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「俺はどうにもキミの事が掴めない。……さっきの話はどこまでが本当だ?」

 重くなった空気は、私だけが感じる錯覚だろうか。ナルト達はカカシ先生の発する言葉の意味がわからず、私とカカシ先生を見るだけで誰も何も言わない。
 風がだんだん、鬱陶しくなってきた。

 さっきの話、とは、レジャーシートの上でおこなった進路相談の事だろう。“どこまでが本当だ”だなんて、初めにカカシ先生をからかった嘘告白を引き合いにしての発言か。
 進路相談で話した事は私の本音だった。理解はされずとも、真面目に聞いてくれていたはず。

 全ては自分で撒いた種だ。わかってる。けどなんだか……。こういうのは面倒くさい。

 本音を話す最中に猫が奪って行った鈴。それを今手にしている私。
 カカシ先生的に、“それっぽい話しで油断させて猫に鈴を取らせた”事が、私の作戦だったんじゃないか、とでも思ってるんだろうか。
 猫と疎通が出来るとはいえ、やらせたわけじゃない。この子が勝手に頑張った事だ。とはいえ、止めなかった事が、そこに私の意思も含まれてるって思えなくもないけど。まさか猫に取られるなんて思ってなかったんだもの。私だってある意味油断してたわ。

 カカシ先生の探るような視線は尚も逸らされずに私へと向けられている。いちいち初めから説明するのは面倒だし、なにより野良猫と疎通出来るなんて信じないだろう。ていうか、それこそ口寄せ動物だなんだって思われるんだろうし、そしたらやっぱり猫を使って……ってなるだろう。

「先生。私早く帰りたいんです。話を戻しましょう」

「その前に俺の質問に答えてよ。すっごく気になるんだけど。」

 私の行動が掴めない。私の能力が掴めない。掴めないから、私の考えも読めない。
 きっと今カカシ先生の中で、私に対する情報がぐるぐると巡ってるのかもしれない。上忍として、任された部下を把握するのは大事な事だろうし、これから任務を共にしてくなら知っていて損は無い。
 だけどそんなの、私の知ったこっちゃない。

 私は忍を辞めるのだ。それなのにここで話が進まずに時間を消費するのは焦れったい。私にとって、この時間は無駄な事だ。

「じゃあ勝手に話を戻して、さらに進めさせて頂きますね。――今日の試験の答えはチームワーク。……とは言いながらも、奪うはずの鈴は人数よりも1つ足りない3つのみ。これじゃあ必ず1人は鈴を確保出来ずに試験は失格。……でしょ? サクラ。」

「え、……え、ええ。確かにそうね。」

 突然ふられた話に動揺しつつも、しっかり答えてくれたサクラ。今私が言ったのは、本来サクラが言うべきものだった。こんな事私がするのも面倒くさいけど、話を進めるには致し方ない。
 カカシ先生は相変わらず、私を探り続けてるけど、邪魔してこないのならその視線も今は耐えよう。

「誰が失格になるか、誰を失格にするか。せっかくアカデミーを卒業したのにまた戻されたんじゃたまったもんじゃないもんね。鈴の数が1人足りないのは、そんなみんなの気持ちに揺さぶりをかけて仲間割れをさせるよう、あえて仕組まれた罠。……あってます? カカシ先生。」

 まるで読んだかのようにスラスラ喋ってしまうのもどうかと思って、念の為確認するふりをしてカカシ先生へと視線を向けたが、先生は黙ったままコク、と一度頷いただけ。
 あわよくば続きを喋ってくれないかとも思ったけど。まぁ、いい。

「そんな仕組まれた試験内容の状況下でもなお、自分の利害に関係無く、チームワークを優先出来る者を選抜する事。それがこの試験の目的……だったんじゃないですか? カカシ先生」

「まるで全部知っていたみたいな口ぶりだね……。」

「……そろそろ先生の口から説明してくださいよ。先生としての立場からの言葉って貴重だと思いますよ。」

 ひやっとした。でも私の本当の事なんて知られるはず無い。ただ、班を受け持った上忍しか知らないであろう情報を私が知っていると思われるのは、妙な疑いをかけられない為にも避けたい。それ故に、このまま私が話し続けるのはちょっと危険だ。
 というか無理がある。試験で明るみに出た三人の欠点を告げるのも、慰霊碑についての話しも。
 それらは今、現時点で私が知らないはずの内容なんだから。

「ま、仕方ないね。――説明ありがとさん。怖いくらい完璧だったよ。」

「……そう、ですか。良かったです。」

 私としてはあなたの視線が怖かったです。

「ま。ナマエが今言ったように、俺はこの試験でチームワークを優先出来る者を見極めたかった。――それなのにお前らときたら……」

 漸く私から外れた視線に、小さく息をついた。気を和らげるべく猫へと顔を向けて、その愛らしい生き物を堪能する。眠くなってきたのか目は閉じられていたけど、撫でればゴロゴロと喉を鳴らして答えてくれた。

「サクラ……、お前は目の前のナルトじゃなく、どこに居るのかも分からないサスケの事ばかり。……ナルト! お前は1人で独走するだけ。サスケ! お前は他の者を足手まといだと決めつけ個人プレイ。」

 聞き覚えのあるカカシ先生の話に、なにはともあれ無事に話が進みそうで一安心だ。
 というか、私が喋ってた間もずっと、カカシ先生の下にはサスケが居たからね。押さえつけられたまんまなんだよ可愛そうでしょ?!

「ナマエ……。……お前については謎だらけだ。この演習が終わったらちょっと付き合え。」

「……は、」

 え、今なんて言った?

「任務は班で行う! 確かに忍者にとって卓越した個人技能は必要だ。が、それ以上に重要視されるのは“チームワーク”」

 待って待って待って! スルーしないでください。お願いします!――いや、聞き間違いかもしれない。きっとそうだ。この演習が終わったら? 即行で帰るわ。

「チームワークを乱す個人プレイは仲間を危機に落とし入れ、殺すことになる。……例えばだ……」

 言いながらゴソゴソとポーチに手を突っ込むカカシ先生は、クナイを出すと同時にそれをサスケへと向ける。

「サクラ! ナルトを殺せ!! さもないとサスケが死ぬぞ。」

 こうして実際目の当たりにすると、例えばなんて言いつつも演じて見せちゃうのって凄いと思う。しっかり迫力満点。
 驚きと困惑が3人にありありと見える。私だったら口頭説明で勘弁してくれって思うもん。
 なんて悠長に思ったのがいけなかったか。ほんの一瞬だったけど、カカシ先生から先程同様の視線を感じた。3人と一緒に驚くべきだったかもしれない。……でも無理だな。

「と……こうなる。人質を取られたあげく、無理な2択を迫られ殺される。任務は命がけの仕事ばかりだ。」

 そう言って、立ち上がるカカシ先生。漸くだ。漸くカカシ先生からサスケは開放されたのだ。長かったよね。きっと私のせいだわまじごめん。

「これを見ろ。この石に刻んである無数の名前……。これは全て里で“英雄”と呼ばれている忍者達だ。」

 そしてそして、漸く慰霊碑の話である。いや本当長かった。

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