夕陽へ約束


旅に出てから3ヶ月。牛魔王の刺客が送られてくるようになってから大分経っていますけど、そしてそのことに慣れつつありますけど…だからといってこうも毎日、毎日来られたらさすがにげんなりしてくるんですけどね。


「―――おい、今週はキャンペーン中か何かか?」
「はあ…またですか。懲りない方達だなぁ」
「これでもう3日連続ですねぇ」
「『三蔵様御一行襲撃ツアー』ってか。美人のコンパニオンが混じってねぇかな」


女性の妖怪はいらっしゃるようですが、美人かどうかまでは判定できませんね。というか、もし美人だったとしても目的は私達の命でしょうから、口説くのは難しいんじゃないのかなぁ。
悟浄くんのいつも通りの軽口に苦笑を浮かべつつ、ホルスターから二丁の銃を取り出す。少ない人数なら刀でもいいんですけど、この数の多さだったらコッチの方がきっと早いでしょうからね。
安全装置を外している私の横で悟空がツアーときたらフルコースだろ、って言ってますけど、その「料理」は確実に私達じゃないでしょうか。にっこり笑う八戒くんと同時にそう言葉を紡げば、うえーって顔になった彼は食べるの専門、と何とも悟空らしい言葉が返ってきました。まぁ、貴方ならそう言うでしょうねぇ確実に。


「で、ツアー客の総動員数は?」
「ペアで25組様御招待ってトコかな」
「単純計算、ノルマは何人だ?悟空」


吸っていた煙草をピンッと弾いて捨てた三蔵様は、唐突に悟空へ問題を出した。えっという顔をしつつも、必死で頭の中で計算しているみたい、両手も使って頑張って導き出した答えは―――ひとりあたま10人。ふふっ大正解よ、悟空。その言葉を合図に私達は、大量の刺客の中心へと飛び込んだ。

数は多いけれど、5人で一斉にかかってしまえばそう大変なことでもない。3日連続ともなると、あまりの芸のなさに溜息が零れますけど、まぁ敵相手にそんなものを求めるだけ無駄ですし。というか、求めた所でどうすんのよって感じですもんね。
長旅ですから娯楽は大切ですし、とても必要なものだと思いますが―――それを刺客相手に求めたってどうにもならない。


「おやおや。やっぱり「食べるの専門」の方は体力がケタ外れです…ねっ!」
「ふふっそうですね。さて…こっちも終了―――ですっ!」
「あ、申し遅れましたが僕「料理するの専門」なんですよね」
「イイ笑顔ですね、八戒くん。じゃあ私は「料理して自ら食べるの専門」にしておきましょうか」
「そりゃあもう専門って言わねぇだろ」


でも本当のことですもん。
各々、ノルマの妖怪を倒していく中―――妙な感じがあった。明らかに弱すぎるんです、何というか…手ごたえがない、とでも言えばいいのかな。こんな弱い方々を刺客として送ってくるなんて、紅孩児さんは一体何を考えていらっしゃるのでしょう?申し訳ないけど、手を抜きすぎなんじゃないでしょうか?だってこの程度の力の方達に私達5人を倒せる、って踏んでいるってことでしょう…ちょーっとナメられてる気がします。
…とはいえ、この方達が本当に紅孩児さんの部下なのかは定かじゃないですけどね。人違いとかだったら面白すぎます。


「どちらにしても俺達を襲ってきた以上、敵に変わりはない。殺されたって文句は言えねぇだろ」
「…ま、それもそーですね」


すべて片付いたのならさっさとジープへ戻りましょうか、と歩みを進めようとした瞬間、何かに引っ張られるように体が傾いだ。それが何かを確認する前に温かい何かにふわりと包まれ、痛みに悶える悲痛な声が鼓膜を震わせた。えっと…一体何事ですか?
何が何だかわからなくて目をパチパチと瞬かせていると、頭上から大丈夫ですか?と柔らかな声が聞こえた。この声は八戒くん…ということは、今私を抱きしめているのも彼だということで。ほ、本当に何が起きているのかサッパリなんだけど…!
事情を理解する前に恥ずかしさで顔から火が出そうです、割かし本気で。


「―――おい貴様。意図的に経文と香鈴を狙っただろう…何の為に、誰の命を受けた?!」
「ヒッ何も知らねぇっ…!!オレ達はただ、三蔵一行から経文と女を奪ってこいと命じられただけだ!!」
「え、…わ、たし……?」
「経文と香ちゃんを…?どーゆーことだ、そりゃあ」
「―――無駄ですよ、三蔵。下っ端は多分、何も聞かされてません」


眉間を銃で撃たれ、その妖怪は絶命。その光景を見つめながらもいまいち事情が飲み込めていない私は、いまだ私を抱きしめたままの八戒くんに説明をお願いしたのだけれど…何でもさっきの妖怪は三蔵様の双肩にかけられている経文と、私を狙っていたらしいです。ああ、さっき何かに引っ張られたような感覚があったのはそれだったんですね?全く気がついていませんでした、狙われていたなんて。
…でも、何の為に経文と私を狙ったのでしょう。もちろん、下っ端である方達に説明を求めても答えは帰ってこないと思いますが、それがわかっていたとしても尋ねてしまうのはきっとこのままじゃ気持ちが悪いから。何故狙われているのか、その理由を知りたいと思うのは不思議なことじゃないと思うんです。


「少し休憩して道を確認しましょう」
「…そうだな」


ジープを降りて岩場に腰を下ろし、何となしに空を見上げると大きな太陽が沈みかけていて―――空が一面真っ赤に染まっていました。
あまり時間を気にしない生活を続けていたせいか、最近では空の色で大体の時間を知る術を身に着けたような気がします。長安にいた頃はちゃんと腕時計もしていたし、家にいる時も壁掛け時計を見て生活していたんだけどなぁ…慣れってすごいですよね、時計なくても気にならなくなりましたもん。時間が。


「―――綺麗…」
「だなぁ。おい三蔵、八戒、見ろよ」
「…太陽が、すげーうまそう」

―――ゴッ

「結局それかい」
「あははっでも悟空らしいよ。オレンジジュースみたいだもんね」


クスクスと笑いながらそう言えば、だよな!って同意の言葉が返ってきました。
そういえば、…太陽って東から昇って西に沈むんでしたよね?そして私達の進路は西。ということは、いつも夕日に向かって走っていることになるんだ。何だっけこういうの……あ、そうだ、青春って言うんだ。確か。
八戒くんも同じことを考えていたらしく、楽しそうに紡ぐその言葉に悟浄くんもケラケラ笑いながら超サムッて答えて。それを聞きながら私も一緒に笑った、だって私達に青春なんて言葉、似合わないんですもの。


「―――行くぞ。夜更けまでに町に着かんとまた野宿だ」
「ああ、そういえば食料も底ついてますしね」
「えっマジで?!」
「あーあー、色気より食い気だねぇ小猿ちゃんは」
「ま、いいんじゃないですか?」
「悟空ですもんねぇ」
「―――フン、こんなもん生きてりゃ何度でも見れるだろ」


もう一度だけ、大きなオレンジ色の太陽を瞳に焼き付けながら三蔵様の言葉を反芻する。
そう、そうなんだ、生きてさえいれば―――この景色はきっと何度でもまた、見ることができる。何度でもまた、皆さんと一緒に見ることができるんですよね。今見ている景色が、これで最後になるわけじゃないんだ。
香鈴、と名前を呼ばれ振り向いた先には、愛しいと思える人達が立っていた。紫、金、紅、翠、…色とりどりの瞳が揃ってこっちを見つめ―――笑っている光景が、とてつもなく愛おしくて、でもどこか切なくて、でも…やっぱりとてつもなく幸せだと感じたんです。


「はい、今行きます!」


私が声を発せば、誰かが答えてくれる。
当たり前だけど、でも当たり前じゃないコレは一生をかけて守りたいと願うものなんでしょう。
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