6月25日
最初に感じたのは、匂い。
花のように甘い、けれどもう少し気取ったような作意のある、知らない匂い。
薄く目を開けると、視界はうっすらと明るくなっていた。早朝の日差しがカーテンの隙間から入り込んで、畳の上を真っすぐに照らしている。
「……」
空気は涼しいが、日の光はすでに暑さの気配を連れていた。それとはまた別の、もっと質量のある熱が、腕の中に納まっている。
「…………………………………………………………おい、暑い」
目を閉じて奥歯を噛み締めた。眉間にぎゅっと皺を寄せた。結果的に絞り出した声が掠れていたのは、仕方のないことだと思ってほしい。
額を掴むようにして無遠慮な侵入者を引きはがす。
「ん゛ん゛」
明らかに苛立った、むずがるような声だった。しかし宥めてやるような余裕はコッチにだってない。安堵して喜べばいいのか、心配させやがってと怒ればいいのか、考えすぎた自分を笑えばいいのか。口元がぐずりと歪んで、悔しさに低く唸る。
「暑いんだよ! お前の布団はあっち!」
「めんどくさい」
「じゃあ畳で寝てろ!」
シュウを布団から押し出しながら、顎を上げて目覚まし時計を確認した。起床時間の、およそ30分前。二度寝するにはちょっと心許ない。
「やだ」
もぞもぞと這い戻ろうとするシュウに溜息を吐き、オレのほうが布団を出た。こういうときは、いっそ活動を始めてしまったほうがいい。
「あっ」
「もう起きる」
「ええー」
不満そうな声を無視して立ち上がると、シュウはすっかり布団に戻って、手持無沙汰に枕を抱き込んでいた。むっと歪めた口があけすけに感情を示している。重たげな瞼を見る限り、多分、まだ眠いのだろう。
「お前、何時にきたんだ?」
「さあ。まだ夜は明けてなかったと思うけど」
「ハ、ご苦労なことで」
「うん」
あっさりシュウが頷いたものだから、つい言葉に詰まって、見つめてしまった。
「昨日帰るつもりだったんだけど、思ったよりかかったから、寝てなくて……」
「寝てない?」
「だから、寝る……」
「お、おう……」
言うなりシュウは背中を丸め、抱き込んだ枕に顔を埋めるようにして動かなくなった。何も言えないまま眺めていると、そのうちに、ごく静かな寝息が聞こえてきた。
「……帰ってきたのか」
単純な復唱にも関わらず、腹の底にじわりと熱が広がる。ゆるゆると上昇して、やがて頬がわずかに熱くなるのを感じた。
あつい、と、おもう。
「……」
シュウは静かに眠っている。
その寝顔に向けて、おかえり、と唇だけで呟いた。声に出す勇気は、まだ無い。