06

「サブちゃんさん!次はあのジェットコースターに乗りましょう!!」
「そんなに急がなくてもジェットコースターは逃げませんよ」

親子連れやカップルで賑わう休日の遊園地で、一組の男女がお手本のようなデートを繰り広げていた。遊園地のマップを広げる佐々木と彼に注意されながらも、チュロス片手に楽しそうに笑っているなまえは端から見れば、まさにカップル以外何者でもない。

「うわぁ〜 まじありえねぇよアイツ。見廻組だか何廻組だか知らねえけど、俺ならもっとなまえを楽しませれるね!」
「男の嫉妬は見苦しいですぜィ」
「……オイ、マジで見張んのかよテメェら」
「多串くんさぁ、ちゃんと状況分かってる? 真選組のアイドルなまえちゃんが、どこの馬の骨か知らねえエリートにほだされかかってんの! どう考えても緊急事態だろーが!!」
「そうですぜ多串くん。分かってんのかコノヤロー調子乗ってんじゃねーぞ」
「うっせーよ!!それと多串くんじゃないからね!総悟お前覚えてろよ」

二人から少し離れたベンチを陣とっているのは、楽しい遊園地には全く似合わない男臭い三人組である。三人とも着物にサングラスといういかにも怪しい風貌で、しかも内1人は手錠をかけている。彼らが警察(と逮捕された攘夷志士)だというのだから、本当に世も末だ。子供に指をさされても、カップルに影で笑われても彼らの心は折れない。ただ温かな春の陽気とは真反対の、ドス黒いオーラを余す所無く放っている。

「旦那、見てくだせェ。奴らジェットコースターに乗ろうとしてますぜ」
「全く、これだからデート初心者はダメだっつってんだ」
「あ? なんでジェットコースターがダメなんだよ。なまえは絶叫系大好きだぞ」

話に乗ってからすぐ、土方はしまったと後悔した。最早立派な”なまえとサブちゃんの仲を引き裂き隊”の一員である。せっかくの休日をこんな風に潰してしまうだけでも胸くそ悪いのに、何が嬉しくて部下のデート現場なんて見なくちゃいけねえんだ。いつぞやのマヨラ13を思い出しつつ、ため息を吐いた。

「これだからモテねぇ男は困りまさァ。あのね土方さん、今日のなまえが準備に何時間かけてたか、もう忘れたんですか?」
「女の子の頑張りを無駄にしたくなかったら、デートで絶叫系はNGってわけだ」
「……なんとなく、お前らがモテない理由が分かった気がする」

土方の呟きは華麗にスルーされたのとほぼ同時に、二人がジェットコースターから降りてきた。そして案の定、結っていた髪が乱れているなまえを見つけた時のドSコンビの盛り上がり様は尋常ではなかった。

「あぁなまえさん、ちょっと止まってください」
「え? 何ですか?」
「少しだけ、目をつむってもらえますか?」
「?」

なまえは言われた通りに目をつむる。すると佐々木は懐から、あるものを取り出してなまえの乱れた髪の上からひょいとかぶらせた。

「はい、もういいですよ」
「……これ! あ、ありがとうございます!」
「よく似合ってますよ」

いつ買ったのか全く分からない遊園地のキャラクターの耳を模したカチューシャが、なまえの頭の上に乗っていた。園内に入った時からなまえが羨ましげに眺めていることに当然佐々木は気付いており、こっそりと買っておいたのだ。西洋の町並みを再現した建物の窓に自分の姿を映して、嬉しそうに笑うなまえとは裏腹に、さっきまでドヤ顔で悪口を言っていた二人は静かに黙りこくっていた。

「オイ、移動するみたいだが、行かねえのか?」
「……沖田君、俺にもチュロス買ってくれない」
「保釈する時にまとめて請求してますけど、どーします?」
「……やめとくわ」

明らかにテンションの下がっている二人を連れて、一定距離を保ってカップルの後をつけていると、どうやらアトラクション群からどんどんと離れていく。

「ははーん、さてはランチタイムですね?」
「ランチ? ああ、そういやぁアイツ、朝っぱらから食堂に籠ってたな」
「まままさか、なまえちゃんの手作り弁当じゃねぇだろうな……?」
「そのまさかでさァ旦那。でも大丈夫ですぜ、手は打ってありますんで」

沖田がニヤリと笑った。なんだかんだと各々購入したアイスクリームを頬張りながら、話を聞いていた銀時と土方は同じように首を傾げた。
そんなことに気付く訳も無く、なまえは持参した弁当を二つ取り出し、切り株を似せて作られたテーブルの上に置いた。そして、そのうちひとつを差し出して、どうぞと少し緊張気味に言った。なまえは料理が苦手でも得意ではない。故に失敗のバレないサンドイッチを作ってきたのだ。佐々木はじいっと綺麗に詰められたサンドイッチを見たかと思うと、躊躇いも無く一切れつまみ、口に運んだ。

「……どうですか?お口に合いますか?」
「はい、美味しいですよ」

感想への感激そのままに、自分用の少し形の崩れたサンドイッチをつまみあげ、口に入れた。瞬間、なまえの笑顔は歪んだ。

「ちょっと沖田君!? なまえちゃん苦しんでんだけど、一体何してくれてんの!!」
「勿論、タバスコ……の40倍の辛さを誇るサドンデスソースでさァ!」
「つーか何でなまえの方に仕込んでんだよ。普通逆だろ」
「流石に次期警察庁長官にそんなもん仕込める程、命知らずじゃないもんで。まぁ心配することはありやせん、仕込んだのはあの一切れだけですからねィ」
「いや、めちゃくちゃ心配なんだけど!! タバスコの40倍って、ただの激物じゃねえか!!」

なんだかんだと文句を垂れながらも、これでデートを崩壊に導けると確信しているバカ三人の考えとは裏腹に、突然ものすごい勢いで咳き込み始めたなまえに佐々木は、当然のように自分のお茶を差し出したのだ。それをありがたく受け取って、辛さもやっと落ち着いた所でようやくなまえは、今飲んでしまったお茶は佐々木が飲んでいたものと同じで、ようするにこれは間接キスに値するということに気付いてしまい、発火しそうなほど顔を真っ赤にさせた。

「ごごごごめんなさい、お茶、買って返します!!」
「いえ、良いですよ。それより、大丈夫ですか?」
「はい……お恥ずかしい所をお見せしてしまって……」
「私の周りにはなかなか本音で接してくる人がいないんですが、なまえさんは感情表現が豊かで一緒に居て楽しいです。なんだか新鮮で」

「どーいうことだ!! いい雰囲気どころか間接キスしちゃってんじゃねえか!!」
「まぁこれはこれで美味しいですけどねィ」
「にしても何で佐々木の野郎、なまえなんかに構うのかねぇ? 俺には到底理解できん」
「怪物にも、人間の心があったってなれば良いですけど」
「どういう意味だ?」
「だから、あのエリートさんが妙なこと企んでねえと良いなって話だろ?」





結局、見張りの三人が分かった事と言えば、なまえが本当に佐々木のことが好きで、また佐々木はデートでもやはりエリートだということだけだった。楽しげなデートを一日見せつけられ、歓喜と落胆を繰り返していた男達にのしかかる疲労はいつもよりも重たいものだった。観覧車から降りてくる時に、佐々木がさりげなく手を貸したことによって、銀時の持っていた手を繋いだという記録も、打ち破られた。

「どうやらキスはしてないみたいですぜ」
「そりゃな……そんなんしてたら、もう銀さんなまえちゃんの顔見ただけで涙腺飛び散るわ」
「ん? オイあれ……」

土方の指差した先では、なまえがふらついて倒れそうになったのを佐々木が抱えて助けるというシーンが繰り広げられていた。まるでドラマのワンシーンのような光景をみて、そういえばと能天気な沖田が声をあげる。

「今日なまえ、寝てないんですよね。誰かさんが仕事山積みに押し付けたせいで。そりゃ倒れるわな」

それを聞いて、とうとう銀時はブチ切れた。涙目の銀時に突然殴り掛かられた土方が蹴り返し、という風にいつも通りとっくみあいの喧嘩に発展するのにそう時間はかからなかった。それをぼうっと観戦していた沖田が、ふと我に返り、なまえと佐々木の方へと視線を戻す。しかし、そこにはすでに誰もいなかった。
唖然とする三人をよそに、寂しげな閉園を知らせる音楽が鳴り響いていた。



  
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