6月9日
「おかえり」
玄関のドアを開けて、耳慣れない言葉にぱっと顔を上げた。明かりの点いた部屋の中で、シュウが畳にごろりと寝転がっている。
「ただいま、……って、どうした。頭」
「目立つから染めた」
一目でわかるほどの、違和感。明るい金髪が、獣耳や尾に馴染ませたような、淡い茶髪になっている。ミルクが多めのカフェオレとか、ミルクティーとか、そういう感じの色だ。
「いいのか? 勝手に染めて」
「このくらいなら、すぐに戻せる」
「フーン」
当人がいいというなら、いいんだろう。
そういえば、服装も見覚えのない服に替わっている。押しかけてきた日に着ていた服でもないので、外出して買ってきたのだろうか。
「似合う?」
スーツを脱ぎながら見下ろすと、シュウは面白がるような目でオレを見上げていた。
見慣れない髪の色だが、奇抜な色という訳でもない。似合うか、似合わないかで言えば、
「……多分、似合ってる?」
「多分?」
「見慣れねえんだよ! やっと金髪に慣れたとこだってのに」
「へー」
あ。と、思ったが遅かった。
シュウは畳に寝ころんだまま、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべている。
「黒のほうがよかった?」
「言ってねーよ。好きにしろ」
「まあ、お前の好みとかどうでもいいけど」
「言ってねーんだよ! 何でそーゆー話になる!?」
「アハハ」
「あははじゃねえ!」
どういう神経してるんだコイツ。それとも、何も考えちゃいないのか?
シュウは昔よりも笑うようになった。同時に、昔以上に天邪鬼で、ややこしい絡み方をするようにもなった。
八つ当たりでネクタイを放り投げる。上手いことハンガーに引っかかり、気分が単純に上向いた。
「髪はともかく、そのシャツは似合ってるぜ」
シュウが着ているのは、仕立ての良さそうなブルーグレーのシャツだ。もともとスタイルのいい男だから、シンプルな服がよく似合う。
素直に褒めるつもりで口にしたのに、シュウは今度こそあからさまに顔をしかめた。
「別に聞いてない」
「褒めたら褒めたで機嫌悪くなるのかよ、めんどくせえな」
「お前は似合ってないよ、スーツ」
「だろうな」
自分でも似合う気はしない。着慣れた、とは思う。
「いて」
尻尾で脛を叩かれた。言うほど痛くはないが、つい、口をついた。