鈍い男×鈍い女


「紅英、何してるんです?行きますよ」


アイツが下らねぇ奴らに絡まれてると、めっずらしくすげぇ形相で助けに入る。


「天蓬元帥、あの…」
「ん?どうしました」


アイツが話しかけるとすっげぇ優しい顔と声音になる。でもきっと本人はわかってねぇ。
お互いに惹かれ合ってるのは間違いねぇと思うんだが、どっちも鈍そうな感じだからなぁ…自分の気持ちにすら気がついてねぇんじゃねーかなっていつも思ってる。
部下であるアイツらも天蓬と紅英の間に流れる、どこか甘い雰囲気に気がついてるらしくてよ?いつくっつくんですかね、って結構前から言ってたりする。


side:捲簾


早くくっつきゃいいのに、と心では思いつつも、自分で気がつかなきゃ意味がねぇもんだから俺もアイツらも、2人には何一つ助言はしないと決めた。自分で気がついて、悩んで、そんで最後にどうするのか決めねぇとどうしようもねぇだろ?
まぁアイツらにことだから、このまま気がつかないままながーい月日が流れましたってこともありそうでこえぇなとは思うけどよ。それでもやっぱ、幸せは自分の手で掴まねぇと面白くねーじゃん。長い人生、楽しまねぇともったいねぇよ。ただでさえ俺達天界人は寿命が長いんだからさ。


「はい、紅英。お土産です」
「ありがとうございます…でもどうしたんです?急に」
「何があったわけじゃありませんが、貴方、そういうの好きでしょう」


天蓬が紅英に渡したでかい紙袋に入っていたのは、甘い菓子達の山。酒も嗜むけど、それ以上に甘いもんが好きだと言っていたのは俺が西方軍の第一小隊に配属されて少し経った頃、だったか?
何かの話の流れで何が好きか、って話題になって酒だとか女だとか野郎共が騒ぐ中、コイツは甘いものと可愛いものだって答えてた。普段はそこら辺にいる男よりも男らしい紅英だから、俺達はすげぇ面食らった記憶がある。ちゃんと女らしいとこあんじゃねーか、って思ったんだよなぁ。
他の奴らもそうだったらしく、初耳だ!ってうるさかった。天蓬も初めて聞きました、って顔してたっけな、そーいや。その話はそれで終わったんだけど、天蓬が紅英に今日みてーに土産と称して菓子を買ってくるようになったのは、…そうだ、アイツに全員分の焼肉を奢らせたあの後から。
罪悪感があったのか、それともただ単にアイツのことが気に入ったのかはわかんねーけど、時々何処かに出かけては山のように菓子を買って帰ってくる。それがー…ふた月にいっぺんあるかないかってくらいか。


「(けど、)」


思い出すのをやめてチラリ、と楽しそうに話す天蓬と紅英に目を向けてみる。これはどんな味で、とか、こっちは今人気の菓子なんだ、とか説明しているアイツの顔は―――やっぱり優しくて、穏やかで、どっか緩んでる。他の隊の奴らが見たらびっくりするんだろーねぇ、変人でもあんな顔するのか!ってよ。

…そう。きっとアイツが定期的に菓子を買ってくるのは、紅英の笑った顔が見たいからなんだと俺は推測してる。
紅英は男勝りだけど、感情表現はめちゃくちゃ豊かでよく笑うし、怒るし、泣く…ことはないけど、自分自身にこれでもか!ってくらいに素直に生きている女で。だから嬉しい時は、それはもうオメーは犬かよってくらいに全身で喜びを表現する。
妹みたいに思ってる俺でさえ、そういう姿を見ると可愛いなって思うくらいだし…自覚してなくても好意を抱いてんなら、きっと天蓬だってあの笑顔にヤラレてんだろーなって思うわけだ。


「あ、これ美味しいです」
「でしょう?あとこれがオススメですね」
「へえ…これは知ってますけど、こっちは知らないや」


もそもそと菓子を食いながら話してっけど、…なんつーか色気ねぇ奴らだなぁ。コイツら。まぁ、自覚もしてねぇし恋人になったわけでもねーから、色気がなくても当然のことか。


「捲簾?ボーッとしてどうしました?」
「いンや、…よく食うなーって思っただけ」
「だって美味しいですもん。大将も1つ食べてみます?」


はい、と渡されたのはチョコボール(ピーナッツ入り)。前に出撃命令が出て下界に下りた時、こっそり買ってみたら紅英が気に入ってたやつだよな?チョコレートでコーティングされてて、中にはピーナッツが入ってて…紅英が気に入るくらいだからめちゃくちゃあめぇのかと思ってたら、意外とそうでもねぇ。割と美味いし。
素直に美味い、と口にしたら、満面の笑みでですよね!って拳握られたから、思わず吹き出した。だってよ、お前が作ったもんじゃねぇのに何でんなに喜んでんだっつー話だろ?そりゃあ笑いたくもなるっつの。
ひとしきり笑ってから新しい煙草に火をつけていると、紅英はきょとんとした顔してこっちを見てた。大方、何で俺が笑ってたのか理由がわかんねぇってことなんだろうけどよ。


「あれだ、お前が作ったもんじゃねぇのに嬉しそうに笑ったからよ。それがおかしかっただけだ」
「だって自分が好きなものを美味しいとか、好きだとか言ってもらえると嬉しくありません?」
「わからなくはないですけど、でもさすがにさっきの貴方みたいに喜んだりしませんよ」
「天蓬に同感。…ま、お前らしいけどな」


そうですか?と首を傾げながらも、菓子を食うのはやめねぇし。


「紅英、その辺にしとけ。夕メシ食えなくなるぞ」
「え?もうそんな時間です?」
「みたいですね」


色気なんてもんは一切ねぇ奴らだけど、お互いが隣にいる時は嬉しそうに笑ってるし幸せそうにしてんだよなぁ。本当に。
さっさとくっついて報告してくるか、もしくは自覚して相談しにくるか―――そのどっちかで俺を喜ばせてくれんの、待ってっからな?お2人さんよ。
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