鏡に映る自分と、


ここ最近、敵襲が節操なくなってきてるように思うんです。刺客だけではなく、雑魚妖怪までもこぞって来ているような感じ。いつの間にか「おたずね者の三蔵一行」とか言われちゃってるし…悟浄くん曰く、何処かに手配書でも貼ってあんじゃね?って。
本当にそんなものがあるんなら、個人的に焼き増ししてほしいなーなんて。だって5人で写真撮ったことなんてありませんし、欲しいんですもの。





「―――んぅ、…?」


宿に着いたのはお昼頃。すぐに宿を確保してお昼ご飯を食べて、それから宿の部屋に戻ってきてー…ああそうだ、あまりにも眠かったから少しだけ、って横になったんだっけ。
ふわ、と欠伸をしながら起き上がると、いたのは三蔵様だけで他の3人は姿が見えない。


「アイツらなら買い出しだ。お前は来なくていいから休んでろ、と八戒が言っていたぞ」
「うわ、マジですか…んー、じゃあお言葉に甘えちゃいましょうか」


これ以上、ベッドに横になっていると永遠と眠っちゃいそう。まだ眠っていたいなー、と駄々をこねる身体を叱咤して立ち上がり、お茶の用意をする。
三蔵様のはまだ残ってるみたいだし、とりあえずは自分の分だけで大丈夫そうですね…というか、三蔵様が眼鏡かけてるのって何度見ても新鮮だよなぁ。近視なのかな?でも普段は裸眼みたいだから、そこまで悪いってわけじゃなさそうだし…でも新聞読む時とか、割とよくかけてるような気はする。
ズズーッとお茶を飲みながら理由を考えていると、ただ1つだけ―――ピッタリ当てはまる理由を思いついた。


「三蔵様って、…まだまだお若いのに老眼?」

―――スッパーーーーーンッ!!

「いったああぁあ!」
「なに馬鹿なこと抜かしてやがるんだ、お前は!!」
「だって新聞読む時に眼鏡してるから!」
「だからってどうしてイコール老眼になるんだ!少しは考えろバカ娘がっ!!」


いや、そりゃ少し突拍子もない考えかなーと思わないでもなかったですけど、イイ線いってると思ったんだけどなぁ。勝手に悟浄くんの煙草を吸って不服そうな顔をしている三蔵様を、視界の端に捉えながら私も久しぶりの煙草に火をつけることにした。


「お前、…煙草吸うのか?」
「え?ああ…三蔵様の前では吸ったことありませんでしたっけ?時々、吸うだけです。煙草も軽めのやつですし」


ほら、とパッケージを見せると、グッと眉間にシワを寄せてそれで吸った気になれんのか、と聞かれてしまいました。吸った気になれんのかって言われても…最初の1本以外はずっとこの煙草を吸ってきてますからねぇ、そう感じたことは一度もありません。
最初に吸ったのは悟浄くんの愛煙であるハイライトでしたけど、体質的に合わなかったみたいでダメだったんです。それで勧められたのが今、吸っている煙草だったのでそのままって感じなので。
ああでも、悟浄くんや三蔵様の吸っているやつはそこそこタール値が高いやつなんですよね。それに比べればかなり軽いから、吸った気になれんのかって聞かれてもおかしくはないのかも。

トッと灰を落として何気なく視線を彷徨わせると、三蔵様のお茶がなくなっていることに気がついた。さっき淹れたお茶がまだ急須の中に残っているし、注いでしまいましょう。
吸いかけの煙草を灰皿に置き、急須を持って立ち上がろうとした瞬間―――三蔵様が使っていた湯呑みが、パァンッと弾けた。


「ッな、…?!」
「香鈴、避けろ!!」


―――ガゥンッガゥンッガゥンッガゥンッ!!

三蔵様が叫んでくれたおかげで何とか避けられたけど、…急に何だって言うのでしょう?もしかしなくても刺客…?でも妖気も、気配も一切感じなかったわ。三蔵様も何も気がついていなかったようだし…一体何者?
とりあえず敵の正体は後で考えるとして、相手が銃を持っているのならこっちも銃で応戦した方が良さそうだ。刀では接近戦に持ち込まなくちゃいけないし、それではこっちが不利になる確率も高いですしね。

壁にピッタリ背中をつけて、ホルスターからそっと銃を抜いてベッドとベッドの間に滑り込んだ三蔵様の様子を探る。彼も私と同じように銃を構えて、窓の外の様子を窺っているようです。さっき撃ち込まれた銃弾は全部で4…いや、5発でしたか。ということは、全弾撃ち込んだ―――ってことですよね?なら、今は弾を込め直している所か、もしくはこっちの様子を窺っているのか、果たしてどっちだろう。

部屋の中に漂う緊張感に、自然と喉が鳴る。ツーッと汗が滴り落ちる。どうするべきかと思案していると、ドアがガチャッと開いた。
そっちから来たか―――と2人揃って銃を向ければ、そこにいたのは宿屋に勤めている女性の方だった。銃声やガラスが割れる音がしたから、何事かと思って見に来てくれたらしいけれど、何てタイミングの悪い…!


「お姉さん伏せて!!」


私がいる所からじゃ間に合わない!このままでは関係のない人が犠牲になってしまうと、危惧していたのだけれど、ギリギリの所で三蔵様が女性を庇ってくれたみたい。その時に銃弾腕を掠ってしまったみたいだけれど、問題ないって先に言われちゃった。

―――ザッ

足音と、殺気。いよいよ敵のお出ましってわけですね、一体、どんな奴が―――


「え、…わ、たしと、三蔵様……?」
「…な…ん、だと?」


それぞれもう1人の自分に目をつけられた私達は、別々の方向へと身を翻した。何というか、とってもやりづらーい気がしちゃうんですけど…コレ、気のせいじゃないですよね?
じっと対峙したまま、思考を巡らせる。これはきっと誰かの術によって生み出されたもの…つまり、式神だってことだと思うんです。三蔵様と私の偽物がいるってことは、買い出しに出ている彼らの元にも彼らの偽物がいるってことなんでしょうね。…ちょっとだけ、八戒くんの偽物見てみたいなーとか思ったら怒られるかなぁ?
いや、ホンモノがいつだって近くにいるじゃんって言われたらそれまでなんですけどね。あの、ほら…ちょっとした興味本位ってやつです。うん、下らないことを考えるのはここまでにしておきましょうか。


「誰だてめぇ」
「貴方―――だぁれ?」

「…玄奘三蔵」
「―――香鈴」


ああほんと、…素敵に悪趣味ですね。
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