ある海軍大佐の独り言

夢主side
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前世はブラック企業に数十年勤め、過労死と言う何とも悲惨な死に方をした俺。
前世の記憶なんて正直に言って「死んでしまう程に仕事をしていた」ぐらいの記憶しかないが、幽霊になって自分の死体を見た時は人間とは思えないぐらいのやつれ具合で思わず笑ってしまったのを今でも覚えている。あの時は鏡を見る時間さえなかったからなぁ。あれは人間を通り越して化け物だったとしみじみ思う。
そして「あー、俺遂に死んだんだなぁ」と思ったのも束の間、幽霊になった俺は光に包まれ成仏した……と、思いきや、俺はオギャアオギャアと産声を上げて何故か第二の人生のスタートを切っていた。

……いや、人生のゴールが来たと思ったら次は人生のスタートですか?ちょっと早すぎね?

そう思った俺は仕方ないと思う。それも前世記憶持ちと言う特典付き。
…まあ、そんなことを思っていてもスタートを切ってしまったのなら仕方なく、俺は静かに自分の人生のスタートを受け入れた。伊達に自殺願望無しでブラック企業に死ぬまで勤めていただけあって精神の強さはレベル100を既に超えている。

と言う訳で何やかんや第二の人生を過ごして早幾年。
俺は再び職につき、元気に働いている。

…が、それまでにはひじょーーに濃いイベントが山ほどあった。正直多すぎるため色々端折るが、先ずは生まれて直ぐに俺は気付く。

あ、ここ日本じゃねェな。

…と。いや、まあ確かに前世の記憶を持って生まれ変わる時点であり得ない事なので、日本じゃないと言う事は十分にあり得ることだ。けどまさか、“日本”では無くとも“世界”は一緒だと思っていた。そんな期待、生まれて直ぐに裏切られたが。
『海賊』『海軍』『王下七武海』『賞金稼ぎ』『海王類』『魚人』『天竜人』『悪魔の実』『偉大なる航路』その他様々な単語……俺の前世では普通の生活を送っていれば聞き慣れない単語。いや、少しだけ聞いたことのある単語もあった。それは『海賊』そして『悪魔の実』。これら2つを掛け合わせ出てくる答え、それは世界的に1番有名と言っても過言では無い漫画『ONE PIECE』の存在だ。俺は元々「1に仕事2に仕事、3、4も仕事、5も仕事」みたいな生活を送っていたのでその漫画を読んでいたかと言うと答えはもちろん「NO」一択である。だが、そんな俺でも一度は聞いたことある漫画。まぁ、本当に聞いたことあるぐらいなのでキャラクターなんて麦わら帽子を被った主人公ぐらいだが、それでも俺は理解してしまった訳で。

「ああ、俺、漫画の世界に転生しちゃったのか」

そう、まさかのまさかだ。まさか、この俺が異世界に転生するなんて思いもよらず、驚いたのは懐かしい思い出だ。まあ、別に漫画の内容も全く知らないので普通に生きていくだけだ。例えその漫画のキャラクターに関わったとしても俺は麦わら帽子の少年しか知らないので、活躍したキャラなのかさえもその少年以外知らん。それに異世界に転生してしまったと言う事が分かったところで、俺は前世はブラック企業に勤めて精神レベルは100超えですから(本日2度目)、普通に受け止めました。

そして異世界転生と言う事実を受け止め早10年。
俺には元々父親がいなかったのだが、何故だか生まれて10年目のある日いきなり父親だと現れる人物が現れ唐突に攫われる。もちろん、俺を1人で育ててくれた母親の許可なしに。それはそれは勢い良く掻っ攫われてしまったもんだから俺もポカーンだ。だが、俺は前世はブラック企業に勤めて精神レベ(以下略)なので、俺は別に慌てる事なく10年間父親と共に海を旅することとなった。話を聞けば、父親はある海賊の船長で息子と旅をするのが夢だったとか何とか。それで頃合いを見て俺を連れ出した、と言う訳だ。………え、いやいや俺の父親って海賊だったの??ってか船長ってガチじゃん??と衝撃の事実をポンポン言うもんだから俺の頭はオーバーヒート通り越してむしろ冷静。なぜなら、前世はブラック企業に勤め(以下略)。

と、言う訳で唐突の展開にも頑張ってついて行き、俺は戦闘の仕方や航海技術などなど新たなスキルをを身につけることとなる。それも運の良いことに前世のスキルも受け継がれたのか、ブラック企業に勤めていた事により俺の体力は自分でもドン引くほどに凄まじい事に気づく。戦闘訓練なんかは何時間やっても疲れがなく、成長スピードは自分でも思わず失笑してしまう程。…まぁ、前世では5徹が当たり前だったから?5徹に比べたら戦闘訓練数時間なんて……ねえ?航海技術も5徹に比べ(以下略)。ああ、それとそれまでに色々な海賊に厄介になったりしたのだが……それはまた別の話で。
そして10年で父親も満足したのか俺は10年ぶりに帰郷を果たした……が、もうこの時の母親は怖いぐらいに泣き叫び怒り狂っていた。父親は殴られたり蹴られたり罵倒されたりと……まあ、そりゃあ人攫いの様に息子を攫ったのだ。10年間お世話になったとして同情はしなかった。

そしてそんな母親は少しだけ病んでしまったのか、あることを俺にお願いしてきた。

「お願い、ロイドだけは海賊にならないで頂戴!!!貴方だけは海兵にでもなって私を安心させておくれ!!!」

……いや、貴方海賊の船長だと分かって父と結婚したのでは?と思ったのだが、後から聞いた話だと父は母に一目惚れしたが「海賊だってバレたら結婚してくれなさそうだったから内緒にしてお前孕ませて既成事実作っちった!(はーと)」と言っていて自分の父親のクズさに自分でもびっっっくりするほどドン引きした。いやクズすぎる。いっぺんブラック企業に入社して死んで生まれ変わった方が良い。
そしてそんな母親に俺が同情しない訳もなく、俺の海軍への就職が決定したのだった。

そしてあっという間に長い年月が経ち、海軍の養成校も無事そんな目立つ事なく卒業し(目立つと海兵になった後厄介な仕事回されそうなので)、晴れて海兵へ。……と思ったがまたここで一つ問題が。

そう、何を隠そうこの俺、前世はブラック企業を数十年続けたバリバリのサラリーマン!(冒頭で言った)
自分で言うのも何だが、“仕事”と言うものがめちゃくちゃに出来る男だった。が、正直なところ俺はあんな思い二度としたくなく、前世の反動なのか“残業”と言うものに酷い抵抗感が出来てしまった。それはもう残業という言葉を聞くだけで体温が2度下がり鳥肌が立ち、眉間にどんだけだと言わんばかりにシワが寄るほど。だが幸いな事に、仕事が尽きない海軍ではあったが前世の会社に比べればそれほど仕事量が多くも無いと言う何とも良い会社だった(当社比です)
だから俺は毎日配られる“ノルマ”を達成しては定時で帰ると言う新人海兵としては前代未聞の行為をし続けた。もちろん最初は上司に怒られたが、自分のノルマが終わった事を告げ「俺は残業がこの世で1番嫌いなんです!!!!」と大きな声で言って押し切ればいつも何とかなった。だって自分の分終わってるんだもの!良いよね?ね?
そりゃあ下っ端の時は大層嫌がらせは受けた。もちろん仕事量でな。俺だけ下っ端ではあり得ないほどの仕事量を受け持つことは数え切れないほどあったが、それでもブラック企業出身者の俺。意地と根性で終わらせ定時で帰り続けましたよ。余裕余裕。だって、5徹せずとも昼飯食べながら1日ぶっ続けでやればギリ終わるレベル。むしろ優しいぐらいだ。と、そんな事を数年続けていれば、上層部で俺の働きっぷりを見てくれた人がいたのかあれよあれよと大佐になり部下を持つ事になった。

そして俺はある決意をする。
もう2度と、俺みたいな輩を出すわけにはいかない。
そう心に誓った俺はある決まり事を自分の中で作った。

一つ、必ず部署全体で一斉に定時で帰ること(ただし残業を望む場合はその意見を尊重すること)
一つ、誰か1人でも定時で帰れない場合は皆で助けること
一つ、真面目な人が損をしない環境を作ること
一つ、仕事よりも何よりも部下の安全を優先し、責任を持って俺が部下を守ること
一つ、他人を尊重し自分の意見を押し付けず、去る者は追わないこと

この5つを俺は生涯守ろうと心に誓った。
前世の俺は言っちゃ悪いが上司に大層恵まれず、仕事ができない+仕事無限量産機と言う人だった。上司は1日のノルマと言うものを作らず無限に俺に仕事を与え続け、自分の仕事までを俺に押し付ける鬼畜っぷり。それを“普通”だと思って数十年、死んでやっと分かりましたよ。
あれ、普通じゃねェ。って。
だから俺はせめて自分の部下にはそう言う思いをさせぬ様、部下には大層甘い性格となった。つか、俺が頑なに定時帰りをするせいで他の部署よりも仕事を盛られているのだから、その分の仕事は俺がやるのが当たり前だと思う。それに俺の今世の部下は超が付くほど優秀な奴らばかりでもう俺感激したよね。与えた仕事は普通にできるし、上司も敬えて真面目で向上心もある。最高すぎでしょ??
そして申し訳ない事に俺は前世のこともあり、少し甘い人間だから。海軍連中には誰にも言ってはいないけど、10年間も父親と海賊船に乗ってたこともあるから。海賊でも良いやつがいるって事を知ってしまい嫌なやつじゃなかったら捕まえたくは無いと言う思考がある。むしろ海賊、海軍関係なく第三者からの目線で見て、海兵でもクズなやつはいるって事も知っている。だから俺は度々良い海賊は適当な言い訳をして捕縛せず、別の海賊を捕縛してノルマを埋める癖があるのだ。けどこんな思考他の奴らに押し付けてはならない。むしろ怒られて当たり前だ。だから俺は自分の思考を部下に押し付けず、俺に着いていけない奴らは直ぐ部署異動願い届けを出してくれて構わないと口酸っぱく言っている。……まあ、有難い事にまだ部下から部署異動願い届けをもらった事は一度も無いのだが。本当俺、部下に恵まれすぎてて泣いちゃう。

ま、なんやかんやこんな感じで今世では恵まれた環境で楽しく元気に仕事をしております!
ノルマ以上の仕事をしないのでここ数年は昇級の話も無いが、正直俺は向上心はそんなに無いのでもう今の階級で満足してる。むしろ昇級したら面倒臭い仕事増えそうだからしたく無いしね!戦闘もそんな好きじゃ無いし。
同期の友人も良い奴ばかりで内緒だけど海賊にもちらほら友人いるし、俺第二の人生意外と満喫してるわ……あ、でも直々の上司のサボり癖には頭を悩ませてる。だってあのクソ雉上司のサボった仕事がこっちに回ってくるんだもの。いや、なんやかんや良い人なのは理解してるがそれとこれとは話が別だ。本当どうにかしてくれ。真面目な人が損するとか、絶対ダメ。
あーあ、本当は1番まともそうでお茶仲間として仲の良いボルサリーノ大将に「クザンのところなんか辞めて、わっしの部下にならねェかい?」と誘われているのでそっちの部署に行きたいが、全力で俺の部下に止められるからしたくても出来ないんだよな。俺、部下に甘いから。
……と言うか、むしろサカズキ大将にも「わしのところに来い。クザンのところじゃお前の力量に合っとらんじゃろうが」と何故か誘われている。それも何故かボルサリーノ大将よりも長年誘われている。え、何で?いつも思ってるけど何で??俺サカズキ大将嫌いじゃないし、普通に尊敬してるけどさ?え、いやだって、あの人の掲げる正義は極端で俺が思う正義とは少し違うところもあるけど芯があって真っ直ぐでかっこいいじゃん?誰に何を言われようと己の正義を何よりも信じ貫く姿かっこいいじゃん??だから尊敬しているし、誘われている事自体は嬉しいけど、ぜっっったい残業多いじゃんサカズキ大将の部署。鍛錬という名の残業で俺の根性叩き直そうとしてるでしょ?俺絶対嫌だからね?そんなんで俺の残業嫌いが治る訳ないじゃん!?だってその残業で一度死んでるんだもの!!だから毎度丁重にお断りさせて頂いている。

うーん、そう考えるとクザン大将が1番関わり薄いけど、まあ良いか!あの人に関わって昇格しても面倒臭いし。
うん、まあ、こんな感じで俺は海軍大佐をしております。


ジリリリリリリ!!


おっ、今日もお決まりの定時コールだ。
さあ、今日も元気に定時帰りといきますか!!

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