守りたいものの為に、
運命というものは、時に甘く、時に厳しく。―――そして、無情にも人の命を散らす。
その日―――運命の歯車が狂い始めたその日、私はとある任務で下界へと降りていた。極々簡単な任務だった為、下界へ下りたのは私を含めた数名。天蓬と捲簾は天界に残った。
…でも、思ったよりも手間取って時間を食ってしまったの。ようやく任務を完遂して天界に戻ってきたら、…そこは私が出て行った時の静けさは微塵も残っていませんでした。
「―――急げ!とにかく手の空いている奴らを片っ端から集めるんだ!!」
そこら中でたくさんの人が怒号を飛ばして、走り回って、…何かよくわかんないけど、とにかく大変なことになっているってことだけは理解できた。事情が知りたい、現状を知りたい―――けれど、そこら中を走り回っている奴らをとっ捕まえて聞くことは難しそうね。それなら、私が知る限りで一番事情を理解していそうな方に聞きに行くのが一番ってやつだ。
私だけ逆方向へと走り出す。その間に耳に入るのは、「斉天大聖」が天界人を大量虐殺を犯したということ。その不浄の子供を庇い、捲簾大将・天蓬元帥・金蝉童子の3人が謀反人となったということ。更に言えば、天帝の命を奪ったとまで―――噂話だ、と大声で叫びたくなるくらいの、信じ難い話がそこら中で飛び交っているんだ。
嘘だ、そんなことを彼らがするはずがない、する理由なんてない!だからっ…だから、そんなデタラメなこと言わないで!!
「菩薩様っ!!」
「紅英殿…!」
「―――そろそろ来る頃だと思ってたぜ」
「この騒ぎは一体なに?!そこら中で悟空が大量虐殺を犯したとか、天蓬達が謀反人だとかっ…そんなデタラメな話が飛び交っているわ!」
お願い、…お願いよ、菩薩様。それはただの戯言だって、彼らは何もしていないって…いつものように笑って、否定をして。
「ほう、もう耳に入っていたか」
だけど、私の願いはあっけなく砕け散った。
「残念だが―――あのチビが大量虐殺を犯したのも、あいつらが謀反人なのも…事実だ」
ガツンッと、頭を鈍器で殴られたような気分だった。でたらめだと思いたかったのに、だけどそれこそが真実だと、城内の人々が、目の前に座る菩薩様と二郎神様が物語っているような気がした。私ごときがいくら騒ごうと、喚き散らそうとも、何も覆ることはない…と。
「うそ、…嘘よ、そんなの!悟空が、あの人達がそんなことするはずっ…!」
「それでも事実なのですよ紅英様!!…金蝉様は、天帝に背かれたのです」
「蘇芳……貴方までそんなことを言うの?兄様の一番近くにいたのに」
「信じたくなくとも、…現実に起きてしまわれました。今、金蝉様達は籠城しております」
静かに語られたのは、現状に至るまでの経緯。
昨日―――軍事会議の最中、ナタク太子に天蓬・捲簾・悟空の抹殺命令が父親でもある李塔天より下った。詳しいことは菩薩様も蘇芳もわからないらしいけど、ナタク太子が自害しようと自らの身体に刃を振り下ろしたらしい。そして…悟空はそれを目の前で目撃して、抑えが効かなかったのでしょうね…斉天大聖へとなり、大量虐殺を犯してしまった。
彼ら―――特に兄様は悟空のことをいたく気に入っていたみたいだし、天蓬と捲簾もまるで弟のように可愛がっていたから。みすみすあの子を殺させはしないでしょうね。
だからこそ、悟空を連れて逃亡を図ったのでしょう。逃亡した彼らは、西南棟を占拠して籠城を続けているとのこと。
「聞いた話によりゃあ、早朝に一斉攻撃を仕掛けるらしいぜ?」
「―――…わかりました。教えて頂き、ありがとうございます。菩薩様」
「紅英様?!一体、どちらへ…!」
「どちらへ?…そんなの、聞かなくてもわかっているのでしょう?蘇芳。貴方は私の世話役だもの」
「いいのか?此処にいればその命、失わずに済むぜ?紅英」
菩薩様の言う通りだ。このまま此処にいれば、彼らのことを見捨ててしまえば―――命は長らえる。いくら彼らの部下・妹だと言っても、事件が起きた時に下界にいたことは証明されるし…疑われることも、命を狙われることもないだろう。
「私の命は、あの人達を守る為にあるんです。ずっと…そうでした」
くるりと振り向き、笑顔を浮かべる。こうして貴方と言葉を交わすのも、最後かもしれませんね?菩薩様。
「最期の時まで、傍にいたいんです。兄様の、捲簾の、悟空の、―――何よりも、天蓬の傍に」
「……そうか。幸せもんだな、あいつらは」
「ふふ、そうだといいんだけれど。…では、いってきますね。菩薩様、蘇芳」
返答を待たずに、私は重厚な扉を閉めた。行き先は決まっている、覚悟も決めた…もう何も迷うことなどないし、到底そんな時間もない。
それを示すかのように大きな爆発音が、響き渡る。恐らく、一斉攻撃が始まったんだろうな。もしくは、それらを天蓬達が出し抜いたか―――まぁ、真偽の程はどうでもいいか。
「紅英!」
「永繕、洋閏。どうしたの?」
「どうしたの、じゃねぇって!…聞いてんだろ、大将と元帥のこと」
「もちろん」
カツカツ、と歩みを止めないまま、問いに答える。今は少しの時間さえ惜しい、歩みを止めている暇があったら早く4人の元に―――そう思っていたのに、目の前に現れた人達を見て思わず足を止めてしまった。
だってそこにいたのは、志を同じくにしてあの2人の元に集った仲間達だったから。
「お前の行動パターンはわかってんだよ。行くんだろ?大将と元帥のとこに」
「俺達も行くぜ!このまま黙ってなんかいらんねぇだろ!」
「―――…ふはっ!そう、そうだよね、私達は皆、あの人達が大好きなんだもんね」
たった4人の謀反人かもしれないけど、味方なんて1人もいないと思ってるかもしれないけど、こうやって安否を心配する奴らがいるんだってこと。再度、身体に叩き込んでやらなくちゃ!
…とはいえ、今から西南棟に行っても天蓬達はもうあそこにはいない気がするのよね…あの人達の要求は、確か下界への亡命だったはずだから…必ず、地下の下界ゲートを目指すはず。あそこからしか下界へは行けないからね。
ゲートが最終目的地なら、西南棟の地下にある隠し通路を使って天帝城へ潜り込もうとしているはずだ。あの地下道は西方軍の一部が使っているだけで、知っている人もそう多くはないもの。きっと天蓬と捲簾なら、そのルートを使っているの違いない。
「―――となれば、最初にあの人達を仕留めようとするのは…恐らく此処だわ」
「でかい爆発音が聞こえたのは少し前だ。あれが大将達の仕業だとすりゃあ、急がねぇと間に合わないかもな」
「そうね、急ぎましょう。絶対に、あの人達を死なせたりしない」
殺しは不浄?そんなもの―――クソ食らえ。
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