとえ誰であろうと、命を奪うという行為は御仏への冒涜です!
それは確かに仏教に帰依する人にとって、最大の禁忌なのだろう。教えなのだろう。―――絶対的な、ルールなのだというのはわかっているけれど。


「ルールばかりに縛られて、その中で生きていたとして…いざという時、その身を守ってくれると思う?」
「…え?」
「少なくとも、教えも仏も―――貴方を守ってなどくれません。それに人間は、生きていく上で必ず何かを殺していかなきゃ生きていけないんです」


食事をしなくては生きていけない私達は、その度に何かの命を奪っているのだから。
だからといって、全てを正当化するつもりもありませんし、いけないことだとはわかっているんですよ。ちゃんと。だけど、生き抜く為には躊躇っていてはいけないことだってたくさんある…そんな中で私達は、生きているんだ。


「そんなに「神」に近づきたかったら死んじまえ。死ねば誰だろうが「仏」になれるぞ、そこの坊主達みたいにな」
「―――でもまぁ残念なことに、俺達は生きてるんだなコレが」


私達の言葉がどれだけ葉くんに響いたかなんてわからない。響かせようと、考えを改めさせようと言ったわけではありませんし。だけど、悟浄くんの言葉を聞いた葉くんの顔は、どこかスッキリしたような表情をしているようにも見えたんです。





「此処から北西へ抜ければ夕刻までには平地へ出ると思います。ジープなら町まですぐでしょう」
「ご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、とんでもない!」
「今回のことで我々がいかに危機管理がなっていないか思い知らされました。死んだ僧達の魂をムダにせぬように致します」


夜更けの騒ぎで女だということがバレてしまった私は、何となくあの場に居辛くてジープと共に少し離れた岩場に腰掛けていた。声は聞こえる距離ではあるけれど、別段聞いていなくて問題はなさそうだから、という理由で意図的にシャットダウン。
ボケーッと空を見上げながらお話が終わるのを待っていたら、気配もなく八戒くんの顔が映りこんできて肩がビクリと揺れてしまいました。それをバッチリ見たらしい八戒くんは楽しそうにクスクス笑っていらっしゃいますが、私はちっとも楽しくありませんからね…!


「すみません、驚かせちゃいましたね。出発するので呼びに来たんです」
「普通に声を掛けて下されば良かったのに…」
「いやぁ、少し肩の力を抜いてもらおうかなーと思いましてね?」


機嫌、悪かったでしょう?
顔を覗き込んでそう問いかけてくる八戒くんに、頷きだけを返す。そう、確かに私は夜更けに起こった出来事で機嫌が良くはなかった。…とは言っても、顔にも態度にも出さないように頑張っていたのだけれど…本当に出会った頃から彼と悟浄くんにだけは、隠し事ができないんですよね。何でだかわかりませんが、必ず見破られてしまうんです。
はぁ、と溜息を1つ吐いて岩場から飛び降りれば、三蔵様達はすでにかなり先を歩いてらっしゃいました。うん、まぁ待って頂けてるとも思ってませんけどねー特に三蔵様に至っては。置いていかれたくなきゃしっかりついてこい、ってタイプの御方ですから。


「―――…ごめんなさい。心配かけちゃいました」
「いいえ、大丈夫。…ただ、貴方は溜めこむクセがありますからそれだけは、心配になっちゃいますけどね。僕も悟浄も」
「ふふ、本当…八戒くんと悟浄くんには敵いません」
「僕と悟浄だって香鈴には敵いませんよ、出会った時からずっと」


クスクスと笑い合っていると、私達の名前を呼ぶ悟空の声が耳に届いた。彼らがいるであろう方へ視線を向けてみれば、大分先に行ってしまっただろうと思っていたのに―――3人は戻ってきたのか、しっかりと姿を確認できる距離に立っていて。
…全く、待つなんて柄じゃないような人達なのにね。


「香鈴ー!八戒ー!早く町まで行こうぜ、腹減ったー!!!」
「さっさと来ねぇか、置いてくぞ」
「三蔵様と小猿ちゃんがうっせーの、早く来いよ。八戒、香ちゃん」


彼ららしい言葉に顔を見合わせて笑って、私達は駆け出した。
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