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小姓といっても、鉄之助の仕事は他の隊士とそう変わらない。
それは、何でもかんでも自分の目で確認しなければ気の済まない土方の性格と、鉄之助には自分の手伝いをするよりも、剣術に励み、立派な侍になってほしいという兄心のようなもののおかげだろう。
とはいえ、鉄之助と土方は大体にして近くにおり、誰よりも土方の役に立とうとする小姓の存在を、土方が疎ましく思う事は無かった。
「鉄」と短く呼ばれるといつだって「ハイ」とすぐさま若さの滲んだ高めの返事がかえってくる。
しかし今日の返事にはどこか、元気が無い。原因は勿論分かっていた。責めるつもりなど土方には微塵も無かった。

「明日、上に呼び出されてることは知ってるな?」
「ハイ、確か昼頃からそういう予定になってますけど」
「その時にお前の兄貴に会う。向こうも一緒に呼ばれてるからな」
「……そうですか」
「何か、伝言があるなら預かる」

文机の上で蝋燭がゆらゆら揺れて、その度に土方の横顔に黒い影が差す。無表情に見えてその皮の下に秘めているうねりのような感情に、鉄之助は完全に圧されていた。しかし、言わなくてはいけない事は、わかっている。土方の望む答えではないとしても、自分がどう振る舞うべきなのか、夕方になまえと言葉を交わしてからずっと、鉄にはわかりきっていたからだ。

「きっと兄が欲しいのは自分の言葉ではなく、土方さんの言葉だと思います」
「……それでいいのか?」
「良いも何も、自分は副長を信じてますから」

余計な言葉など、必要なかった。きっとこれで全て伝わっただろう。土方の低い「わかった」が、胸の中のモヤを晴らしてくれるのを始めから知っていたかのように、鉄之助はにっこりと笑った。




「おや、土方さん。お久しぶりですね。もっとも先日メールさせて頂いたぶりですけど」

官僚からの簡単な質問と業務報告を済ませてすぐに、馬鹿みたいに広い邸の出口を目指していると、廊下の隅に眩しい白い隊服を見つけた。もう帰ったかと思っていたというか、むしろ帰ってればいいのにと願っていたのとは裏腹に、当の本人は土方の事を待っていたようにも見える。柱に肩をもたれかけ、手にあるのは相変わらずの二つ折りの携帯だった。途端に気持ちだけでも身構える土方とは裏腹に、佐々木は何でもないような、いつもの気の抜けた顔をしている。

「教えた覚えのない相手からメールがくるなんて、つくづくおかしなこともあるもんだ」
「おかしなことなんてありませんよ。あなたのメールアドレスはなまえさんに教えて頂きました。それと、ここ、禁煙ですよ」

無意識に懐にのびていた手を目敏く注意され、イライラが募る。場所が場所だけに穏便に済ませたいのだが、今更説明するのも無駄な程に、この二人、壊滅的に性格が合わない。それを踏まえた上で、こういう取り繕った会話はするだけ無駄だと土方は諦めた。

「単刀直入に言う、お前が誰と仲良くしようが知ったこっちゃねえがな。なまえに妙な真似をして、ウチの馬鹿共が騒いでも文句は言うなよ」
「馬鹿共、ですか。まぁそれは良いとして、もしかして土方殿、私に忠告してます? だったら無駄な気がするんですけどね。私が今までなまえさんに何かを強制したことなど一度もありませんし、これからも無いでしょうから」

わざとらしいことをと思いながらも、確かにその通りなので押し黙ってしまった。
会話している今も止まる事のない指が打っているのは、なまえに対するメールだろうか。考えるだけで反吐が出る。しかし土方にとって、不機嫌の原因がどういう名前の感情なのかはわかっていない。恐らく考えもしないだろう。それすらも三天の怪物にはとっくにバレている。そんな、全てをわかりきったような佐々木の態度が土方は気に食わない。こうやって延々とループしていっても本当にキリがない。
「とにかく!」苛立ちを隠すこともなく声を張り上げるのは土方だった。

「すでによーく知ってらっしゃるとは思うが、俺たちはエリート様と違って、利口に振る舞うことが苦手でな。これだけは覚えといて貰わねェと。後で苦情言われてもどうしようもないからな」
「ええ勿論、あなた方凡人に血の気が多いことは把握していますよ。それから、こちらもわかっておいでだとは思いますが、選ぶのはあくまで、なまえさんです。一体、どちらを選ぶでしょうね? 上司の貴方と、エリートの私」
「……何でそこに俺が出てくるんだ?」
「そういえば、今度の週末になまえさんとデートにいくことになっていましてね。勿論、ちゃんと日暮れまでには返しますからご安心を。あ、もしかしてすでにご存知でした?」

当然のようにご存知ではなかった土方は、口元を痙攣させながら無理矢理笑顔を作り「それはよかったね〜」と嫌みたっぷりに返事をした。一分一秒も早くこの場から立ち去りたかったので、引きつった笑顔のままに目指しかけていた出口へ大股でさっさと歩いていった。
少々うるさい自身の足音と共に、差出人不明の携帯のバイブレーションに思わず八つ当たりをしてしまった。真っ二つに砕けた携帯を見ながら、携帯ショップへ足を運ぶのは今週で2度目だと肩を落としたのであった。



  
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