嫌になる程堕ちていく


「サンジの作る料理は本当に美味しいよなぁ」

そう言って、おれの目の前で口いっぱいにおれの作ったケーキを幸せそうに頬張るクラスメイトであり友人である優也。そんなこいつの姿を見ながら飲む缶コーヒーは、普段より少しだけ甘く感じてしまうのはいつものことだった。砂糖もミルクも入っていないブラックなのに甘く感じるのは何故なのか。そんな答えは既に自覚している為、おれは悔しながらも残りのコーヒーを全て飲み干した。

「けど悪いなぁ、なんか俺サンジにいつも貰ってばっかで…」
「別に気にすんじゃねェよ。だいたいはナミさんやロビンちゃんの為に作ったやつの余りだ」

これはもちろん本当のことなので、優也が気にする様なことは1つもない。……まあ、わざと余りを出してるってことは絶対こいつには言えねェが。
それに例え余りが出たとしても、レディの為に作った料理を頼まれてもいねェのにその辺の野郎にあげるだなんて言語道断。それを優也にだけあげている時点で俺がこいつに抱いている感情は明確で、気付いた時にはもうおれはこの恋を認めざる終えなかった。
恋はいつでもハリケーンだが、まさかこのおれが野郎に恋をするなんて誰も予想していなかっただろう。と言うか、誰でも無いおれ自身が1番驚いている。

……そして、そんな事をおれが思っているだなんて微塵も気付いていないであろう優也は、気付いた時にはおれが作ったケーキを既に食べ終えていた。

「サンジ、ごちそうさま!今回もめちゃくちゃ美味しかった」
「…おう。まあ、また気が向いたらレディ達のついでにやるよ」
「えっ、いいのか?俺サンジの料理なら何でも好きだからいつも凄い嬉しくて……ありがとな、サンジ!」
「っ、まあ、気長に待ってろ」
「よっしゃ!……あ、でも、俺サンジの料理食べ過ぎたら将来ヤバイかもしれないんだよなぁ…」
「ハ?……おいおい、おれを舐めんじゃねェぞ。健康もちゃんと考えて作ってるに決まってんだろーが」
「あっ、いや、そういう意味じゃなくて。サンジの料理っていつも凄い美味いから、俺いつかサンジの作った料理以外じゃ満足できなくなるんじゃないかと心配で……もしかしたらサンジがいなきゃ生きていけなくなっちゃうかもしれないじゃん?」

そう言って真剣に悩み出す優也に、俺は思わず持っていた空の缶コーヒーを手から滑らせ床に落とし、教室に高い音を鳴り響かす。それに反応して優也は床に転がった缶を拾い、飄々とした表情で「大丈夫か?」と言いながらおれに缶を渡してきた。

……なーにが「大丈夫か?」だ。このクソが、人の気も知らねェで何言ってやがる。

俺は己の顔が真っ赤に染まってるであろう事が自分でも分かり、溜めていた息を長く吐くのと同時に片手で自分の顔を抑えながら静かに俯く。「え、サンジ?どうした?」と空の缶を持ちながら戸惑いの声を上げているこいつは本当に何も分かっちゃいねェのだろう。

ああ、本当に頼むから、誰かこのクソど天然タラシをどうにかしてくれ。

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