6月30日


 MIDICITYの空は狭い。
 高低さまざまなビルに囲まれた空は、青というには白けている。水色の薄いグラデーションに、細く飛行機雲がかかっていた。
 飽きもせず、暑い。これから続く長い夏のことを思うとうんざりする。外回りの多い営業マンには酷な季節だ。こうして合間合間に水分補給でもしなければ、やってられない。

「隣、いいかい?」
「……げっ」

 カウンター席に座るのにわざわざ声を掛けるなんて、珍しいことだと顔を上げた。覚えのある薄緑色の目に、思わず声が出た。

「失敬だね。席を変えたほうが?」
「あー、いや、ドーゾ」
「ではお言葉に甘えて」

 妙に気障ったらしい仕草は、チェーンのコーヒーショップでは正直浮いている。しかし、勉強している学生も、パソコンを開いているサラリーマンもみな目の前のことで手いっぱいで、誰もオレたちに目を向けることなどない。

「ウチの彼が世話になっているね」
「……何もしてねえけど」
「ほう。キミは迷惑しているかと思ったが」
「別に。すっかり大人しいもんだ。働かせすぎじゃねえの」
「おや……」

 つい、ストローを噛む。横目に見ると、壮年の男は唐突に破顔した。

「心配しているのかい? 彼を、キミが?」
「しちゃ悪いのか?」
「いやいや。ただキミは、思うところがあるのかと……ほおう」

 勝手に納得しているらしい男に、自分の眉間が皺を増やしていくのがわかる。

「それにしても、他社の代表にその態度とは。キミ、本当に営業マンかね?」
「…………いまは休憩中だ」
「どちらかというとサボりに見えるが」
「そういうアンタは暇潰しか? 代表ってのはずいぶんお気楽だな」
「無論、仕事だとも。しかし」

 男はストローでアイスコーヒーを啜ると、芝居がかった素振りで長い脚を組み替えた。

「彼と私はビジネスパートナーだが、確かに、私とキミは何の関係もないな」

 さわりと不快感を刺激される。押し込めるように、グラスに残った氷を流し込んで噛み砕いた。

「なに、報告だけではつまらなくなってネ。ちょっと自分の目で確かめたくなったのさ」
「迷惑なことで」
「嫌われたものだ。そういうことなら、むしろ歓迎するが」
「あ?」
「励みたまえ若人」

 ぱちんとウインクを寄越されて、肩透かしと共にげんなりする。オッサンに愛嬌を振りまかれてもあまり嬉しくはない。

「つーか」
「うん?」
「あれ、アンタのとこのヤツか」
「ああ。何度か会ったそうだね? 悪いとは思ったのだが、さすがにセキュリティがねえ……」
「ボロ屋で悪かったな。煙草代だしてやれよ、経費で」
「下がらせろとは言わないのかい」
「どーせ、あと一週間だろ」
「さあ、それはどうだか」

 男は肩をすくめると、やって来たときと同じくらい唐突に立ち上がった。

「そろそろ失礼しよう。では、いずれまた」

 長身を翻し、つむじ風のように去っていく。二度とごめんだと吐き捨てる隙もなく、オレは取り残されてみじめにストローを噛んだ。わずかばかりの氷は、もうすっかり溶けてしまった。