黄色の瞳


今日も今日とて、西を目指してジープの上。ここ最近は刺客であろう敵の襲来もないから、ひたすら朝から夕方まで走りっぱなしなのです。身体を動かすこともできないし、ジープの上でできる言葉遊びもやり尽くした…カードゲームは何度やっても勝てないから、って悟空が根を上げてそれっきり。つまり、暇だーって繰り返しちゃう悟空の言葉に賛同せざるを得ないわけです。

…でもあれですよね。退屈っていうのは平和な証拠、それを暇で嫌だーなんて文句を言ってしまったら罰が当たっちゃうってものですよねぇ。それでも口にしてしまうのが性ってやつなのかもしれませんが。


「腰がキュッとくびれたナイスバデ〜〜なバチなら大歓迎だけどな」
「じゃあ俺は餃子と肉まん責めのバチ希望ー!」
「…てめぇらの場合、罰と言うより恥だな」
「――――――…?」
「香鈴?キョロキョロしちゃってどうしました?何か落としましたか?」
「いえ、あの…」


何か、変な感じがする―――と口にしかけた時、フッと陽が翳ったかのように暗くなったんです。何事か、と頭上を見上げてみれば、そこには武器を持った人影が3体。私達に向かって飛び込んできました。
八戒くんがハンドルを切ってくれたので何とか避けられましたが、妖気なんて一切感じて……顔を上げてすぐに感じた違和感、それは襲ってきた方々の姿だ。

だって武器を持って襲ってきたのは明らかに、人間だったから。

臨戦態勢に入ってしまっていた悟空と悟浄くんに慌てて声をかける。何とか寸での所で攻撃を止められたみたいだけど、そのまま囲まれてしまいました。
でも、どうして人間が私達を…?悪さをした記憶はないし、襲ってきている方々に危害を加えた記憶もない。ついさっき、この山を越えてきたばかりですからね、そんなわけもないんですが。
ということは、この方々は山賊とか盗賊ではないということになります。


「…ろせ、殺せ、妖怪は殺せぇええ!!」
「っ、この方達、何言って―――」


「三蔵一行」を殺せ、じゃなくて、「妖怪」を殺せってどういうこと?!確かに彼らの狙いは私達4人に絞られていて、三蔵様には一切手を触れていなければ、危害を加えてもいませんが―――どうして、私達が妖怪だって断定できているのだろう?これも牛魔王サイドの作戦?それとも、全く違う誰かの?
…いや、牛魔王サイド以外に私達を襲って有益になる方達がいるとは、到底思えませんよね。そうでないとしたら、三蔵様が狙い…とか?彼を手に入れる為に傍にいる私達が邪魔だとしたら、頷ける部分もありますけれど。

理由はどうあれ、相手が人間ならば傷をつけるわけにはいかない…!振り下ろされた武器を召喚した刀で受け止めるけれど、力で圧し負けてしまいそうだ。旅を始めてから筋肉がついた方ではあるし、早々圧し負けない自信もありますけど、この方達の力はっ…人間のものとは思えません。


「(この人達、皆さん―――)」

―――キィンッ!

「なぁ香鈴!気がついてるだろ?!変だよ、コイツら!」
「…生きている感じが、全くないわね。誰ひとり」


そう。清一色の時と同じ、生きているという感じが全くわからない。悟空曰く、生きている匂いが一切しない―――らしい。その匂いはわからないけれど、でも気配が…生きている人とは何かが違う。確かに動いてるし、死んでいるようにも見えないけれど…けど、やっぱり変です。

悟空と私の言葉を聞いた三蔵様が何かを感じ取ったのか、1人の眉間を躊躇いなく銃で撃ち抜いた。それなのに血が一切出ることはなく、その身体はまるで土人形のようにボロボロと崩れ落ちていったんです。
…やっぱり生きてはいなかったけど、それならば式神―――ということなんでしょうか?


「彼らが口にしていた言葉が気になります」
「『妖怪は殺せ』…でしたっけ」


唯一崩れ落ちなかった服をどかしてみるけれど、そこにはあるであろうと予想していたものが見つかりませんでした。式神ならば媒体となるものがあると踏んでいたんですが、…それが一切見当たらない。ということは、式神ではないということ…?
だけど生きている気配は一切しなかったし、血も出なければ、死体は崩れ落ちて跡形もなくなっている。人間でもない、式神でもない―――なら、ここに確かに存在していたあの人達は一体、何者なんでしょうか?

考えれば考える程、深みにはまっていくような気がしてダメですねぇ。ふう、と溜息をついて立ち上がると、名前を呼ばれました。


「はい?」
「三蔵が嵐が来るから早く行くぞ、だって!」
「わかった、今行くわ」


山を越えてすぐだ、と八戒くんが言っていた通り、程なくして私達は街に辿り着いた。そこは大きな街でたくさんの人が行き交っていて、久しぶりに活気があって大きな街に泊まるような気がします。その光景に一番最初に目を輝かせたのは悟空、宿屋を探す前に腹ごしらえだと言わんばかりに、食べ物を売っているお店を探しに駆け出して行ってしまいました。
ふふっさっきまでは退屈だ、って騒いでいたのに…街に着いた途端に元気になっちゃうんだから。こういうのを現金な性格って言うのかしら。
だけど、ちょうど夕食時なのもあってか何処のお店も混んでるみたい…雲行きも怪しくなってきているし、早めにご飯屋さんか宿屋を見つけないと降られちゃうかもしれません。とか何とか考えている間に、悟空の姿があっという間に見えなくなっちゃった。

まぁ、進んでいった方向は覚えてるから追いかければすぐに見つかる―――ああ、いましたね。…ん?誰かと話してる…銀髪の、綺麗な男性。でも見たことない服装ですねぇ、異人さんかなぁ。
あ、あれに似てるんだ、前に本で読んだことがある―――司教様、でしたっけ。その人はすぐ喧騒に紛れ、見えなくなってしまいました。


―――スパン!!

「勝手に1人でウロチョロすんじゃねーっつってんだろ!!」
「いってーなッだってメシ屋が…」
「まぁまぁ、それより早くどこかに入らな…」
「―――あ。」
「ん?どうしたんだよ、香ちゃん」


雨です、と口を開く前に、悟浄くんが咥えていた煙草の火がジュッと音を立てて消えちゃいました。ポツポツと降り始めた雨はすぐに大降りに変わって、近くにある宿屋に駆け込んだんですが…まぁ、見事にびしょ濡れになっちゃいましたよね。
濡れ鼠の状態で入ってきちゃって、本当にごめんなさい御主人…!





―――カッ!

「あ、また光りましたね」
「すごい雨ですねぇ。こんな中で野宿なんてことにならなくて良かった」
「ふふっ確かにそうですね」
「あれだけずぶ濡れになりゃあ一緒だって―――オラ、フォーカードだ!」
「ちょっとタンマ!!」


悟浄くんと悟空のカードゲーム(勝負になってないけど)を見学しつつ、三蔵様と八戒くんと私の分のコーヒーを淹れる。くるり、と振り返ると三蔵様は窓の外を見つめながら、何かを考えているようですね。


「―――ねぇ、三蔵様。山で会った方達の瞳…見えました?」
「黄色い瞳をしているように見えたな」
「さっきの式神のことですか?」
「…お前らはあれを式神だと思うか?」
「どうでしょうね…香鈴、死体を調べていたでしょう?何か見つけました?」
「いいえ。媒体も見当たりませんでしたよ」


ズズ、とコーヒーを啜りながら答えれば、話を聞いていたらしい悟空が「ばいたい?」と首を捻っていた。…ああそうか、実際に式神を見たことはあるけれど、この子はその術を詳しくは知らないんだ。
とりあえず説明をしよう、と私は口を開くことに。


「式神ってそれを操る術者がいるでしょう?術者の呪、つまり念の入ったなにか―――ああ、清一色の場合が麻雀牌であったようにね、そういうものが必要なの。呪符でも何でもいいんけど、術者と式神を結ぶ触媒となる物が」
「…………へぇー」
「…八戒くん、私の説明わかりづらかったですかね…絶対悟空、わかってくれてないです…っ!」
「あはは、大丈夫、わかりやすかったですよー」


かなり噛み砕いて説明をしたつもりだったんだけどなぁ…諦めてコーヒーに口をつけていると、からかい始めた悟浄くんとムキになった悟空の口喧嘩が始まっちゃいました。いつものことだから今更、って感じもしますけど、もうそこそこ遅い時間なんですから程々にしないと怒られちゃうと思うんですけどね。
…他の宿泊客の方々に―――ではなく、ウチの短気な三蔵様に。

―――ジャキ。

ああほら、今日は虫の居所が悪いのでしょうか?それとも手っ取り早いから銃を取り出したんでしょうかね。大部屋とはいえ、だだっ広くない室内で銃をぶっ放されると八戒くんや私にまで流れ弾が飛んできそうだから止めて頂きたいのが本音。それに近所迷惑にもなりますし。…でもハリセンもなかなかイイ音がするから、どっちを使っても近所迷惑になるのは避けられないですかねぇ。


「ふわ、…」
「ああ香鈴、眠いですか?」
「んー…ちょっと限界。寝ます」
「ええ、そうしてください。ほら、皆さんもいい加減ベッドに入ってください、消灯しますよ〜」

―――パチンッ

「あイテッ椅子にぶつかった」


ベッドに潜り込んで耳をすませば、彼らの声に混じってザァザァと降り続ける雨の音が聞こえてくる。…そういえば、雨の日はあまり機嫌の良くなかったはずの八戒くんと三蔵様、今日は普通にしてたなぁ。それとも表面上に出していないだけで、辛かったりするんでしょうか…。
ウトウトと微睡む意識の中、朝になったらスッキリ晴れているといい、と思いながら、私は目を閉じた。
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