6月17日
「348サウンドルになります。ポイントカードやアプリはお持ちですか?」
「いや……」
ふ、と。
音が耳に触れた。コンビニの店内にかかる、普段なら気にも留めないCS放送。きらきらしい装飾音に導かれた、甘く、よく通る声。
「現金で」
「はい」
思考を持っていかれたのは一瞬で、すぐに現実が戻ってくる。釣銭を受け取り、缶コーヒーとガムを掴んで、店を出た。
普段は、できるだけ意識しないようにしている。けれど時々、どうにもフィルターの調節が上手くいかなくなるタイミングがあって、そういうときは向こうから視界の中に飛び込んでくる。駅に貼られたポスターや、電車の中で流れるCM。通りすがる誰かの雑談。スクランブル交差点の巨大なモニター。
金色の髪をしたトップアイドルが、七色の輝きを纏って美しく微笑む。
「……嘘くせー」
零れた悪態ごと、買ったばかりのガムを口の中に放り込んだ。
過ぎていく通行人の三人に一人はモニターを見上げ、そのうち二人に一人はぱっと表情を明るくする。照明とCGに彩られた魔法でも、確かに誰かの希望になるんだろう。そこに実像がなくとも。
「休暇ねェ……」
シュウはたぶん、今日も、オレの部屋にいる。
それでもシュウ☆ゾーは変わりなく、今日もMIDICITYの頂点に君臨している。
――余計なことを考えそうになって、寄りかかっていた壁にゴンと頭を打ち付けた。
「ひえっ」
通りすがりのオッサンをビビらせてしまったのは申し訳ない。しかし気にする余裕もなく、がりがりと頭を掻いて腹の底から呻き声をあげる。
「あ゛ー……クソ」
胃の奥がむかむかした。腹立ちまぎれにガムを飲み込んで、新しいものを取り出す。思い切り噛み砕いても気が晴れるわけではないが、爽やかなミントの甘みはそれなりに思考を切り替えてくれた。
本日の外回りはあと三件。終わり次第直帰して良い、と上司からは申し渡されている。