崇拝する町


前に立ち寄った町を出てそろそろ1週間が経ちますが、この辺りはモロ山の中らしく、近くに人里がないらしいです。幸い、食糧はたくさん買い込んでいたので何とかなっていますが…野宿も1週間続いてますからね、いい加減、皆さんの疲労とイライラがピークに達しそう。
普段から短気な三蔵様ですが、ここ2〜3日は尚ひどい短気っぷり。八戒くんもにこやかな笑みを浮かべてはいますけど、毒舌全開になっちゃってますし。悟浄くんと悟空に関しては喧嘩の回数が減ってます、騒ぐ気力もないみたい。それは有難いことなんだけど、でもちょっとしたことで始まっちゃうから大変なんですよね…その度に三蔵様のハリセン―――ではなく、銃弾が飛んできてしまうんですから。あの御方、この際に2人を殺そうとしてるんじゃないかしら。


―――パシャパシャッ

「ふう…ちょっとだけスッキリしたかも」


偶然、川を見つけた私達は休憩がてら川べりに停車しています。ジープも走りっぱなしで疲れてしまっているでしょうし、これで皆さんのイライラが少しは収まるといいんですけど…また移動を始めればどんどん募っていくんでしょうねぇ。悪循環って感じなんですが、町が見えてこないんじゃどうしようもないと思うんです。
この山さえ抜けてしまえば町がありそう、って感じなんですけど、この山が案外曲者みたいですね。だって、どのくらいで抜けられるかわからないんですもの広すぎて。
まだジープで進めるだけラッキーですけど、この先もそうだとは限りませんし。はてさてどうしたものですかねぇ。

タオルで顔を拭いていると、本来のルートからほんの少し逸れた所に何やら煙?のようなものが見えました。あれは、…何でしょう?狼煙?それともたき火?でも今は昼間ですし、寒くもありませんからたき火をたく必要はこれっぽっちもないはず。
だとすれば狼煙ですけど、今時そんなもの上げる方いますかね?いたとしたら、その方は完全に遭難している可能性が高くなっちゃいますけど。


「ねぇ八戒くん、悟浄くん。あれって煙、ですよね?」
「え?…ああ、本当ですね…狼煙かたき火、ですかねぇ」
「今時、狼煙なんてあげるかぁ?!」
「まぁ、遭難していればあげるんじゃないですか?誰も見てくれていないかもしれませんが」


八戒くんの言葉に苦笑を浮かべて、とりあえず千里眼で見てみることにした。ちなみにどれくらいで山を抜けられるかどうかも見てみたんですけど、一向に見えなくて泣きそうになっちゃいましたよ…どれだけ広いんですか、この山って!
…まぁ、それはさておきですね…今ももくもくと煙が上がっている辺りまでを見てみて、あらびっくり。たくさんの人と、町が見えちゃいました。本来のルートから逸れているから、さっき見た時は除外していたんですねぇこの辺りは。


「えっ町?!」
「うん、割と大きそうな感じの」
「ルートからは逸れちゃいますが、…どうします?三蔵」
「決まってんだろ。…行くぞ」


いや、それはどっちの意味での行くぞなんですか三蔵様。ぽかん、としていると、町がある方角へと歩き始めたのでそっちの意味だったんですね、と1人で納得。
まぁ、そりゃゆっくり休みたくもなりますよね…ルートから逸れてても。それにあの町で少し休息が取れれば、また西に向けて元気に出発できそうですし。さて、宿屋が空いているといいんですが。





「うお、でっけー…」
「山の中にあるにしては、ずいぶんと栄えてますね」
「…あれ…?」
「どうしました?香鈴」
「あ、…いえ、違和感を感じた気がしたんですけど、気のせいみたいです」


一瞬、何か温かいものに包まれたような感覚と、肌がピンッと張りつめたような気がしたんだけど…今は何ともない。それに4人は何も感じていないみたいだし、やっぱり私の気のせいだったんでしょうか。別に悪い感じはしなかったから何も問題はないと思うんですけど、何だったんだろう。ちょっと、気になっちゃうなぁ。

首を捻りながらも町に入れば、八戒くん達が言っていた通りとても栄えていて賑やかだった。お店もたくさんあるし、出店もたくさんあるんだなぁ…まるで長安に帰ってきたみたい。住んでいる方々の数も多そうだし、私達みたいな旅をしている風貌の方々もたくさんいる。もしかして、山の中にある町は此処だけのようだったからそれで栄えているのかもしれませんね。
お腹も空いているから何か食べたいけど、でもその前に宿を取る方が先ですかね。これだけ旅人が多いんですもの、早めに押さえないとまた野宿になってしまいます。それだけはどうしても避けたいですし!せっかく町に着いたのだから、いい加減お風呂にも入りたいです。

美味しそうなものを見つける度に買いに行こうとする悟空と、そんな彼をハリセンで殴っている三蔵様の姿に笑みを零しながら歩いていると、至る所からヒソヒソ話をする声が聞こえ始めた。さすがに何をお話しているのかまではわかりませんが…チラチラと見られている感じですね。
一体、何なんでしょう…あ、三蔵様がご一緒だから、かな?法衣を着ているから一発でお坊様っていうのはわかるだろうし、私達って今では人間にも妖怪にも有名らしいですからねぇ。それで見られている可能性は高いです。
…ああでも、あんまり居心地がいいものではありませんね。


「う、…歌姫様じゃ……!歌姫様がお戻りになられたぞおぉおおお!!」
「なっ何だ…?!」
「歌姫様って言ってましたよね…僕達の他に誰かが入ってきたんじゃないですか?」


成程、そうかもしれませんね!と相槌を打とうとした瞬間、私達は町の方達にぐるっと取り囲まれてしまいました。えっちょ、何なんですかコレ?!しかも皆さん、歌姫様がってブツブツ仰ってますけどそれは一体誰のことなんですか!私達はただの旅人で、歌姫様なんているはずがないんですけど。三蔵法師様ならいらっしゃいますけどね。
何かを言おうにもものすごい数の人に囲まれてしまってどうにもならない、身動きもとれないし。これはどうしたらいいんだろう、と途方に暮れかけていた時、ガシッと両手を掴まれました。突然すぎて「ひっ?!」って素の声が出ました、ものすっごく恥ずかしかったです…!
というか、私の手を掴んだのはどちら様ですか?!


「ああ、やはりそうだ…歌姫様がお戻りになられた!」
「え?歌姫様、って…私のことですか?!」
「もちろんですとも!そのお美しい銀髪に黒曜石のような瞳、更にそのお顔立ちはどこからどう見ても我らが待ち望んでいた歌姫様そのものです!!」
「ちょっと待ってください!私達は旅をしていてそれで偶然この町へ寄っただけで、その歌姫様なんかじゃ…っ!」


必死に弁解するものの、私の手を掴んでる方は「旅をなさっているのですか!でしたら宿をお探しでしょう、従者の方々も共に手厚い歓迎をさせて頂きましょうぞ!」とか何とか仰ってて聞く耳持たず…宿や豪勢な食事を準備させて頂きます、って声に悟浄くんと悟空は喜んでますけど。というか、4人が私の従者ってそんなわけないでしょうが。むしろ、私の方が三蔵様の従者のはずなんですけどね。

それにしても、この町の方々は三蔵法師様をご存知ないのでしょうか?誰一人、三蔵様のお姿に驚く方がいらっしゃらないんです。普段ならあの御方を見た方々は驚かれますし、最近では救世主みたいな扱い受けることも出てきましたもんね…決してそんなんじゃないんですけど、何を言っても信じてもらえませんでした。まぁ、襲ってくる妖怪を片っ端から倒してますから人間にとっては救世主、と言っても過言ではないんだと思いますけどね。

一切、話を聞いてもらえずに町の中で一際大きな宮殿のような所へ連れてこられた私達。どうやら此処は私の手を掴んで離そうとしない方―――町長さんのご自宅だそうです。いい加減、手を離して頂けると嬉しいんですけどね…何なんだろ、ほんと。


「私が町長になって早数十年…何度、この日を夢見たことか…!」
「……はぁ」
「ささ、お座りくださいませ!この山はとても広く、山越えするのも大変です…お疲れでしょう?すぐに食事と飲み物をご用意しますので、しばらくこの部屋でごゆるりとおくつろぎください」


町長さんはめちゃくちゃ喋る方なんですね…こういうのをきっとマシンガントークと言うんでしょう。
彼が出て行き、部屋の中は私達5人だけになったので遠慮なくテーブルの上に項垂れさせて頂きました。なんなの、すっごく疲れたんですけど…!!


「大丈夫ですか?香鈴」
「うー…もう何なんですかあれ違うって言ってるのに全く聞く耳持ってくれないしマシンガントークだし手は離してくれないし…!」
「わーお。この短時間でヤラれちゃってんなぁ、香ちゃん…」
「あれはきっついよなぁ…後ろで聞いてるだけで疲れたもん」
「しかし、…町の奴らは誰とコイツを間違えてやがるんだ?」


そんなの私が一番聞きたいです!!
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