6月15日


 こぽこぽと水の沸く音が響く。窓の外では雨音がうるさい。
 昨日とうって変わって、今日は朝から雨が降っていた。シュウは体調が優れないらしく、朝食だけでなく、昼食もあまり食べなかった。

「お前、最近体動かしてるか?」
「お前がいないときに……」

 昨日買ってきたアルコール燃料を使って、久しぶりにサイフォンでコーヒーを淹れている。カフェのバイトをやっていたのはもう何年も前のことだが、手を動かしてみると案外覚えているものだ。

「オレ、多分夜まで帰ってこねえけど」
「今日は寝てる」
「晩飯、適当に食っとけよ。カレーも冷蔵庫にあるし、外で食ってもいいし」
「んー……」

 気のない返事だ。バンド練習の後は大抵全員で食事をするので、おそらく今日の帰宅はそれなりに遅い。平日ほどではないだろうが。

「コーヒー入ったぞ」
「ん」
「お前さあ」

 マグカップにコーヒーを注ぎながら、立ち上る白い湯気を見るともなく見た。

「アダムとかイヴに連絡したか?」

 シュウはのろのろとちゃぶ台に肘をついてから、億劫そうに首を横に振った。

「してやれよ、休暇だって。喜ぶだろ」
「喜ばせたいんだ、ロムは」
「いや、そういうことじゃなく……」
「しない」

 拒む言葉に不似合いな、薄い微笑を浮かべる。

「言いたいなら言ってもいいけど、俺は言わない」
「なんでオレから言うんだよ」
「喜ばせたいのはお前だろ」
「だからそうじゃないって」

 噛み合わない会話に苛々してきた。アダムとイヴも喜ぶだろうというだけで、本質的な問題はそこではない。ただ、シュウが一人きりで暇を持て余しているだろうと思っただけだ。

「せっかく休暇なんだから、昔の仲間に会うのもいいじゃねえか。ここにいたってヒマなだけだろ」
「……」

 二つのマグカップが並んでいる。白の大きいほうと、少し小さい紺色のほう。
 シュウは紺色のマグカップを手に取った。

「――お前ができるのは、俺を追い出すか、置いておくか、どちらかだけだよ」

 ふ、と息を吐いて、白い湯気が揺れる。

「どっちでも、俺は好きにする。やりたいことしかやらない」
「……ああ、そうかよ」

 つい顔をしかめた。徒労感と、曖昧な後味の悪さがある。踏み込みすぎたばつの悪さと、言いたいことを正しく伝えられなかったもどかしさ。まだ熱いコーヒーで流し込んで、それ以上の言葉は、すべて飲み込んだ。