君からの贈り物
天蓬は時々、下界のお菓子を買ってきてくれる。任務だったり、個人の用事だったり、下界に下りる理由は色々みたいだけど、でもそれに共通しているのは必ずお土産があること。それは私があの人に懐いた時から始まっていて、甘いものが好きなんだって話した後からは美味しい、と下界で評判なお菓子を色々と買ってきてくれるようになったんです。彼が買ってきてくれるものにはハズレが1つもなくて、本当にどれも美味しいんだよね。
そんな天蓬は今日、捲簾とその他数人の部下を引き連れて下界へ下りている。もちろん任務でね。大したものじゃないから、って理由で私はお留守番ー。大したものじゃなくてもさ、やっぱり連れて行ってほしかったなーって思うんだけど…その間に書類を片づけておいてください、って言われちゃったらどうしようもないじゃん。
同じ元帥だけれど、小隊の中では私はあの人の部下だから。上司命令となったら反抗するわけにもいかないし。…いや、あまりにも理不尽だったら反抗もするけど、今回のは理不尽って程ではなかったし。私が単に置いていかれたくなかっただけだ。
「んん〜〜〜〜〜…っ!」
考えごとをしながらもかなりの時間、集中して書類に向き合っていたらしい。最後に時計を見た時はまだ昼過ぎだったはずなのに、今はもう夕刻だ。そりゃあ疲れもするし、お腹も空いてくるはずだよねぇ。何かつまみたい所だけど、…でも夕食食べれなくなったら困るしなぁ。今日は3人で食べに行こう、って捲簾からお誘い受けてるし。せっかく誘われてるのに、お腹いっぱいで食べられません!とかもったいなさすぎるでしょ。別に奢ってもらうわけじゃないけどさ。
大好きな2人とご飯行けるなんて、最大のご褒美に他ならない。だから、極限までお腹を空かせて思う存分楽しみたいんだよね。天蓬と捲簾に関しては、もうこれでもかってくらい全力投球することで有名な紅英ちゃんですから。どこで有名なの、ってツッコまないでください。言葉のあやってやつだから。
さて、…まだ戻ってきた様子がないし、もう少し書類整理を進めておこうかな。天蓬や捲簾の判が必要なやつは別にしておいて、こっちはもう提出できるやつだからひとまとめにしておこうか。混ざっちゃうと後で面倒だし。
―――コンコン
「紅英、天蓬です。入ってもいいですか?」
「はいはーい、どうぞー」
噂をすれば何とやら。ガチャリとドアが開いた先にいたのは、さっきまで私の頭の大半を占めていた天蓬ご本人。
「おかえりなさい。捲簾は?」
「自室に戻ってます。シャワー浴びて、着替えたらこっちに来るようですよ」
「ふぅん…天蓬はお風呂入らないの?まだ軍服のままだし」
「ええ、僕も一度自室に戻りますが…先に渡しておきたいものがありまして」
「渡したいもの?」
私の部屋に来たってことは、私にってことなんだろうけど―――あ、また美味しそうなお菓子でも見つけたのかな?ゴソゴソとポケットをまさぐっている天蓬を見つめながら何だろうな、と心を弾ませていると、そっち向いてくださいって言われちゃった。
そっち、と指を指されたのは私の背後。それはつまり後ろを向け、ってことだよね?でも何で後ろなんか、…小首を傾げながらも素直に後ろを向くと、首筋に天蓬の手が回った。何?!と内心驚いていれば、できましたよ、と楽しそうな声。
いや、できたって何が―――あ、あれ?何か胸元に冷たくて固いものが……ん?これ、ネックレス?
「下界で見つけたんです。貴方、桜が好きだったでしょう?」
「好き、だけど…!」
「気に入らなかった?一応、邪魔にならなそうなのを選んだんですけど」
「そっそういうわけじゃないけど、」
気に入らないわけじゃないならもらって、と微笑まれてしまったら、これ以上は何も言えなくなっちゃうじゃないの。バカ。
「……ありがとう。大事に、する」
「そうしてくれると嬉しいです。…うん、よく似合ってますね」
―――ドクン、
天蓬の笑顔を見た瞬間、心臓が一際大きな音を立てた。それと同時にブワッと熱が上がってきて、顔が…尋常じゃないくらいに、熱い。きっと真っ赤になってる…!それを隠すようにまだ少しだけ残っている書類に目を落としたら、ふっと影が落ちた。その正体は天蓬なんだけど、一体どうしたんだろう?まだ何か用事があるのか、と顔を上げようと思ったら、下ろしたままだった髪に彼の手が触れた。
サラサラと天蓬の手から流れ落ちる、私の髪。それをおもむろに一房掴んだかと思えば、何を思ったのか―――天蓬はその掴んだ髪に、口づけを1つ。徐々に引き始めていた熱が、彼の行為によってまた勢い良く戻ってきちゃいましたとさ。
「―――さて、僕もシャワーを浴びて着替えてきますね。また後で」
迎えに来ますから、待っていてくださいね。
その言葉を残して、彼はあっという間に部屋を出て行った。私はといえば―――…天蓬が出て行った後も、数分間固まったまま動けなかったです。
「なっ……なに今の――――?!」
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