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 何度も訪れたことのある一軒家の扉の前に立ち、鞄から家の鍵を取り出す倉須の横顔を見つめる。倉須が何を思って何を考えていたのかは分からないけどここまで俺たちは一言も話すことなくたどり着き、俺は倉須とのこれからのことを悶々とひたすら考えていた。
ああ、どうしよう。泣かないよな。俺も倉須も。
そんな俺をよそに倉須はガチャ、と鍵穴に自分の鍵を回して扉を開けると、無言で俺が先に入るよう促す。視線は無人の家の中に向けられている。
その声に対して俺が「ありがとう」と出来るだけ何時もの感じを装って倉須の家の玄関に足を踏み入れ、家主よりも先に靴を脱いで家に上がろうとすると、後ろ手で鍵を閉めた倉須が「なあ」と小さく呟いて俺に話しかけてきたのでそれに答えるように靴に手をかけながら後ろを振り向く。

「ごめん」
「…………何に謝ってんの?」

視線を下に落としながら立ち尽くすようにして呟いた倉須の言葉に俺は眉を寄せ、靴から手を離して倉須を見つめる。

「名字を、その、困らせたこと」

そう言うと顔を上げ、近付いた俺を見つめて申し訳なさそうな顔をする倉須に俺は唇を噛む。そんな顔させたくないのに、させたのは紛れもなく俺自身。
動揺したとはいえども、倉須を不安にさせるのは俺の望んだことじゃない。それにまだ三月八日からそんなに日にちも経っていないのに、唯一の俺が倉須に心の傷を負わせるなんて最低の行為だ。

「何も悪いことしてないだろ」
「…………でも、ごめん」
「謝らなくていい、」

泣きそうな表情で謝ってばかりの倉須の手をとって握ってやれば倉須はそんな俺を悲しげに見つめてくるので、俺はズルい方法だと分かっていながらサイドエフェクトを意識して『優しすぎる』という視線を読み取る。
優しくなんてない、だって俺はそんなこと言いながらも倉須の気持ちには応えてやれないんだから。

「俺は…………名字が居てくれればそれでいいんだ」
「、…………」
「だって、すきだから」
「す、」
「すきだよ、すき、大好き」

倉須は俺の手を握り返しながらゆっくりとその手を自分の方に引き寄せていき、俺と自分の靴の先が当たりそうになるような距離まで縮める。
俺より少し背の高い倉須をほんのすこしだけ見上げ、倉須の口から紡がれた「すき」の意味に心を締め付けられながら、どうしようもなく報われない行く末を予測して言葉を吐く。これから倉須は俺から離れなきゃならないっていうのに、こんな状況にしないでほしい。

「すきって、恋人とかの、すき?」
「そうだよ。名字とだからスキンシップもするし、抱きつくしかわいいと思うし、すきって言う」
「…………男だし」
「そんなの俺には"今更"関係ない。キスだって、なんだってしたい」

そう言うと、反対の手で何時ものようなスキンシップで頬を撫でる。
心のなかではもうこのスキンシップを受け入れたらいけない気がして苦しくなるけど、振り払ったら倉須が壊れてしまいそうに感じて眉を寄せるだけに留める。

「…………俺のすきは、そのすきじゃないよ」
「、そうみたいだな」
「普通、そうなんだよ」
「…………そっか」


倉須を含めたあの幼馴染み三人の仲が良すぎただけなんだよ。


「…………倉須は、今でもあの幼馴染み二人が好きなんじゃなかったのか」
「…………もう居ないだろ」
「、そう、だけど、会いたいって」
「今好きなのは名字だけだよ」


こいつは、自分と俺の関係をどうしたいんだ。幼馴染みの女の子が消えてから親友と倉須の二人がどれだけ"歪んだ関係"になっていたのかを知っている俺は、今の倉須がその歪んだ関係を今度は俺で代用しようとしてるということに気づいている。
三人が元々過剰なスキンシップをすることも知っていたけれど、幼馴染みの女の子が消えてからそのスキンシップに含まれる愛情とか友情とかが滅茶苦茶になって、倉須と親友くんの二人がお互いにただぽっかりと空いた穴を同性同士で"恋人"のように埋めようとしていたことを知っている。
俺や他の人が見ていないところで二人が何をしていたのか、当時の俺には知らないフリしかできなかったけど、今は俺が当事者になっていて。

「おまえが二人を失ったことで空けた穴を、俺が埋めることが、すきに繋がったのか」
「、…………」

俺がそう言うと倉須は一瞬目を見開いてから俺の頬にあった手を首へと移動させ、後ろからではなく前から首に抱き付いてきた。耳元にかかる倉須の息に少しからだをよじらせながら、掴んでいた倉須の手を離す。

「…………別に、俺は倉須が楽になるなら代わりで構わなかった」
「、えっ、」
「今までだって俺はあの二人の代わりだと思ってここまで来たし、おまえがそれで救われるならそれで良かった」

毎年三月八日に連絡をして話を聞くのも、ほとんど毎日側に居ることも、スキンシップが激しいことも、倉須が救われるなら迅の言っていたように俺が報われなくても救われなくても構わなかった。
いや過去形じゃない。迅は『これからも俺は救われない』ってことだったから、多分どんな選択肢を選んでもアキちゃんの代わりになろうとしてる俺はこれからも救われない。それでも構わない。
でも、こんなこと一生言うつもりはなかったし、これを聞いて罪悪感を感じているだろう倉須のことを考えなくても済む筈だったのに。

「でも、俺にそういう意味で執着するのはだめだ」
「…………、」
「俺が少し過保護すきだのかもしれないけど、でも、俺をそういう風にすきになるのは許さない」

そう溜め息混じりにキッパリ言うと倉須は俺の首に両手を回して俺をぎゅっと抱き締める。視線が向けられてないからどんな気持ちでいるのかわからないけれど、これは何時ものように抱きついているんじゃない、何となく、感覚的に抱き締められているような気がする。

「何でだめなの? 俺の穴を埋めるのはいいのに、俺がすきになるのはだめなのかよ」
「…………ワガママ言うな」
「、我が儘だけど! それでも名字が、欲しい、」

俺のものになってほしい、と抱き締める力を強めて続ける倉須に俺は少し驚かされながら、冷静になるため倉須の後頭部の髪の毛をさわさわと弄る。じゃあさっき本屋に行く前、ボーダー関連で忙しくて最近構ってやれていない俺のことを『俺のものじゃないもんな』とか言ってたのは、強がりだったのか。あのとき俺が逸らされていた視線をこっちに向けさせて視線を読み取っていれば、今日迅から言われた言葉を思い出してこれを回避できたかもしれないのか。
というか、俺が二人の代わりになってることに対して何も言わないってことは倉須も"そういうつもりで"俺と関わっていて、これからもそういう意味で関わっていてほしいってことになる。まあ、嘘を吐かれるよりはいいんだけど。本当の俺として正直に言うと、やっぱり正面切って代用だと言われるのは、少し寂しい。"昔の俺"はアキちゃんのような聖人君子にはなれない。
それにこいつがボーダーに入隊するとして、俺の推測通り二人とも近界民に拐われたとしたなら倉須は探しに行くのだろうか。そうだったらやっぱり、そこには代用の俺はいない方がいい。遠征のことはまだ言えないから、この理由は倉須がボーダー入隊するまでとっておこう。

「俺じゃ、だめだよ」
「、だからなんで…………何でそうやって、離れるのさ」

そう涙声で言ってから、倉須は俺の首に回す手を強める。

「それは、」








<好きな人の未来が明るくなればいいなと思ってるだけ>


「? 、ん?」





あれっ?
なんで今、
迅の顔が出てきた?
しかも、今日のよくわからない時の!

「名字…………?」

倉須の言葉に答えようと改めて自分自身のことを見つめようと何かを呟いたままフリーズした俺に、不思議に思ったらしい倉須が抱き締めていた力を緩め俺の顔を下から覗き込む。
そしてその距離の近さと倉須の潤んだ目に現実に引き戻された俺は瞬きを繰り返し、目を泳がせながら言葉を捻り出す。

「えっと、その、」
「、焦ってる」

落ち着け、と俺の顎を掬いとって自分の見やすいように顔をくいっと上げてくる倉須に、俺は全然落ち着かないまま倉須の目の端の雫に視線を集中させる。
あ、泣かせてた。

「…………俺はお前の過去に関わりすぎだし、」

その倉須の状況に心を鎮めさせられた俺は強張っていた肩を撫で下ろし、倉須の瞳をじっと見つめて言葉を吐く。すると倉須は納得いかないのか気にさわったのか、ぐぐっと自分の顔を近付けて「だめ、ちゃんと話せ」と命令してきた。え、立場…………。

俺は、なんだろう。
俺はアキちゃんに与えてもらった役割があるから孤児院のことが一番だし。それ以外で言えば、ボーダー関係だと市民を守るとか他の隊員の助けになりたいとか色々ある。守らなきゃならない孤児院と守りたい市民の人達。そしてその守りたい大枠のなかに倉須も居て、今はその大枠なかに誰が一番とかはない、皆大切で皆失いたくない。俺のエゴだとしても。

「おまえの一番は埋まってるだろ、」
「…………そのずっと前に空いた穴には、名字がいるんだって、」
「っ…………俺の一番は、もう、埋まってるし」
「…………だれ」
「あー…………だれっていうか、孤児院のみんな」
「それは、恋じゃないでしょ」

するする、と俺の腰に手を下ろす倉須に俺は視線を逸らして「そうだけど」と返す。

「じゃあ、そこに俺を置いてよ。その恋愛の一番に」
「…………だから」



<子供扱いするなって>


くっそ、だからなんで。
今日の深夜から早朝まで一緒に居たから?


「、だめなものはだめ、」


…………埋まってなくても埋まってても、倉須はだめだ。
だって、これからクラス会や頑張ればボーダー入隊だって出来るのに、折角世界が広がるっていうのに俺がそこのポジションを取ったらだめだ。そこのポジションだけじゃない、色々なところを他の人に譲っていかなきゃならないんだから。
でもこれを言ったからってコイツは「はいそうですか」って諦めないだろうし、寧ろむきになってクラス会なんて出ないって言い出しそうだ。

「…………今は、でしょ」


すると、ぐるぐると考えているわりに一言しか発しない俺にしびれをきらしたのか、倉須は俺にポツリとと呟き返す。
そしていきなり俺の腰を自分のほうへ引き寄せると、じっと俺の目を見つめて『決心』の視線をぶつけ、俺の唇に親指を押し付けてから意思の強さを表した表情で言葉を放った。





「だったら、なし崩してやる、」
「、っ」

そう言って反論させまいと俺の唇に親指をぐにぐに、と押し付け、むっと表情を変える。

「んん、っ?」
「うるさい、」

その言葉にも行為にも反論するため口を開きたいが、指が入ってきそうな勢いなので思わず口を閉じる。こいつ…………。せめてもの抵抗として倉須の後頭部の髪の毛を軽く引っ張って離そうとするけれど、それでも倉須は離れようとせず自分の顔を俺に顔に近付けながら言葉を続ける。

「もう知らない、名字のために他人の目を気にするのももうやめてやる。ところ構わずスキンシップして、俺のところに落としてやる」

その言葉に首を横に振ってやめてくれ、と懇願してみるけれど願いは届かない。さっきまでの弱気はどこいった。
そして倉須はそんな俺の態度に不満を持ったのか、じっと唇を見つめて顔を寄せてくると自分の親指を隔てながら軽くキスをする。

「、っくあふ」
「…………なまえ呼んだの? かわいいね」

その唇の感覚に俺が眉間を寄せて倉須の名前を呼べば、当人の倉須は顔を少し離してから俺の瞳を覗き込み、また親指を隔てたキスをする。そのときの視線が妙にあつくて、俺は目を見張る。

「、ん、む」
「あ、なし崩れた?」
「んん、」
「じゃあ、まだダメ」

律儀に首を小さく振る俺に意地悪そうな顔をして『落ちてこい』と視線を向けてくる倉須は、わざと音をたてて親指越しに俺の唇に自分の唇を何度も重ね、強く腰を引き寄せる。
その度に唇の端に触れる倉須の唇に俺は脳内がおかしくなりそうなくらい動揺し、髪の毛を引っ張ることも忘れてされるがままになる。


あ、だめだ、



「、くあ、す」
「っなに?」

唇が離れた瞬間を狙って倉須の胸をぐいっと押し、俺の唇に当てている手を掴んで引き離すと倉須は俺の掠れた声に少し『興奮』の視線を向けてた。やめろ、そんな目で見んな。

「い、いい加減にしろ、俺は」
「絶対やだ」
「…………まだ全部言ってない、」
「諦めろ、とか、やめてくれ、とか言うんでしょ」


そりゃそうだ。


「だから絶対やだ、我が儘だし狡いけど、それでも俺のそばに名字が居てくれるんだからなし崩さない手はない」
「、はあ?」
「だって相手もいないんだから、いいじゃん」

さっきの泣きそうな表情で俺を正面から抱き締めてくる倉須に、俺は何故か『理屈は通ってる』と納得しそうになる。
だめだ、心を強くもて。俺の場所が空いていたとしても、お前の場所に俺が入るのは駄目だろ。俺はなし崩されないぞ、絶対だ。






「だいすきだよ、名字」
「……………わかったから、離せ、」



ただ、これはなし崩されたわけじゃないからな!


               ◇◆



 あれから既成事実を作られそうになったところを逃げ出し、俺は自室で倉須から来たおやすみメールにくっそ適当に返事をして明日の学校の準備を済ませ、暗闇のなかベッドに入って携帯を弄る。
午前中に同じ内容で来ていた出水くんと陽介くんのやり取りの結末は、最初が同じでも最後は違った。出水くんの場合だと競争していたことをキレ気味に認められた。そしてその競争の理由が『どちらが好かれているか』というものだったことを聞きかされたので、可愛さに悶えそうになりながらそうなった経緯を聞くと、

『だって、あいつだけ名前呼びじゃん』

と返され、結局可愛さに悶えた。
そしてそれに対して俺が、『初対面のとき陽太郎がそう呼んでたから、名字知らなかっただけ』と返すと出水くんが『俺も名前で呼んでよ』とハートの絵文字をつけて送り返してきたので、速攻で『公平くん』とハートの絵文字を付けて返した。きもいって笑われたけど全然大丈夫。
陽介くんの場合は、競争については『そうでーす』程度で終了し、次に送られてきた『そんなことよりデートいつっすか!』ということについて話が続いた。デートと言ったらなんか、あれだけど、つまるところ俺が奢るって言ったのにまだ奢ってないから早く行きましょう、って言うことだろ。なので俺は出…………公平くんに奢っただけで陽介くんには奢ってない状況に謝りを入れてから『いつ空いてる?』と確認をしてから『土曜の午前の防衛任務の後』と返ってきたのを見て首を傾げた。俺も防衛任務だ。
その日の午前の防衛任務場所を聞いて陽介くんが三輪隊だということを初めて知って驚きつつ『俺もその時間帯に防衛任務だから、そのあとで』と返した。すると、

『マジ!? 運命感じるわ!』

と返ってきたので、俺が陽介くんに奢る運命って何だろうと思いつつも、かわいかったので『よかったね』と返しておいた。スルーはしなかった。
そして今、そんな二人のやり取りを見返してにやにやしているわけだけど、これは別に倉須のことを考えないようにしている訳じゃない、別に逃げてなんかない。クラスのやつから一斉送信で送られてきたクラス会の日程と出欠確認の期限日を頭の端に置きつつ、明日にでも倉須に参加するよう言っとかないとなあなんて思ったせいで倉須の声や唇の感触を思い出し、本能的に壁に頭を打ち付けたとか、そんなことあるわけない。


<だいすきだよ、名字>





「うわあああああ…………」


結局、陽介くんの文面を見ていても思い出すのは倉須、公平くんの文面を見ていても倉須。
この負の連鎖から抜け出すにはどうすればいいんだ、と小声で叫びながら携帯を放り投げ、顔に手を当ててベッドの上をゴロゴロと転がっていると、ふと、倉須と話しているときに迅の顔が浮かんできたことを思い出した。

「そうか、! 迅のほうが倉須より強いのか!」

がばっ、とベッドから起き上がり、自分が何を言っているのか分からないまま取り敢えずこの状況から脱却したい思いだけで迅のことを考える。迅かあ…………。迅とは今日の朝会ったばかりだけど、アイツ、今日のこと未来視してたのなら今日のことがわかっていたということ。なら迅はそれについて俺が"救われない"って言ってて…………だ、だめだ! 他のもっと違うことを考えろ!

「…………迅の、顔?」

いやまてよ、顔か…………。まあ、迅の顔もまあまあ好きだよな、俺。
なんていうか、目がいいよ。目が。音も洋からのお墨付きだし。
あとは…………耳が出てる髪型もいいよな、ピアスとか開けないのかな…………あ、学生か。それに迅は甘い匂いするよな。ぼんち揚ばっかり食べてるくせに。
あと嵐山は…………笑顔が輝かしいよな。ポスターの時みたいな営業スマイルじゃなくても、爽やかな風を操れている気がする。
目も大きいし。怒ったらどんな顔するのかな、少し見てみたいかも。
あ、マンチカンの雑誌あげよう、俺色々思い出すから要らないし。
次は、じゃあ来馬。
来馬は優しい気遣いが無意識でもできます、ってオーラが出てるよな。
この前鋼くんが俺のあげたマグカップを使ってる来馬の写真送ってきたっけ。ふわふわした雰囲気なのに、身長が意外と高いし、年下なのにため口で呼び捨てなのも許してくれるし。

「あー、よし」

ランダムで三人の顔を思い浮かべていると倉須とあった事実が薄れて段々上半身を起こしているのがダルくなった俺は、後ろからベッドに倒れこむ。
明日は木曜日、哲次の実験台になる約束をしている訳だけど、実際に何をするかという詳細はあまり聞かされていない。もう一人が誰なのかも聞かされていないし、模擬戦をやるとしてもどういう組み合わせでやるのかとかも気になるところだ。というか、俺はスコーピオンの使い手として全く役に立たないレベルの底辺で、慶から風間さんの連絡先は教えてもらっているにしても昨日今日の話だからまだ実際に指導を受けた訳じゃない。何も成長していないのは風間さんとの戦闘結果を知っている哲次も把握してて当たり前なのに、それでもこの日にちに設定したのはなにか理由があるのだろうか。

「まあそれも、この時間帯に聞くのは無理だな」

俺はどうやら夜型の人間らしく、徹夜をしたから眠たくなるはずなのに夜になると眠気が何処かへ飛んでしまい零時になっても寝られない始末になっているが、いくら俺が暇でもこんな時間に連絡をするのは常識的ではない。なら解決方法としては明日の朝に聞くかその時になるまでお楽しみにしておくかの二択だけど、俺のことだから「まっいっか」ってなって自然と後者になるんだろう。
あとは俺が寝ればいいか、と一人でそう納得して布団を被り直して充電器を携帯に差し込んでから真っ暗な天井を仰ぎ、目を閉じる。
よーし、寝るぞー。久々の睡眠だー。


「…………」


<だったら、なし崩してやる、>


「…………、」


<、我が儘だけど! それでも名字が欲しい、>





「…………あ、今日も寝れないわ」

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