ところ変わってリビング。ソファの前に座る私の目の前には、どこからか現れた着物の男と、テンガロンハットを紐で首にかけた半裸の男がローテーブルを挟んで座っている。
「世界が違うって、いったいどういう事だ?」
そう首を傾げるのは半裸の男だ。
場所を風呂場からリビングへと移した私達は、そこで幾つかのやりとりをしたのち、辿り着いた可能性と答えが、二人は今居るこの世界とは別のところから、何らかの拍子で来てしまったということだった。――何故か私の家に。
「どういう事かは俺もわかんねぇさ。だがグランドラインなら、そんな事があったって可笑しくねぇ」
「まぁ、そりゃそうだけどよ」
私からしたら、あまりにも突拍子もない話に、そんなまさか、とか半信半疑この上ないというのに、二人は既に納得してしまってる様子である。
――異世界からの訪問者とか、響きがホラーなんだけど。
職業、海賊。住所はグランドラインを走る船の上。スマホで表示させた世界地図を見ても、その絵に見覚えはなく、“日本”“JAPAN”“東京”という単語にも聞き覚えは無いらしい。それどころか、現代ではもはや当たり前となったスマホなどの携帯電話の事も知らなかったようで、地図の内容よりもまず先に食いつかれたのはそれだった。
嘘を着いているようには見えないし、なによりも二人の出で立ちが特殊である。
着物の男に関していえば、一見普通にも思えるが、今時こんな格好を普段着として切る人はごく少数だろう。浴衣を着ていたってならともかく、加えて化粧までしてるのだから。
どっかの舞台役者だと言われた方がしっくりくるほどの出で立ちの人物が、こんな夜中にその辺を歩いていたら間違いなく目立つだろう。
半裸の男に関しては……、なんというか……、何故半裸なのかというその一言に尽きる。
確かに季節は夏に突入したけど、だからといって上半身裸で出歩く人はそうそう居ないだろう。海ならともかく。山はあってもこの辺に海はないし、背中にデカデカと入れられた刺繍も相まって、こんな人が外を歩いていたらこちらも間違いなく目立つだろう。
感覚の違いがあるならば、もしかしたら外国人なのか、という可能性も浮上したけど、話す言語が流暢過ぎるほど流暢な日本語だ。
外国人だとしても、これほど日本語が話せるならば、それを覚えるうちにこちらの感覚も自然と身に付くものではないのだろうか。という、そんな考えに行き着いて、外国人のせんも違うようだと内心で首を振った。
「……まぁ、あの、……いまいちよくわかんないんですけど……、とりあえずお二人共行くとこが無いということで宜しいです?」
ああだこうだと考えたところで、私が理解出来る事など思いつかない。けど、つまるところ、二人の話を要約してしまえばそういう事だろう。
異世界からの来たのだかなんだか知らないが、どのみち意思に反して突然この家に来てしまったのなら、目的とする場所さえ無かったはずだし、見覚えが無いという地図も、それはすなわち今後目的となる場所も今現在では検討が出来ないという事。更に言えば、来ようとして来たわけじゃないから戻る方法もわからない。
些か強引でアバウトな考えだけど、勝手に話をまとめて進めてしまえば、行き着く先はそこだった。
私の発した言葉に、目の前の二人はなんとも形容しがたい気まずそうな表情で頷いて、次には思い詰めたような顔で黙りこんでしまった。
そりゃあね、戸惑いと不安でいっぱいだろうよ。
二人の言うことを全て鵜呑みにしたわけじゃない。全部を信じたわけじゃない。だけど、二人が纏う雰囲気は真剣そのもので、とうていふざけているようにも見えないのも事実だった。
もしそれが仮に演技だとしても、それはいったい何の為になるのだろうか? 詐欺をするにしたって、あまりにも突拍子が無さすぎる話では騙される人なんて居ないだろう事は、詐欺師が一番わかるはずだ。
「じゃあ、まぁ〜、とりあえず、……寝ません?」
静な室内で、黙る二人に向けてそう問えば、ピッタリなタイミングで、は? とこちらに目を向ける二人。それがちょっとだけ可笑しくて、僅かに口元が緩んでしまったけど、そのまま気にせずに話した。
「これからの事を考えるにしても、帰りかたを探すにしても、こんな時間じゃ出来る事なんて限られてます。だったら今日は一旦寝て、起きたら改めて考えましょうよ。――というか、私今日ここに引っ越して来たんてすけど、作業とか手続きとか色々あってもうくたくたなんです。ぶっちゃけ寝たいんです」
沈み出した雰囲気を一掃するべく、なるべく明るく言った。後半部分は隠せなかった本音である。うっかりそのまま途中で起こされた事に関してのささやかな恨み辛みも言いそうになって、慌てて口を閉じたのはここだけの秘密。
「……ああ、いや、俺達――」
「あ、帰り方が分かるのであれば今すぐ帰って頂いても構いませんよ? そうでないならこれ以上の話はもう私聞きませんし聞けません。布団……は、余ってるの1枚しか無いんでどうにか分けあって下さいね」
何かを言おうとした着物の男の言葉に、被せるようにして声を出し、有無を言わせないよう、そのまま立ち上がって寝室へと向かう。
クローゼットの前で積み上げられた数個のダンボールの傍らに、持ってきたまま放置していた圧縮袋に入れられた寝具類を掴み、ずるずると引きずって再びリビングへと戻る。
二人は相変わらず同じとこに座っていた。
ポカンともキョトンとも、どちらともとれるような顔でこちらを見る二人に、早くしろと溢れそうな本音を押し込めて、出来る限りの笑顔で問いかける。
「それで、帰るんですか? 寝るんですか? どっちです?」
数秒後、二人が互いに顔を見合わせてから出した答えは、寝る、というものだった。だけど若干、ビビられたような気がするのは気のせいだろうか。いや、気のせいだろう。なんたって相手は海賊らしいし。
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