6月13日


 ずしり、と太腿に重みがかかる。携帯端末から顔を上げると、寝転がったシュウがオレの脚に頭を乗せていた。

「おい。重……」
「硬いし、お相子」

 なーにがお相子だ、と思うが、つい黙ってしまった。シュウがこうやって身を寄せてくるのは珍しい。
 いや、珍しかった。つい、二三日前までは。

 先日、深夜に帰宅してから、少しばかりシュウの挙動がおかしい。
 思い当たるような会話も事件もなかったが、どうしてか小さな接触の回数が増えた。寄りかかられたり、尻尾ではたかれたり、体の一部をこうしてくっつけたり。
 別に不快ではないのだが、こういうスキンシップはむしろシュウのほうが嫌っていたはずだから、どうにも調子が狂う。

「なあ、ヒマなのか?」
「うん」
「好きなCDかけていいぞ」
「気が向いたら、そのうち」
「遊びに行ってもいいし」
「一人で?」
「ダチとか……」
「お前が行くなら行く」
「あ? ……オレ?」

 思いがけない言葉に、メッセージを打ち込んでいた手を止めた。
 シュウはごろりと寝返りを打ってうつ伏せると、床に頬杖をついてオレを見上げた。
 明るい緑の目。宝石みたいに底が光って、見透かされるような心地にどきりとする。

「正直、持て余してる。寝るのもそろそろ飽きてきた」
「おー。まあ、滅茶苦茶寝てたもんな」
「この部屋は漁っても面白いものないし……」
「は? 何やってんだお前」
「サイフォン見つけたから、鍋とか入れてる棚にしまっといたよ」
「リアルに何やってんだ????」

 エロ本の一つもないんだな、と言われてとうとう頭を抱えた。

「ダウンロード派?」
「気軽に! 家探しを! するな!」
「他人を部屋に上げて放置しとくの、ちょっと不用心すぎるんじゃない?」
「……」

 確かに軽率だったかもしれないが、犯人に責められるのも納得がいかない。
 シュウはくすくすと笑っている。ふさふさの尻尾が、ゆっくり左右に揺れていた。

「追い出す?」
「……別に、見られて困るようなモンはねえけどよ。やるな。常識的に考えて」
「追い出さないんだ」
「追い出されてえのかよ」
「……いいや? 他に行くアテもないし」

 嘘つけ。
 行くところなんて、いくらでもあるだろう。咄嗟に歯噛みしたが、けれどそれを口に出す気にもなれなかった。

「いたきゃいろ。……出てくときは連絡しろ」
「ふふ」

 シュウはまたころりと仰向けになると、オレの脚に頭を乗せ直した。
 何だか振り出しに戻っただけのような気がする。どっと疲れて、とりあえず早く寝たいと思った。