推しにガチファンなのが知られた件

※私のガチ勢が目の前にいる件
HiMERUバージョン

最近よく見ている配信者がいる。
元ゲームプレイヤーのシーナだ。オンラインゲームで上位ランカーだったらしい彼女は、とあるストリーマーの配信でゲームの引退を発表した。この頃は詳しくは知らなかったのだが、個人で配信をすると一部で盛り上がっているのを見かけ初配信を視聴した。
優しい声と人柄に癒され、初配信は最初から最後まで見届けた。感謝の気持ちで投げ銭をしようと試みるが、金額が選べるようでどうするかと悩む。他にも同じ考えの人が居るようでちょこちょこ飛び交っている。シーナは申し訳なさそうに感謝を述べる。
HiMERUはこの配信に癒されたし、有意義な時間だった。それを表現するには上限をスマートに投げて去るのが良いのではないかとたどり着いた。
 
「えっ・・・帽子のアイコンの人。無理してませんか?」
 
シーナは慌てている。無理はしていないし、むしろ足りないくらいだ。コメントは残さず最後まで視聴して画面を閉じた。
この初配信からHiMERUはシーナの配信は毎回視聴している。
 
「こんばんはー。今夜はおやすみ配信です」
 
いつもの決まった週にシーナの配信が始まった。今日は視聴者と雑談をしながらおやすみと一人一人に告げている。コメントを書き込む事はないのでHiMERU宛におやすみと言われる事はない。
落ち着く声のトーンで横になりながら聞くと、今にも眠ってしましそうだ。こんなに癒されることがあっただろうか。シーナは精神安定剤や睡眠導入剤のような効果があった。
 
「そろそろ皆さん眠りましょうか」
 
締めの挨拶に入りかけたので今日も感謝の投げ銭をする。
 
「帽子さん来られてたんですね。いつもありがとうございます。おやすみなさい」
 
おやすみなさいの破壊力は凄まじく、心は満たされた。目を閉じればアラームが鳴るまで一切起きることはないだろう。
 

 
毎回上限額の投げ銭で視聴者の中でも認知され始めていた。今日は帽子さんは見ているだろうか、俺が知る限りでは皆勤賞。帽子さんは石油王などとコメントを見かけた。
今日は2Dのお披露目である。ファンが制作しシーナにプレゼントしたらしい。今までのリアルな存在が感じられる首から下の配信も良かったが、シーナの表情に合わせて変化するバーチャルな姿も悪くはない。
今日の配信も良かったと感謝の投げ銭をすると、視聴者がコメントでシーナを煽った。
 
「帽子さん、シーナとっても嬉しいな」
 
自分宛のこのセリフはなかなかなダメージだ。気が付けば、それは良かったと追加で投げていた。
  
「帽子さん、もう大丈夫です。シーナはお腹いっぱいです」
 
今日の彼女はいつもより尊い。今日も有意義な時間だった。終わった配信画面を満足気に閉じた。
 
シーナのコミュニティにグッズの情報が出ていた。ある企業とコラボで受注生産で発売するようだ。バーチャルのシーナが色々なグッズになっている。本人に少しでも還元したいと購入するものを考えていたが、何を悩む必要がある。全部買ってしまえばいい。
こんな機会は滅多にない。初動が良ければ今後も色々と幅が広がるだろうと。
 
Crazy:Bの活動が忙しくなり、忙しなく過ごしていた。それでも癒しであるシーナの配信は追っていたが。
呼び鈴が鳴り、指定していた時間に荷物が届いた。
 
「申し訳ありません。お荷物が濡れてしまいまして、中身の確認をお願いします。破損していた場合、補償の対象となりますので」
 
謝る配達員の言葉に何を購入していたか考える。日用品だったか。伝票を見るも見慣れない社名。そう言えばシーナのグッズが届いたと見かけた。それに違いない。濡れて変色してしまった箱を受け取ると開封した。
中はしっかりと梱包されており緩衝材も濡れてはいない。中は大丈夫なのではとひとつひとつ取り出す。
 
「シーナ・・・」
 
配達員の声に顔を上げると、彼女は驚いた顔をしていた。シーナを知っている人に初めて出会い、会話を広げようと試みるも、彼女は中身の無事を確認すると足早に帰ってしまった。
そう言えば彼女の声はどことなくシーナに似ていた。シーナのグッズに浮かれて脳が都合のいいように変換したのだろうか。

後日、いつも配達に来る男に、この前はうちの椎名が荷物を濡らしてすみませんでしたと言われ戸惑った。椎名?シーナの声ににている椎名。これはもう本人ではないかと。
もしそうならば、推しにガチファンなのを見られてしまった。どうか帽子のアイコンがHiMERUだと気付かないで欲しい。
 
「中は無事だったので、何も問題はないのです」
 

 
天城がどうしてもシナモンで仕事の話があると言うので桜河と渋々向かう。見慣れないスタッフを見かけ、天城はほいほい声を掛けに行く。振り返った姿を見て心臓が跳ねた。この前のシーナであろう人がいた。
 
「僕のお嫁さんっす」
 
椎名が彼女の横に立ち笑っている。言われてみれば同じ椎名だ。でもどことなく2人は似ている。
 
「違います。ニキくんのいとこのナマエです」
 
いとこだったのかと安堵する自分がいる。なぜ安心した?自分はいちファンだ。それ以上に特別な感情は抱いて居ないはずだ。もやもやとした感情が胸を渦巻く。

ケーキを無言で食べ進める彼女は、早くこの場を去りたいようだ。やはりガチファンが居るからだろうか。ご馳走様と礼を言う彼女に椎名が悪戯な笑みを浮かべて言った。
 
「美味しいケーキ食べれて、シーナとっても嬉しいな。って言わなくていいんすか」

椎名は笑ってそう言った。天城と桜河は分かっていない。彼女はシーナで間違いないのだ。推しに認知され急にいたたまれなくなる。椎名は続けてHiMERUがシーナのファンであるとカミングアウトした。以前ぽろっと話したのが凶と出る。本人を前に辞めてほしいが椎名は楽しそうにしているばかりだ。
彼女と視線が絡み合ったまま、長い時間が過ぎている気がする。椎名は何か耳打ちしているがこちらには全く聞こえない。
 
これ以上に彼女を知るとシーナを、ナマエを、違う感情で見てしまうかもしれない。
疑念を確信へと変えさせた椎名に聞きたい。HiMERU はこれからどうすれば良いのかと。