6月23日


「あ」

 出し抜けにシュウが声を上げた。オレはゴミ袋を持ち上げて、今まさに家を出ようとしたところだったのだが、つい足を止めて背後を振り返ってしまった。

「……今日、ちょっと空ける」

 シュウの目は携帯端末の画面を睨んでいる。合わないままの視線に微かな軋みを感じながら、「ああ」と頷いた。
 現在、シュウは休暇中だ。しかし「何かあったときは対応する」とも言っていたから、とうとう「何か」が起きたのだろう。口を挟んでいいようには思えなかったので、オレは曖昧に出がけの挨拶をやり直して出勤した。耳慣れない着信音が、閉じかけた扉の隙間からわずかに聞こえた。

「――ただいま」

 帰宅しても、シュウはまだ帰っていないようだった。
 部屋の電気は消えていて、そういえば暗い部屋に帰るのは久しぶりだ。窓を閉め切っているせいか、どことなく空気が澱んでいる。
 残業がそこそこで済んだので、今日は何となく焼きそばの材料を買ってきたのだが、どうも料理をする気力が萎えてしまった。

「ま、いいか……」

 せめて野菜と肉を冷蔵庫に突っ込み、諦めて湯を沸かす。ヤカンをセットしてから、換気扇を回して部屋の窓を開けた。ついでに扇風機もつける。

「あちーな」

 ぬるい湯のような空気が少しずつ入れ替わり、いくぶんか呼吸が楽になる。そういえば、この部屋の夏は、こんなふうだった。
 もうずっと、こんなふうに過ごしてきたはずだ。

「……アイツ、メシ食ったかな」

 窓の外では、夜景とも呼べないような街明かりが瞬いている。高層ビルの光は住宅地を越えてずっと遠い。
 帰ってくるだろうか、と思って、それも少し違う気がした。
 シュウは、いま帰っている。
 本当にまたやって来るだろうか。それともこのまま、まるで何もなかったみたいに、元に戻るのだろうか。いやだな、と少し思ったけれど、それが当然のような気もする。どちらにしろ、オレになすすべがあるわけではない。

 窓を開けたまま、薄いカーテンをきっちりと閉めた。部屋の明るさに、そろそろ目が慣れてきたところだ。