6月10日


 シュウの起床時間が、少しずつ早くなってきた。今朝はオレがシリアルを食べ終わった辺りで起きてきたので、コーヒーを二杯淹れた。

「メシは?」
「いい」

 眠そうではある。そういえば、決して朝に強い男ではなかった。
 もうすっかり忘れた気でいたのに、この数日、昔の記憶がやたらと思い返される。思い出などという上等なものではなくて、もっと些末で、どうでもいい――役に立たないものばかりだ。覚えていることさえ自覚していなかったような。

「そういやお前、シリアル嫌いだったな」

 ふとシュウが目線を上げた。それまでは、黙ってコーヒーの液面を見ていた。

「別に、嫌いじゃない」
「嘘つけ。ウチに泊まったとき、絶対手ェつけなかっただろ」
「俺はもともと朝は食べない」
「トーストとかメシのときは食ってたじゃねえか」
「気分」
「気が乗らねえのをキライっつーんだよ……」

 言いながら、喉の奥がくすぐったくなる。笑うような気配が滲んでしまったのだろう。シュウにじろりと睨まれた。

「時間は?」
「まだ急ぐほどじゃねえ」

 余裕綽々でもないが、コーヒーを飲み干すくらいの暇はあった。マグカップを持ち上げ、まだ少し熱い液体を啜る。
 鼻先を掠めた香りに、今日三つ目の〈どうでもいいこと〉を思い出した。

「しまいっぱなしだ。サイフォン」
「は?」
「昔、マスターにもらったんだよ。すっかり忘れてた」

 多分、捨ててはいない。引っ越しの時に迷って、結局持ってきたような覚えがある。

「今度探すか……」

 どこにしまったっけ。視線を巡らせながらコーヒーを味わっていると、ほどなく出勤時間を知らせるアラームが鳴った。

「やべ。行ってくる」
「……いってらっしゃい」

 ひら、と白い手が揺れる。その何でもない仕草を、嬉しいと思えた。