04
あの後アカデミーに戻り、出た時と同じように窓から入ったら、それとタイミング同じくして医務室の戸が開いてイルカ先生がやって来た。
驚いたようにきょとん顔を見せたイルカ先生だったけど、すぐに心配するように歩み寄ってきた彼に、もう大丈夫ですと言えば、途端に安堵の表情を見せたイルカ先生。
そりゃアイスとりんごを持って窓から元気に入ったら、体調不慮なんてどこ行ったって感じになるわよね。
それからはお互い椅子に座り、私はアイスとりんごを食べながらイルカ先生はそんな私を見ながらも、説明会での大まかな内容を話し、その後私がどこの班に属するのかを教えてもらった。が。
ここでまさかの展開である。
いや、さっきカカシさんが私の部屋に来ていた事から察するべきだったのか、あろうことか私は、あのカカシさん率いる第七班に決まったらしい。何故だ。
第七班なんて、否が応でも物語の中心部じゃないか。何故だ。
前世の記憶を思い出してしまったことも、それはそれで厄介だけど、それに付随して自分が今どんな世界に居るのか分かってしまった事も厄介だった。だけどそれについては、単純に危険から遠ざかり、主要となる人物達からも距離を置いてしまえば巻き込まれる事もない。ほどほどに下忍やって、あの戦争が起こる頃にどこかにひっそりフェードアウトして隠れてしまえば良いだろう。物語の終着点は大円団で幕を閉じ、世界が最悪の展開になることは免れるのだから。
そう思っていた。だけどまさか、私まで第7班になろうとは……。これじゃあ、フェードアウトするタイミングを探す事から始めなきゃいけないではないか。
*****
「おい。さっき、随分酷そうだったが、体調はもういいのか?」
「あ、うん。大丈夫。」
「あのさ、あのさ。俺ってばびっくりしたってばよ。ナマエの顔、見たことないくらい真っ青だったぜ」
「ああ、うん。朝ご飯食べないで走ったから……。ごめんね、驚かせて」
そして私、あまり交友を深めずにアカデミー生活を過ごしてきたと思ったんだけど、何でか二人が親しげである。同じ班になったから? ナルトの場合それならそれで納得出来るけど、サスケの場合は違くない? もっとこう、ツンツンしてて他人に割れ関せず、っていう感じじゃなかったっけ? わざわざ気遣うように声かけてくるなんて、なんだか違和感……。
それとは別に、サクラに関しては時折こちらをチラチラ見つつも話しかけてくる事はない。けど、それはそれで、交友深めてなかったし、むしろ相応な反応だと思う。初めのころは声かけてくる子がいても本に没頭するふりして無視してたし。それで女子に反感買ってたとしても頷けるもんね。
ちなみに只今、カカシさん待ちである。イルカ先生の説明を聞き終え、そこから少しだけ話した後、イルカ先生は仕事があるらしく去っていき、私はそのまま医務室で時間を潰してから教えられた教室に向かったのだ。
それぞれの班につく上忍達が入れ替わり立ち替わりやって来て、自身の班を呼び、それに属するメンバー達と共に別の場所へと移動して行く中、ついには残るのは第七班だけとなっていたのだ。
いつまで経ってもこの場から動けず、いつ来るのかも分からない相手を待ち続けるっていうのは退屈だし、なによりイラつく。まぁ、最後のは私の場合だけど。待たされるのは嫌いなのだ。
だけど、待たされるだろうことが想定出来ていれば、それは些か減少される。
というより、もしもあの部屋を片付けてくれているのであればナルト達には申し訳無いけど、遅れてくる事に関して異論を唱えるつもりはない今日限定で。
そして、いよいよ痺れを切らしたらしいナルトが今まさに黒板消しを戸の上部に挟んだので、カカシさんが来るのはカウントしても良いくらいにはもうすぐだろう。
そうこう思っていれば本当にすぐで、何とも間抜けな音を立て黒板消しはカカシさんの頭頂部に落下した。
ほんの数時間前にそれとは比較にならない程度のトラップを見たはずなのに、子供騙しのような罠に引っ掛かったのは彼ゆえの優しさなのだろう。そう思うことにしとく。
「う〜ん、何て言うのかなぁ。お前らの第一印象は……ま、嫌いだ。」
カカシさんのそんな言葉に素直に沈むナルトとサクラ。そして分かりづらいがサスケもである。
カカシさんの言ったお前らには私も含まれてるんだろうな。本当にやって来たのか知らないけど、片付け押し付けてきたし。
その後、場所を屋上に移動して、ナルト、サスケ、サクラは中央付近の階段へ、それと対面するようにして離れた手刷りに寄りかかるカカシ先生。私はといえば、ナルト達三人から横に離れつつ、同じように階段の上にいる。座るんじゃなくカカシ先生と同様手刷りに寄りかかってるけど。
それからすぐに始まったのは自己紹介で、だけどもここで、少しの記憶違いが起こった。
始めはナルトの要望に応えてカカシさんから。
――ああ、カカシさんっていうよりこれからはカカシ先生って呼ばなきゃなのか。
カカシ先生の次はナルト、次にサクラ。ここまでは普通だった。
「名は、うちはサスケ。嫌いな物ならたくさんあるが、好きなものは別にない。……それから、夢なんて言葉で終わらす気はないが、野望はある。一族の復興と、ある男を必ず……見つける事だ。」
見つける、だけでいいのか? と、思わずサスケをガン見してしまった私に、サスケもこちらへと視線を向けていた。ガン見してしまった自覚が有るだけに、少々気まずくなってすぐに視線を反らしたけど、やっぱり可笑しくない? 復讐はどうしたよ。推薦するわけでもないけど、これだと話し変わりません?
「最後、お前な」
カカシ先生の言葉に、他の三人の視線もこちらへと向かってきた。とりあえず頭を切り替えて、自己紹介をするこにしたけど、これといって紹介するほどの事が特になにも思い浮かばなかった私は、気付けばカカシ先生と似たような事を口にしていた。
「改めて名乗らなくても皆さん知ってると思いますけど、名前は苗字ナマエ。好き嫌いは色々あるけど、夢や目標は現時点で模索中なのでありません。」
「お前ねぇ、それじゃあ名前以外分かんないじゃないの。……じゃあ、趣味は?」
カカシ先生、それ、ブーメランです。なんて言えるはずもなく、改めて何か言えるのはないかと考えた。
「趣味は、雑貨集め、でしょうか……。でも最近は大抵の物が揃ってきたし、読書って事にしといて下さい。」
「あれ、お前の部屋、雑貨なんてものあった?」
「あ、ありました。嫌いな物、というより嫌いな事ですが、」
「……ねぇ、ひとつ聞くけど、君って俺の事嫌いなの?」
さっきまで他の三人の自己紹介中は特に口を挟むことはしなかったカカシ先生が、何故だか私の時だけやたら喋る。部屋での一件で変に目をつけられてしまったのだろうか。
少しだけ取り繕った方がいいかな? そう思った私は、極力印象が良くなるようにニコリと笑顔を浮かべて先生へと向き合った。
「遅刻されるの、嫌いです。」
「あ、そ。嫌いなのね、俺のこと……」
ガックリ。修理費用を求めた時よりもあからさまに落ち込んだ様子のカカシ先生に、私は笑顔を引っ込めて首を傾げた。
なんで? という疑問を他の三人へ向けるようにそちらに視線を移せば、こちらはこちらで何故か、おいおい、とでも言うかのような表情で……。
「よ、よーし。四人とも個性豊かで面白い。」
こっちの疑問は残ったままだったけど、どうやら気を取り直したらしいカカシ先生の声が再び聞こえてきたので、まぁ、いいか、とその疑問は捨てる事にした。
「明日から任務やるぞぉ。」
“任務”の言葉に、何とも言えぬ空気になっていた三人のうち、ナルトがいつもの調子を取り戻したように反応した。
それからは明日の任務についての説明をカカシ先生がして、私達がそれを聞く。
卒業生27名中、下忍として認められるのはたったの9名。残り18名は再びアカデミーに戻される。脱落率66パーセント以上の超難関テストという、例のアレだ。
「ま、そういうわけで、明日は演習場でお前らの合格不合格を判定する。忍び道具一式持って、朝5時集合!」
カカシ先生は、そう声高らかに言った。声高らかに、朝5時に集合だと。だが私は知っている。時間どうりになんて来ないことを。
さてどうするか。遅刻されるのが嫌いだと言ってしまった手前、あえて遅く行くという事は出来ないだろう。カカシ先生にとっては問題なくとも、きっとナルト達は5時に集合するだろうし、そうなると、ナルト達からは私は遅刻者になってしまう。
「じゃ、ま。解散。……あ。朝飯は抜いてこい。吐くぞ。」
あぁ、そうだった。ご飯問題もあるのか。どうしようかなー。