悩みの種は優等生


今日の全ての授業が終わり、颯爽と帰る者もいれば級友と遊ぶ者、部活動に励む者と様々な過ごし方が出来る放課後。
そんな放課後にわざわざおれの元へ授業の質問をしに来る奴なんて、毎度のことながらそんなにいない。…まあ、先ずおれが放課後に空き教室でサボっている事を知っているやつが少ないからなんだけどね。
でも、そんな中でも1人だけおれの居場所を的確に見つけ、定期的に訪れる生徒が1人だけいる。毎回適当な空き教室を選んでるのにも関わらず、毎回あの子だけには見つかってしまうんだから本当にあの子には敵わない。

確か、今日はあの子の部活は定休日なはずだ。
そう思えばガラリとドアが開く音が教室に鳴り響く。

「あ、クザン先生みっけ」
「……やっぱりね」
「え?やっぱり?」

そう言って頭に疑問符を飛ばしながらも、開けた扉を律儀に閉めておれの元へ歩いてくるのは優等生の癖に厄介な生徒No. 1の優也。
理事長であるセンゴクさんや教頭であるおつるさんですらおれを探すのに手間取ってるって言うのに。本当、何でこの子はこの広い学校の中おれのいる場所が分かんのかね。

「…で、今日は一体何の用よ?勉強?世間話?それとも暇つぶし?」
「ちょっ、暇つぶしって!…と言っても、理由なんて考えてなかったんで何とも言えないですけど……あ、でも、良かったら次のテスト範囲のところで躓いてるところあるんで教えてくれませんか?」

ヘラリと、困ったように笑いながらそう言っておれが座っていた椅子に1番近い椅子に座り、筆記用具を準備している辺り真面目だなぁと思う。

同学年他学年はたまた教職員合わせ顔が広く、気づいたら人気者になっていた恐るべき人間たらしな神崎優也。個性豊かな生徒が揃いに揃ったこの学園の生徒や教職員と比べれば、
注目など集めない普通の生徒。そして学力や運動能力も比較的高く、部活動の成績も影ながら残している言わば優等生代表と言われてもおかしくない程の人間だ。
……そう、側から見れば優等生そのものなのだ。なのに、何故か老若男女善人悪人と全ての人に好かれるが故に問題児にも好かれ、さらに言えば一癖ある教師達をも虜にするもんだから厄介さはトップレベルを誇ると言う何とも恐ろしい生徒だったりもする。正直あの問題児として良く名の上がる麦わらのルフィやロロノア・ゾロ、はたまたユータス・キッドやトラファルガー・ローに好かれてるのには未だ驚いてしまうし、癖の強さは生徒にも負けないサカズキやドフラミンゴ、シャンクスなどの教職員ですらも虜にしている。
……そして、認めたくはないし正直頭を抱える程の事だが、地味におれもこの神崎優也の魅力に負けそうになっている1人でもある。
おれは出そうになったため息を押し殺し、呆れた顔で優也を見た。

「……あのね、学生なんだったら、放課後は理由もなく俺に会いに来るんじゃなくて友達と遊びに行きなさいよ。ま、勉強も大事だけどさ」
「えっ、……でも、俺こうやって放課後にクザン先生とダラダラ話すの好きなんですよ。……まあ、迷惑だったら控えますけど、」

まるで耳が垂れ下がり悲しそうな表情をする犬みたいにシュンとする優也。そんな優也を見てしまえば、さっき押し殺したため息は最も簡単に出てしまい、本当におれはこの子には敵わないと思ってしまう。

「お前さ、それわざと?」
「…?えっと、何がですか…?」

ああ、もう。頼むからもっと自分の厄介さを自覚してくれ。
おれは先程よりも長いため息をして、天を仰ぎこれからの職員生活に頭を悩ませるしかなかった。

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