今更ながらの自己紹介


USBを忘れたこと。USBを拾ってもらったこと。
今思えば不思議すぎる縁なのかもしれないけど、それがきっかけで私達はちょっとした会話をするようになったんだ。例えば貸出、例えば返却―――それから、図書館に来た時も挨拶を交わすようになったり。
最初の頃に比べたら大分話すようになったんじゃないかなぁ、って自分でも思う。それまでは本当に必要最低限の会話だけだったからねぇ。
ただそれだけなのに、妙にウキウキしちゃってるのはどうしてなんだろ…今までこんなことなかったんだけどなぁ。ああ…そうだ。見慣れているはずの笑顔を見た、あの日からだ。あの司書さんのことが気になるようになったのは。





「梨花っ今日暇?!」
「うん、暇だけど…何よ、悟空」
「悪いんだけどさ、勉強教えてくんねぇ?テストで引っかかりそうなんだよ!」
「アンタねぇ…」


だからちゃんと勉強しなさいよ、って忠告しておいたのに。溜息交じりにそう返すとしゅん、としてしまうのは昔から。そしてその表情に弱いっていうのも昔から…何ていうかさ、放っておけないんだよねぇ悟空って。幼なじみだから、というよりは、悟空の性格が関係しているんだろうなぁとぼんやりと思っていた。

ま、これで断って補習になりましたーとか聞くのも嫌だし、別段予定があるわけでもないし…教えてあげるとしましょうか。タダっていうのは何だから、甘いもの奢ってよねと笑って答えれば、もちろん!さんきゅーなってあのキラキラ笑顔を向けられた。
まぁ毒気抜かれるよね、当然のことながら。悟空が人気なのはこの笑顔なんでしょうねぇ…あの人の笑顔とは全く違うけど。


「つーか、どうしてテスト前日に言うのかね?」
「う、…だって梨花忙しそうだったじゃんかよ…」
「あったりまえでしょ?!こっちだってテスト前だっつの」
「だから悪かったってば!」
「全くもう、…あれ?」


家までの道のりを歩いていると、前方から知っている人が歩いてきた。図書館の司書さんだ、多分。
隣を歩いてる赤髪の派手なおにーさんは知らないけど。


「どうしたんだよ梨花、…って、悟浄と八戒?」
「おや、悟空じゃないですか。…あ、貴方、」
「ええっと…こんにちは」
「こんにちは。悟空と知り合いだったんですね」
「なになに?小猿ちゃんってばいっちょまえに彼女できたのか?」


赤髪のおにーさんの言葉に違います!ってぶんぶん首を横に振る。幼なじみで、大学の同級生なんですってあたふたと答えると、目の前に立つおにーさん2人はぷっと吹き出して大笑い。
…うん、私も我ながらすごい慌てっぷりだなぁって思いましたけどね?そこまで笑わなくてもいいんじゃないかと思うんですけど?!つーか、悟空まで笑い転げてるのが一番解せないんですけどね、私としては。

何とか笑いが止まったらしい3人と共に、駅前の喫茶店でお茶をすることになりました。
おい悟空、お前テスト勉強はどうしたって言いたくなったけど、このまま司書さんとさようならをしてしまうのはもったいない―――そう思ってしまった私は、赤髪のおにーさんのお誘いにまんまと乗ってしまったのだ。


「へぇ、じゃあ梨花ちゃんは悟空ん家の隣に住んでんだ?」
「はい、小さい頃から一緒なんです」
「なんだ、意外と近くに住んでいたんですね」


司書さん―――もとい、八戒さんと悟浄さんは私達が住むマンションに住んでいるらしい、階は違うけど。
わぁお、それは初めて知った事実…!そういうプライベートの話って今までほとんどしなかったから当然と言えば当然なんだけども、今まで一度も会うことなかったなぁ。いや、会ってはいたけど挨拶をしてなかっただけか?階が違うとご近所付き合いもしないしね。

あ、悟空と知り合いなのは彼の養父である三蔵さんが関係してるんだって。三蔵さんと八戒さんと悟浄さんは同級生で、今でもたまに会ってるから交流があるみたいだね。


「わー…そんなにも接点があったのに、一度もマンションで会ったことないのって不思議」
「悟浄は夜の仕事していますし、僕も図書館に勤めているので普通の会社員より出勤時間が遅めですから」
「梨花ちゃんと悟空は5階で、俺達3階だからさ。そうそう会うことはねーよ」
「そんなもんですか…」


溶け始めたアイスを一口、また一口頬張りながら楽しそうに話す3人の会話をじっと聞いている。入り込めないのは百も承知のことなんだけど、それが淋しいというか…何だろ、八戒さんともっとお話してみたいなぁって思っちゃうんだよね。このまま3人の話を聞いてるのもすごく楽しいんだけどさ。

ズズーッとココアを飲んでいると、それまで笑顔で大学生活のことを2人に話していた悟空が「あっ!」とでっかい声を出して立ち上がった。
はあ…ここ、お店の中なんだからもう少し静かにしてくれないかなぁ?ほら、店員さんもお客さんもびっくりした顔でこっち見てるじゃないの。とりあえず座んなさい、と立ち上がったまま微動だにしない悟空を無理矢理座らせる。
それから何かあった?と聞いてみると、勢い良くこっちを向いて「テスト!」って一言。……ようやく気がついたんかい、このバカ猿。


「やっべ忘れてた!どうしよ梨花!!!」
「忘れて悟浄さんのお誘いに乗ったアンタが悪い。徹夜でもしたら?」
「1人で?!無理に決まってんじゃん!!なぁ梨花〜助けてっ!」
「…どうかしたんですか?悟空」
「明日、テストなんです。その科目が悟空の苦手なやつで…」
「あれ?もしかして俺、誘ったタイミングマズかった?」
「悟浄さんのせいじゃないです、頭から抜け落ちちゃった悟空の自業自得」


でもそれは私も一緒か。勉強教えてあげる、って約束したし、八戒さんともう少しお話してみたかったけど今日はもう帰るしかないかな。私も自分のテスト勉強しなくちゃいけないし。
教えてあげるから悟空、帰るよって声をかけると、バタバタと帰る準備を始めた。それを横目で見ながら2人にバタバタしてすみません、と頭を下げると、大丈夫って笑ってくれてちょっとだけホッとする。
じゃあ帰ります、ってお金を置いて立ち上がった所で、八戒さんに引き止められちゃいました。


「僕で良ければ…勉強教えましょうか?」


それは何とも言えぬ、魅力的なお誘い。
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