クレイジーな奴らにはクレイジーなマネージャーをと配属されてきたミョウジナマエ。
「普通だな」
「普通っすね」
「普通やわ」
天城、椎名、桜河が声を揃えて言う。普通の女だとHiMERUもそう思った。
「秀でて何か出来るわけではありませんが、精一杯頑張ります」
そう思っていたのも数日のみで、今ではメンバーみんなクレイジーなマネージャーだと認識している。
「ナマエちゃん、おはよ」
天城がナマエさんの耳へ息を吹きからかうと、ぎゃう!と叫び声を上げた。そこまでは認識できていたのだが、ほんの一瞬で忽然と姿を消していた。
「ナマエちゃん?!何してるんすか!」
驚く椎名の視線の先にはナマエさん。彼女は天井の隅に両手両足を突っ張り、張り付いていた。なぜそこに。いつの間にと天城も驚いている。
「すみません…身体が勝手に…」
習慣で天上に張り付く奴なんて居るわけがない。興味本位か問い質す天城にナマエさんは笑いながら答えた。
「私、忍びの末裔なんです」
誰が予測できただろうか。この場にいる全員が面食らって黙り込んだ。
「あ、でも里を抜けたので抜け忍ですが」
この頃よく目の当たりにする異常な身体能力は、忍とあれば納得は出来そうである。
「里側から追われたりなど問題は無いのですか?」
「私は落ちこぼれでしたので…我が一族の長兄が秘伝の術も継いでますし、私が里を出ても問題ありません」
何か思うところがあるのか天城は「ふぅん」と話を流した。忍者というワードに興味を持った椎名がキラキラした瞳で問いかけた。
「ナマエちゃんも火とか水とか操れるんすか?」
途端にしょぼくれた顔をしたナマエさんは悲しそうに笑う。落ちこぼれと言っていたのを椎名も聞いていたであろうに。
「術は全く…体術くらいしか取り柄はありません…強いて言うなら房中術ですかね?」
「なんすか?そのぼーちゅーじゅつってのは?」
何それ美味しいのと言わんばかりの椎名。天城にいたってはにやついている。
「卑猥なものと思われがちですが、男女で交合により生命の延長を求める古代の養成術ですよ」
「HiMERUさん!その通りです」
感激したのかナマエさんは瞳を輝かせ喜んでいる。
感情が昂り掴んだHiMERUの腕をぶんぶんと振っている。
「僕は学がないからよく分からないっすけど、ナマエちゃんとエッチな事すれば長生きできるって事っすかね?」
「俺っち興味あんなぁ。ナマエちゃん?」
「承知しました!」
何を思ったのかナマエさんは快諾し、スーツのジャケットを脱いだ。そのままシャツのボタンに指をかけ始めた所で止めなければと彼女の元へと足を進めた。
「こんな所でお辞めなさい」
制止させようと両肩を掴むと、気がついた時には視界は暗くなっていた。花のような甘い香りが鼻腔をくすぐる。
「わぁ!ナマエちゃん!ストップ!ストップっす!HiMERU くん死んじゃう!窒息死っす!」
椎名の慌てた声が聞こえたと思うと、呼吸が出来ない事に気が付いた。
腰に絡まる足はがっちりとホールド。首に回されている腕、そして視界を塞ぐ柔らかな感触。
HiMERU は今、締め上げられている。
「あ!ごめんなさい」
拘束していた力は弱くなり、腰と首に回されていた手足も消え去った。
大きく深く呼吸をすると目の前には頭を深々と下げたナマエさんが居た。
「背後を取られると反撃してしまう習性で…」
「いえ、HiMERUも迂闊でした。頭を上げて下さい。このままでは色々とよくありません。早く服を整えて下さい」
頭を下げた事により、ボタンを外し大きく開いたシャツから胸元が覗いている。
頭を上げたナマエさんは胸元を確認して「お見苦しいものをすみません」とボタンに手を伸ばした。
「HiMERU さん、この事はどうか上には黙っていて貰えませんか…もう職を失いたくありません…」
驚きはしたものの、上に報告するつもりもなかった。このまま許すつもりでいる。
「その代わり何でもします。偵察、暗殺なんでもござれです」
「偵察も暗殺も結構です」
しょぼくれた顔で「そうですか…」と言う。悲しい顔をさせたいわけではないのに、今日はなぜか上手くいかない。これは全部、天城のせいだと思いたい。
♢
寮には帰らず、明日の仕事の関係でホテルへと向かう。
今日の疲れを残さずに明日に備えたい所だ。シャワーではなく、湯船に浸かって心身共に癒されようと考えていると、バスルームに人影がある。
部屋を間違えたか。いや、それはありえない。恐る恐るドアを開けると背を向けていた人物が振り返った。
「HiMERU さんお疲れ様です。湯加減いい感じですよ」
なぜここにナマエさんが。いや、もう考えるのは辞めよう。どうやって入ったと問えば、天井裏やら外壁を登ってなど言うのだろう。
「燐音さんが上には黙っといてやるから、メルメルの夜の相手を頼むと」
天城は余計な事を吹き込んだようだ。「精一杯頑張りますね」と意気込む彼女に何も言えない。
「お背中流しましょうか」
声の方へ振り返ると、スーツのジャケットを脱ぎシャツだけの姿のナマエさんが視界に入る。
もうどうすればいいか頭も回らない。シャツ一枚の姿をぼんやりと眺めていると、自身の胸を下からすくい上げるように掴んだ。
「HiMERU さんはおっぱい星人だと伺いました。私のじゃボリュームが足りないでしょうか」
天城、次会ったら殴ってやる。
ゆっくり距離を詰められ、思わず後退りすると背中が浴室の壁に触れた。
締め上げられた時に感じた香りと柔らかい感覚が急に蘇る。こんな時にと思いはするが、困った事に身体は正直で、ぴくりと反応してしまう。彼女の色っぽい視線に囚われ、この場から動く事も出来ない。
「大丈夫です。全て私に委ねて下さい」
最後に視界に入ったものは、自身の上で美しくも乱れたナマエさんの姿だ。
♢
翌朝、驚くほどに目覚めも良く、疲れ一つない。洗顔後の化粧水も日焼け止めも必要ないほどに調子がいい。
これが房中術の効果なのだろうか。部屋を見渡すがナマエさんの姿はない。
机の上にはメモには【お仕事頑張って下さい。今日は燐音さんから依頼を受けたので明日また伺います】と綺麗な字で書いてある。
急いで携帯を握り天城の番号を探す。通話ボタンを押すと3コールもしないうちに繋がった。
「もしもし天城、どういうつもりですか」
「どうしたメルメル?焦っちゃって」
天城の無邪気な笑い声が響いた。