眠るは姫の祈り


いつの間にか陽は沈み、部屋の中は真っ暗になっていた。…あれ、私あの後どうしたんだっけ?
ぼんやりとした頭で考えていると、カチャリと何かが開く音がして部屋の中が急に明るくなる。眩しさに目を細めていると、起こしちゃいましたかすみません、と謝罪の声。その声にゆっくりと閉じていた瞼を開けると、困った顔で笑う八戒くんがこっちを見下ろしていました。


「わたし…」
「泣き疲れてしまったのかぐっすり眠り込んでしまったんですよ」
「あー…思い出しました。久しぶりにあんなに泣きました」
「はっかーい!香鈴の様子どう、…って起きてた!」


おはよ!って言われたからおはよう、って条件反射で返しちゃったけど、でも考えてみたら今、夜でしたね…でもまぁ、いいか。眠ってて起きたことには間違いありませんし。
わざわざ私の分を取り分けてきてくれたらしい夕飯を食べて、大浴場に向かう悟浄くんと悟空の背中を見送った。
というか、私ってば誰かのベッドをずっと占領してしまっていたんですね…良かった、まだ就寝する時間じゃなくて。そういえば八戒くんと三蔵様はお風呂に行かれないのでしょうか?大浴場ですからきっと狭い、ってことはないはずですし、4人一緒に行っても問題なさそうなんですけど。
その疑問を口にしてみれば話がある、といつも以上に真剣な表情をした三蔵様が口を開いた。


「さっき八戒と件の書物庫に行ってきた」
「本…?」
「それはこの町の歴史書と戸籍名簿、あとこの町で起きた事件などをまとめたものです」


どうぞ、と渡された本と戸籍名簿と事件簿。持っていたマグカップをテーブルの上に置いてから歴史書を開いてみれば、この町がいつできたものなのかーとか、どんな風に繁栄してきたのかーとか、そんなことが記してあるんですけど…すごいな、歴史書って結構面白いかもしれません。
黙々と読み進めていくと、変な所で途切れている頃に気がつきました。ここで終了、ってわけでじゃありませんよねぇ?だって前のページのラスト、『そしてこの町は、』だもん。どう考えたってまだ続きがあると思って間違いないです、よね。
んー?と首を傾げながら本を触っていると、ページが破れていることがわかった。成程、だから変な所で途切れているんですね…。


「でもどうして破ったんでしょう?」
「何か知られちゃマズイことが載ってたのは確かだな」
「ここから先に載っていたのは、年号的に今から40年程前って所ですね」


40年程前って言うと、…おばあちゃんがこの町から姿を消してしまったくらいの時期ですよね。何か関係があったりする、んでしょうか。歴史書にはそれ以上ページはなく、結局何が書かれていたページが切り取られていたのかはわからずじまいでした。
歌姫様についても僅かに記載があったけれど、でもそれは歴代の歌姫様のプロフィールみたいなものだけ。あ、あと写真は載ってました。でもそれを読んで少しだけ疑問が浮かんだ。そのページを開いたまま、慌てて戸籍名簿を開き歴代の歌姫様方の名前を探してみる。…すると、当たり前ですけどありました、おばあちゃんがなる前の歌姫様までの20人分、全て名前も生年月日も―――そして、亡くなった年も全て載っていた。


「―――気がついたか」
「え、ええ…でもこれ、一体どういうこと…?」


初代の歌姫様から20代目の歌姫様まで全員、能力が覚醒されたと思われる日から1年、早いと半年程で亡くなっているんです。…死因は皆さん病気、となっていますが、こんなにも立て続けに亡くなるものなんですか?そりゃ流行病とか、そういうものがあるというのはわかっているつもりですが、それでもちょっとおかしいんですよね…だって、その時期に亡くなっているのって歌姫様だけなんだもの。

パラパラとめくっていくと、これまた40年程前からピタッと亡くなっている方の表記がなくなっていました。病死もなければ、自然死や事故死もない…綺麗サッパリ真っ白な紙が何十枚とそこにあるだけ。
ううん?さっきの歌姫様の亡くなり方よりおかしくありません?1年やそこらでしたら誰も亡くならない、ってことはあるのかもしれませんが、それが何十年も続くものだとは到底思えない。


「記載のし忘れ、ってことでもないですよね…それだったら職務怠慢だ」
「ええ、完全に。…けど、これ、この屋敷の書物庫にあったんですよね」
「?それがどうし―――…あ、」


そっか、そうですよね。本来ならば、この屋敷にあるはずがないものなんだ。


「町の真ん中に役所がある。本来、戸籍名簿も事件簿もそこにあるべきもんだろ」
「確かにこの屋敷の主は町長さんですけど、プライベートエリアに持ち込むものじゃない…」
「その通り。歌姫様の亡くなる率の高さ、そしてこの40年程、亡くなった方の記載が全くないことを踏まえると何か不可思議ですよね」


何か隠されているのだとは思うけど、でも…それは一体、何なんでしょう?昼間、脳裏に映った映像も何か関係が―――その瞬間、パズルのピースがかちりとはまったような感覚を覚えた。
そうだ、歴史書で歌姫様の写真を見た時に感じた違和感…その正体はコレだったんだ。


「昼間見えた映像、…壮絶な亡くなり方をしていたの全部―――歌姫様だ…」
「なに?」
「さっき歴史書を見た時から違和感というか、何か引っかかってたんです。でも今、ハッキリ思い出しました」
「―――つまり、この方達は病死ではない…?」


思い出せば思い出すほど、何かがおかしい。だってあの光景はどう見たって、誰かに殺される瞬間だったから。追いかけられて、助けを乞う声も聞き届けられることなく…命を奪われた。でも誰に殺されたの?もし、妖怪とか盗賊とかに襲われたのだとすれば、そう明記するはずですよね?わざわざ病死、なんて記す必要はないはずです。
そこまで考えて背筋がゾッとするほどの、推測をしてしまった。


「…香鈴、三蔵。まさかとは思いますが、」
「あはは…八戒くんと三蔵様がお相手だと話が進むの早いですね」
「確実にこの町の奴らの仕業だろう。…目的までは知らんがな」


3人でそんな話をしていたらバンッと勢い良くドアが開いた。話していた内容が内容だったので、私は思いっきり肩を揺らしてしまったのだけれどそこにいたのは驚いた表情を浮かべた悟浄くんと悟空。
どうやら私達の会話を聞いていたらしく、慌てて中に入ってきたみたいです。…あれ、私達そんなに大きな声で話していたつもりないんだけど…。


「別に声が筒抜けー、とかじゃねぇよ。ドア開けようとしたら耳に入った、そんだけ」
「でもさっ今の話、マジなのか?!」
「本当かどうかはわかりませんよ、確かめる術もないですしね」
「当人は全員、死んじまってる。町の奴らに聞こうにも…早々、真相を語る奴はいねぇだろう」


そりゃそうですよねー。そんな自分達の過ちを軽々と口に出す方は、多分いらっしゃらないはずです。けど、そうなると八方塞がりってやつになっちゃいますね…まぁ、解き明かす必要なんて1つもないんですけど。
…あれ?そういえば、八戒くんと三蔵様はどうしてこんなものを持ってきたんだろうか。あと5日はこの町から出られないとはいえ、自ら面倒事に首を突っ込むような方達ではないはずなのに。特に三蔵様。


「最初は僕も三蔵も暇つぶしの本を探しに行ったんです、そしたらたまたま見つけてしまいまして…」
「面倒事に自ら突っ込む趣味はねーよ、バカか」
「ああ、ですよねぇ」
「…なぁ、さっきの話がマジだったらさ…次、香ちゃんが狙われるかもしんねーってことじゃね?」


悟浄くんの言葉に私達は全員、ピタッと動きを止めてしまった。だってそんなこと、微塵も考えていなかったから…私にはそんな力はないから、と思っていましたし―――というか、今でも思ってます。だから正直、悟浄くんの言葉もそれほど現実味がないと言いますか…皆さん(三蔵様を除く)は何故か慌てた様子でいらっしゃいますが、それはきっと有り得ないんじゃないかなぁ。
それをボソリ、と呟けば、3人が一斉に振り向いて「危機感がなさすぎる!」って怒られちゃったんですけど。え、なに?これは私が悪いんですか?危機感がない、って言われても…本当に私にはそんな力ないですし、町の方々が勝手に歌姫様だーって盛り上がってるだけだと思うんですよ。確かにおばあちゃんは先代の歌姫様だったみたいですけど!

どう気を付けるべきか、と本気で考え始めてしまった3人を横目に、私は再度戸籍名簿へと目を通していた。解き明かす必要はないとわかっていても、昼間見てしまった映像とか、そういうのを思い浮かべるとどうにも気になってしまって仕方がないんですよね。他人事、ですし…私には関係のないことだと割り切ってしまえればまだいいんでしょうけど、こういう血生臭いことにも好奇心って働くものなんですね。知りませんでした。


「……ん?」
「香鈴?何か見っけたのか?」
「これ、…歌姫様が亡くなった日付、全部同じです…」


年代は違えど、日付は全て同じ日になっていました。ハッと部屋の中に飾ってあったカレンダーに目を向けてみると、その日付がお祭りの日を指していることに気がついてしまったんです。
この町のお祭りは町の繁栄と豊作を願うもの、その為に歌姫様が祈り歌を歌う…町長さんはそう仰っていたはず。それなのに、お祭りの日に命を落としているなんて…もし、命を落としている原因が病気ではなく、本当に私達の推測通りだとしたら―――殺された理由は1つしかない、人柱だ。
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