休養


三蔵様の運転では死ぬ、絶対に死ぬ!と確信した私達は、必死でお願いして運転席を譲ってもらうことに成功した。…え?脅したんじゃないのかって?いやだなぁ、そんなことしませんよ〜ちょっとだけ眠って頂いただけです。
運転は5人の中で比較的軽い怪我である私が引き受けることに。軽傷じゃないです、と八戒くんに止められちゃいましたけど、でも多分貴方に比べたら私の方がまだマシだと思うんですよね。だからその意見は却下なのです。

日が暮れる頃に前の町を出た私達。さすがにこの状態での野宿は避けたかったので、それなりにスピードを出させて頂きました。後部座席から危ない!と声が上がるし、助手席からも安全運転で!って言われるけれど、安全運転で走ってたら、絶対に夜までに次の町に着けなくなっちゃうじゃないですか。
大怪我してるのに元気だなぁ、と他人事のように思いながら車を走らせること、数時間。太陽が完全に沈みきる頃に、ようやく次の町に辿り着くことができました。
では早速宿の確保を、と思ったんですけど…私達、5人揃って血塗れなんですよね。それはもう、ドン引きされる程に。このまま宿へ行ったらきっと追い返されること間違いなし…八戒くんの交渉術を持ってでもきっと無理、絶対に無理です。果てしなく面倒なことこの上ないですが、着替えるしかないですね。





―――ボフッ

「んー…お布団気持ちいー…!」
「腹減ったし、ねみぃし…もー色々限界」
「ほら2人共、眠ってしまう前に怪我の手当てしちゃいますよ」


はぁい、と返事をして起き上がる。八戒くんの気功術や私の癒しの歌を使えば一発なんですけど、それは自らの体力や気力を注ぎ込むことだからダメだ、と悟浄くんと悟空に言われてしまったので、大人しく使うことを諦めることにしました。他人の傷を治して自分が倒れてしまっては元も子もない、その考えはよくわかりますし、私だって…八戒くんに辛い思いをさせたいとは思いませんから。

全員の手当てを終えた後は待ちに待った夕飯です。考えてみたら、ここ数日はまともに食事してなかったんでしたっけ。ピザを食べたのが最後、かな…山を彷徨っている間は木になっていた果物は食べてましたけど、でもそれくらいだものね。その後はカミサマに捕まってしまっていたし。


「へぇ、悟空の一人勝ち?」
「皆が開き直るまではね。開き直ったらいつもどーりだったもん」


全員がいつも以上にお腹を空かしているせいか、テーブルに載っている料理は5人で食べきれるような量ではない。だけど悟空の食べるスピードが尋常じゃないし、そこまで量を食べない三蔵様も今日は黙々と食べてビールを煽っている始末。何かすっごい珍しい光景だ。


「そりゃーお子様にあそこまで言われちゃったら、なぁ?」
「ふふっ見たかったなぁ、悟空の一人勝ちする麻雀」
「多分、二度と見れねぇんじゃね?」
「わっかんねーだろ?!また勝つかもしんねーじゃん!」


食事をしながら繰り広げられる会話は、私達が離れていた間―――つまりは、カミサマに負けた後のこと。
山を下りた皆さんは町にあるとあるバーのマスターにお世話になっていたそうです。怪我の手当てもしてもらったそうですし、回復するまでの間泊めて頂いていたそうですしね。麻雀もそのマスターから借りて、それで何十回も勝負を繰り返して…ズッタズタになっていたプライドを取り戻した。
かいつまんで話すとこんなとこみたい。きっと、少し前の私達だったら笑ってこんな風に話せなかったと思うんです。ものすごく重い空気になって、誰も口をきかなくて、…お通夜のような雰囲気を纏っていたんじゃないですかね。
そんな雰囲気をぶっ壊してくれるのは、昔から悟空でしたね。太陽のように私達を照らしてくれる、道しるべのようなものだって思ってるんです。


「香鈴、まだ食べますか?」
「はい。春巻きと餃子と…炒飯ももらっていいですか?」
「もちろん。はい、どうぞ」
「ありがとう」
「…珍しくよく食うな」
「三蔵様だって食べてるじゃないですか。それだけ体力使ったってことなんですよ、あと気力」


全てを取り戻すかのように食べ続けた私達の食事が終わったのは、それから2時間後のことでした。ラスト1時間はほぼ悟空だけでしたけどね、食べていたの。
その間、お腹いっぱいになった私達はデザートを食べたり、食後のお茶を飲んでいたり…ま、いつも通りってことですよ。


「香ちゃん、アイツ何で謝ったんだ?」
「ふ?」
「飲み込んでから喋りましょうね」
「ん、(ゴクン)…何のことですか?」
「城が崩れ落ちてきた時、言われてただろ?」


―――ごめんね、俺…嘘ついたんだ。
ああ、あのことか。というか、やっぱり悟浄くんは聞こえてたんですね…隣に立っていたし、当たり前か。近くにいなかった3人は何のことだ?ってクエスチョンマークをたくさん浮かべていらっしゃいます。うーん、何から話すべきですかねぇ…かいつまんで話してもわからないと思いますし、やっぱり最初からでしょうか。
デザートのアイス(2つ目)を口にしながら、私は捕らわれていた間のことを話すことに決めました。話せ、と言われたわけではないけれど、あの謝罪の意味を話すのであれば必要なことかなぁと思いますしね。


「あの男に捕えられて、…昔話を聞いたんです」
「昔話?」
「そう、私の―――家族が襲われた時の話、そして殺された理由」
「え?山賊に襲われたんだ、って前に言ってなかったか?」
「そうなんだけど、本当は…歌姫である祖母を、捕えようとしていたんですって」


歌姫の能力を手に入れたくて、家族を人質に取ろうとしたけど…でもその時、おばあちゃんは能力を失っていた。能力の全ては私に移ってしまっていたから…だから、おばあちゃんも家族ももう用無しだった。肝心の能力を持っていた私はその場にいなかったし、まさか私が持っているとは思いつかなかったみたいですしね。
その事実に気がついたのは、つい最近―――そんな口振りでした。


「家族が殺されたのは、私のせい。そう言われました」


霧の迷路で見た幻覚も家族の本音、真実の声だった。私がいなければ死ぬことはなかった、何故お前は生きている―――そう言われたことを話すと、事情を知っていた悟浄くんがあれはアイツの創りだしたものだろうが!と声を荒げる。だから私のせいじゃない、絶対に違うんだって、私以上に怒ってくれました。
そんな悟浄くんに落ち着いて、話は最後まで聞いて、と声をかけて、ひとまず座らせる。深呼吸を1つして皆さんに向き直れば、複雑な表情をした悟空と八戒くん、無関心を装っているように見えてちゃんと話を聞いている三蔵様がこっちをじっと見つめていて。3人に笑顔を見せてから、続きを言葉にする。


「私にはもう知る術がない。そう言われてしまったらどうにも感情がコントロールできなくなって、」
「あ…もしかして、あの時の香鈴の暴走は」
「多分、それが原因です。カミサマは私を玩具にしたかったみたいですから」


私はまた自我を失い、守りたいと思っていた方達に刃を向けた。それだけではない、大好きで仕方ない八戒くんに怪我を負わせて、闇の中に引きずり込もうとしたんだ。
ちゃんと、覚えてるの…どうにもならなくなった瞬間も、彼の肉を引き裂く瞬間も、歌を紡いだ瞬間も、全部覚えてるの。あの時だってそう、妖怪達が喰われていく様子も、感じた感情すらもちゃんと覚えてる。唯一覚えていないのは、村人を殺した時だけ。


「…ん?それとアイツの謝罪、何の関係があんの?」
「嘘だった、ってことだろう」
「三蔵様、当たり。あれは、全部カミサマの作り話だったみたいなんですよね」
「へ?」
「悟浄くんすっごいマヌケ面」


クスクス笑っていると笑うな、と頭を小突かれた。


「ふふっだから言ったでしょう?最後まで話を聞いて、って」
「うーわー俺、馬鹿みたいじゃね?」
「安心しろ。お前は最初から馬鹿だ」
「ンだと?!このクソ坊主!!」


あーあ、相変わらず犬猿の仲だなぁこの2人は。カミサマの―――というか、金閣くんの一件で少しは歩み寄ったかなと思っていたんですけど、やっぱり合わないんですね。でも根本的にウマが合わない、ってわけではなさそうなんだけどなぁ…似た者同士だから、なのかなぁ?同族嫌悪ってやつがありますもんね。ま、この2人が合わないのは昔からなので今更気にすることでもないか。

それにしても、あの昔話が嘘だったなんて…最初からしっかり考えていたら、私はきっと彼に、彼らに刃を向けずに済んだのかもしれない。起こってしまったことは仕方がないし、もうなかったことにもできないからただその事実を受け入れるしかできないんですけど…それでも後悔が、胸を締め付けるんだ。


「どうしました?気分でも悪い?」
「あ……いいえ、大丈夫です」
「本当に?貴方はすぐ隠すクセがあるから心配なんですよねぇ」
「それは、…八戒くんだって、一緒」
「―――ほんと、僕達って似た者同士なのかもしれませんね」


お茶を飲みながらクスクス笑う八戒くんは、どこか楽しそうだ。きっと全てが終わって、ようやく一息つけたから…なのかな?いなくなってしまっていた悟浄くんも戻ってきたし、いつの間にか全部元通りになっていてちょっとだけ驚いた記憶がある。何があっても、どんな目に遭ったとしても、この方達の関係性はいつだって変わらないように感じました。本人達は否定するでしょうけれど、強い絆で結ばれているんだろうなぁって。
まぁ、この方達の場合。そんな綺麗な言葉ではなく、腐れ縁って言うでしょうけど。でもそれだって立派な絆だ、悪態をついたって離れることはない、そんな彼らが私は大好きなんだと昔から思ってるんです。


「…皆さん、すみませんでした」
「え?急にどしたの香鈴」
「香ちゃんに謝られるようなことあったっけ?」
「わかっているでしょう?あのお城で、私は刃を向けました。一種のマインドコントロールにかかってたとはいえ、私の意志であることに違いはないんです」
「起こっちまったことを気にしても仕方ねぇだろ。くだらねぇ」
「おい三蔵、」
「ぐだぐだ気にしてる暇があんなら、さっさと体力回復させていつも通りに戻れ。馬鹿が」


お茶を飲み終えたらしい三蔵様は、その言葉を残してさっさと大浴場へと行ってしまいました。残された私達は―――というか私だけですが―――ただぽかん、とその場に座ったまま。悟空達は次第に笑い始めて、数秒しないうちに大笑いし始めてるんだけど急にどうしたのこの方達。
笑う要素なんて1つもなかったと思うんだけどなぁ、と首を傾げていると、ただのツンデレじゃねーか!って悟浄くんの笑い声。
ツンデレ?誰が?…三蔵様が?!


「はー、おっかしい!アイツも素直じゃねぇなぁ」
「心配してたのにな、三蔵だって」
「仕方ないですよ。素直に言えないのは三蔵なんですから」
「えっと……?」
「つまりですね、しっかり休んでいつもの笑顔を見せろって言ってたんですよ。あの人」


八戒くんがクスクス笑いながら教えてくれた言葉は、私の体温を急上昇させるには十分すぎる威力を持っていましてね…多分、今顔真っ赤になってます。私。
いや、別に三蔵様に恋心を抱いてるとかそういうことじゃないんですけど、でも普段そんなことを言わない人に(遠まわしにでも)言われちゃったら…何ていうか、ほら、恥ずかしくて仕方ないじゃないですか!そうでなくともあの御方は容赦なくハリセンで殴ってきますし。
割と女性には優しい御方だとは思っていましたけど、私のことはそう思っていないのか割と全力でぶつかってこられますので。だから、なのかな…余計に恥ずかしいって思っちゃうの。


「あ、香鈴顔真っ赤じゃん!」
「…三蔵様のデレは強烈だと思います…!」
「全くそういうことは言わないですからね、余計に破壊力抜群かも」
「えー?俺が言っても照れてくんねぇクセにィ」
「だって悟浄くんは結構な回数言ってきますから慣れてますもん」


いい加減僕達も出ましょうか、と八戒くんが立ち上がったのを合図に、私達は食堂を出る。ふっと見上げた空には大きな満月が昇っていて、思わず見とれてしまう。
いつか―――いつか、皆さんと一緒にお月見をしてみたいなぁ…なんて思うんだ。一緒に行きたい所やしたいこと、旅をしていくうちにどんどん見つけてるんです。だから、だから…この場所だけは、どんなことがあっても守っていきたいんです。失いたくないんです。


「―――いい加減、決めなくちゃいけませんね」


どうするのか。どうすべきなのか。それはきっと、話を聞いた時から私の中では決まっていたことなのかもしれない。
菩薩様―――ちゃんと決めますから、覚悟を決めますから…だから、もう少しだけでいいんです。彼らと一緒にいさせてください。
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