花喃の思い


 side:花喃


たった2人っきり。私が家族と呼べるのはもう、双子の片割れである八戒だけだった。一応、姉と弟という立場にはなるのだけれど、あの子は小さい頃から聡明で、子供らしいというより―――境遇のせいか、周りの子達に比べれば大人びていたと思う。それに私よりも数倍しっかりしていて、あの子の方が兄であるような錯覚を何度したことだろうか。しっかりとしている、自慢の弟…だけど、いつだって自分のことより他人を優先してしまう優しいあの子が心配で堪らなかったの。

中学生になっても、高校生になっても、就職して社会人になっても、…八戒は浮いた話が1つもない。よくよく思い返してみれば、あの子の口から好きな人ができた、って話すら聞いたことがなかったのよね。周りの子達が彼氏や彼女を作っていく中で、八戒はそんなもの興味がない、と言いたげな瞳をしていたのを、よく覚えている。
そういえば三蔵くんや悟浄くんに「色恋沙汰には首を突っ込まない、って言ってた」って聞いたこともあったわね…大げさな溜息をついたわよ、思わず。


この子はずっと、自分の幸せを考えずに、求めずに生きていくのだろうかと危惧していたのだけれど―――…


「良かったわ、本当に」
「花喃…」
「梨花ちゃん、八戒のこと…お願いね?」
「は、はい!もちろんですっ!」


つき合うことになった彼女だ、と紹介されたのは、茶飲み友達となっていた梨花ちゃんだった。何度か会ううちにこんな子が八戒の彼女だったらいいのに、と思っていたのだけれど、まさか本当にそうなってくれるとは思わなかったわ。
カップに口をつけながら、仲良さそうに話をしている2人を見て自然と頬が緩む。ああ、本当に嬉しい…八戒がこんなに嬉しそうに笑ってるのは、初めて見るもの。きっとこんな風に笑えるようになったのも、梨花ちゃんのおかげね。
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