6月24日


 シュウは今日もいない。

 考えてみれば、勝手にやってきて居座っていた男がいなくなったのだから、清々したといってもいいはずだ。実際、昨日の夜は寝やすかった。朝、目が覚めても一人きりで、コーヒーを淹れるのも一杯分でいい。駅の広告や街角のポスターが目に付くのには閉口したが、それだって三日もすれば慣れるだろう。

 もともと、オレの生活にシュウはいない。

 好き勝手されたことに苛立ちは覚えても、そういう奴だという諦めもあった。急に現れて、人を振り回して、何も言わずに居なくなる。なんだ、ちっとも変わっていない。

「は、しょうがねえなあ」

 もう少し腹が立つかと思ったが、暗い部屋を前にして漏れたのは単なる苦笑だった。
 同時に、ドアを開けるまで抱えていた緊張のようなものがすとんと抜けて、はは、と笑い声に似た空気が零れる。
 室内に上がって、明かりをつけた。
 いつもの自室だ。何も変わりない。でも、少し広くなった気がする。

「あー……情けねえ」

 がっかりしている、というのが、多分一番正確な表現だった。
 それはつまり、今までは浮かれていた、ということだ。もちろん、自覚はある。自覚があるから、できるだけ表情や態度に出さないように心がけていた。その甲斐あってか、シュウはこの部屋で、ずいぶんリラックスして過ごしているように見えたが、実際のところはわからない。他人の内心など量りようもない。自分の気持ちだって、それほどよく理解しているわけではないのだから。
 だから、やるべきことは今日も、

「――メシ食って、フロ浴びて、寝る!」

 暑さに荷物と化していたジャケットを畳に叩きつけ、勢いよく宣言した。
 こういうのはノリが大事だ。現実のやるべきことに向き合えば、些細な落ち込みや悩みなどどうでもよくなる。腹が満ちれば大抵のことは許せるし、汗を流せば夜はぐっすり眠れる。
 さいわい、冷蔵庫には焼きそばの材料が二人前あった。残念ながら、ビールはない。でも、冷えた麦茶はたっぷりあるだろう。

 明日も仕事に行くためには、それで十分だった。